新人霊媒師アリス

日下コノミ

第1話

 

 時は昔。アリスは代々伝わる霊媒師の家系のただひとりの女の子である。ちなみに兄二人とは血が繋がっていない。

 15歳の誕生日、とうとうアリスは本格的に悪霊を祓うため村の外に出ることを許された。

「やった…!とうとうあたしも外に出られるんだ!これからバリバリ霊媒師として活躍してやるんだから!!」

小柄な身体をめいっぱい伸ばしてアリスは拳を高く振り上げた。

「よう、はりきってるじゃん。アリス」

片手に酒を持ちながら声をかけてきたのは近所に住む兄貴分のエドワードだった。五つ年上のこの村に似合わない色男でいつもアリスを子供扱いしては可愛がっている。

「そっちこそ、あたしの生誕祝いだからって飲みすぎないでよね。明日からあたしはアンタと組んで初仕事なんだから。二日酔いの先輩のせいで初仕事失敗だなんてごめんだから」

「んなカタくなるなって!力入りすぎてたらうまくいくもんもうまくいかなくなっちまうぞ?」

「ほざいてな。あたしはもう休む。明日は早いんだからエドも程々にしてよね」

「へいへい」

(朝まで飲む気ね…コイツ)

アリスは更に注意してやりたかったが、これでもエドワードはこの村一番の霊媒師だ。自分がそこまで偉そうに言える存在ではない。気安い関係を許されるのはひとえに彼がアリスを妹のように可愛がっているからだ。

(あたしは、自分の立場はちゃんと分かってる)

 未だ続く階下の宴会の音を遠くに聞きながらアリスは布団に横になった。窓には星がきらめいている。

「…こんな小さな村で一生を終わるのはごめんよ」

 そのためには霊媒師になるしかない。アリスはそっと布団から抜け出して欄干に立って上から見下ろしてみた。

 小さな村。緑の山々に囲まれて質素な家がぽつりぽつりと立っている。世間から隠されたようなこの奥深い村は代々有能な霊媒師を輩出し続けて栄えている。

 けれどもその数は年々減少し、ほとんどの者たちはこの村で畑などの小さな営みをして一生を終える。霊媒師の村の秘密を守るため、霊媒師以外の村人は一生村の外へ出ることは許されないのだ。

(まっぴらごめんよ、そんなの) 

幸いにも、アリスには霊媒師としての才があった。その能力は赤ん坊のときからはっきりと現れていた。才のある者は体にある印が浮かぶ。これにより幼少時から霊媒師としての訓練が始まるがそれでもやはり素質の上下はある。アリスは常に努力を欠かさず最上の成績をおさめてきた。

「明日の初仕事、あたしは必ず成果を上げてやる」

アリスは力強くつぶやいた。



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