あかいいろ

武海 進

あかいいろ

 小さな時から僕の世界は白黒だった。


 心配した両親にあちらこちらの病院に連れていかれて検査をしたが原因は分からなかった。


 体の障害や病気というよりは心の問題なのでは、と言われて心療内科や怪しいスピリチュアル系の団体の施設になんかも行ったが、結局効果は無く、僕の世界はずっと白黒だった。


 色々と苦労はあったが、周囲の支えもあってこれまで平穏無事に暮らしてきた。


 だが、友人はおろか両親にも言っていない秘密が一つある。


 白と黒の他にもう一つだけ見える色があることだ。


 それは赤色。


 ただ、赤色と言ってもなんでも見えるわけでは無い。


 トマトや郵便ポストは赤いらしいが白黒だ。


 唯一赤いと識別できるのは液体。


 人の体内を駆け巡る赤い血潮だ。


 これに気付いたのは小学校に上がってからだ。


 ある日、体育の授業で転んだクラスメイトが膝小僧を擦りむいた。


 それを見た瞬間、僕に電流が走った。


 白と黒しか無かった僕の世界に突如現れた鮮烈な色。


 衝撃のあまり僕は気を失い、怪我をしたクラスメイトより先に保健室に運ばれた始末だ。


 それ以来、僕は赤色を見たくて見たくて仕方が無くなり、一般的に赤色だと言われている物を片っ端から見たが、結局血以外の物は赤く見えることは無かった。


 しかも、血ならばなんでも良い言う訳では無かった。


 人間以外の生物の血は赤く見えなかったのだ。


 おまけに自分の血も赤く見えず、献血に言って抜かれている様を見続ける、なんてことも出来なかった。


 流石に人間の血を見たいと言うのを他人に言うのは異常だと理解できる年だったので、僕はこの衝動を抑えて暮らすようにした。


 時折誰かが怪我をしないか、なんて期待する自分を最低だと思い自己嫌悪しながらも辛うじて抑えて生きてきた。


 今までは。


「や、止めてくれ! 悪かったって、許してくれよ!」


 大学卒業後、運悪くクソな上司に当たってしまった僕は酷い罵詈雑言に数ヶ月間は耐えていた。


 だが、そのせいで抑えていた衝動が爆発してしまったのだ。


 クソ上司に馬乗りになった僕は一心不乱にハサミを振り下ろす。


「ああ、もっと見たい! もっともっともっともっともっと!」


 白黒の世界が赤に染まる快感に身を任せて。

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あかいいろ 武海 進 @shin_takeumi

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