色が見えると言い始めた後輩

鋼音 鉄@高校生

心の色

「先輩、アタシは心の色が見えるんですよ」

「はー、なるほどなあ……はぁ?」

「『はぁ?』って何ですか、『はぁ?』って」

「すまん、心の声が洩れてしまったみたいだ」

「失礼ですね、先輩は」


ぷりぷりと怒りを露わにしている少女は萩原紅はぎわらべに神田陸音かんだりくおんの後輩であり、秋桜高校の二年生だ。陸音からの紅の評価は、時偶にバカな事をやらかす一般人と完成を持った常人だと感じていたのだが、厨二病だったのかもしれない。


もし紅に心の色が見えていたとして、見えている様子は発見できていない。見えているのであれば、恋や愛、性対象として見ている相手には適当にあしらっているだろう。紅と陸音は一年以上の付き合いなのだが、知らぬ相手、好意を抱いていない相手からのその感情は嫌悪の対象でしか無いのだろう。


感情を隠す事は得意なのでは無く、ポーカーフェイスとは真反対と言っても良いだろう。元々心の色を見る能力があったのなら、嫌悪の対象として見ているだろう。今厨二病が発生したのかと思い、紅を生暖かい瞳で見ていれば、紅から慌てたような声を掛けられた。


「待ってください、待ってくださいよ先輩!私は厨二病じゃありませんからね!?本当です、事実だけしか言ってません。あのカラス丸の心の色を当てて見せます。あの烏丸の色は黒色です」

「それ、体毛じゃん」


自慢気にドヤ顔をしている紅には悪いのだが、烏丸に黒と言えば、一番に羽毛が出てくる。心の色が見れるのを証明しようとしていたのだが、これでは心の色が見えないのを証明しているように感じてしまう。妙な所でポンコツを発揮するな、と考えていれば紅が地面の虫を指す。


その虫は、世界に大嫌いな人が多いゴキブリである。虫が不得意ながらも、証明をする為に体を震わせながら心の色を説明する。


「ちゃ、茶色です……このゴキブリは茶色ですぅ」


泣きながらゴキブリの心の色を説明している所悪いのだが、ゴキブリの体の色は茶色である為、心の色が見える事を証明する事はできていない。その事実に紅も気づいたのか、顔を絶望したように青く染めていた。


「分かった。紅には心の色が見えるって信じるよ。嫌いな虫に指さしてまで説明してくれたからな。信じるしか無いだろ?」

「うぐぅ……ありがとうございます、先輩ぃ。私先輩のような人が側に居てくれて……青色と紫色が先輩から感じる」

「へ?」


信じていたとは言え、突然の紅の言葉に驚愕が浮かぶ。青色と紫色、その二つが何を表しているのかが理解できなかった。


「青は恋心なんです。初恋を表す恋心。そして紫色は覚悟。自分の思いを閉じ込める覚悟」

「……!」


口には出さずとも、陸音の瞳には驚愕が浮かび上がっていた。何時の日か、紅に抱いてしまっていた恋心。心の内側から身を焦がすような恋心。それを紅に話してしまっては、紅と離れる事になってしまうから心の奥側に封じ込んだ恋心なのだ。


嫌悪をされてしまう、そのような感情から陸音の額には冷や汗が浮かぶ。最悪の結果……つまり紅との縁を切られる事に関して恐れていれば、紅の手が陸音の頬に触れる。紅の手は小さく、柔らかかった。その感触が恐怖の心を溶かす。


「私の事、好きなんですか?先輩」

「すき……だよ。……俺はさ、叶わないのは分かってたんだ。どうせ失恋するのは。でも、諦め切れなかったんだ。どうしても、と希望を捨てれなかった。言わなくても分かるよ。お前に恋心を抱く奴なんてお前と一緒に居る資格なんて無いよな」

「先輩、貴方は勘違いをしているようですから言っておきますが、資格なんてありありですよ。私は、先輩ともっと一緒に居たいです。私は、先輩後輩、友人では無くもっと進みたいです」


陸音の頬に触れていた手を、陸音の手に絡める。恋人繋ぎをし、紅は近づく。唇と唇が衝突をし、二人しか存在しない教室でリップ音が鳴る。


「私は、恋人になりたいです。先輩……リク君はどうですか?」

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