心の色彩欠落症
かざみまゆみ
第1話
「ふむ。お嬢ちゃんの心の状態はまさに虚無ってところだね。全くの灰色の世界だ。いいから、何も考えずにここに書いてある住所に行きな! 行かなきや、あの世の口が開くよ!」
怪しげな裏路地で出会った、怪しげな老婆。
――私は死に場所を探していたのか? 人目を避けるようにフラフラと、こんな場所まで来ていたようだ。
世界から色が消え果て、手酷い失恋に傷付いた私の心は崩れる寸前だった。
私は言われるまま、アキバの駅がかろうじて見える雑居ビルの3階へとやって来た。
表札には「心の色彩研究所」と書かれている。
「いま、先生をお呼びしますね。こちらにお座りになってお待ち下さい」
――和装のメイドさんだ。珍しい。
メイドと入れ替わるように茶髪の若い男が出てきた。白衣に袖を通しているから、この男が先生なのだろう……。
「おばば様から連絡を貰っていますよ。ちょっと目を見せてもらっていいですか?」
私は抵抗する気力もなく、白衣の男のするがままに診察らしき物を受けた。
「事前に聞いた通りですね。じゃあ、こちらで目薬を処方しますね」
言われるがまま、私は立ち上がると処置室と書かれた扉を通る。
薄暗い部屋の中に先程のメイドと、カラフルな小瓶の置かれた机があった。
小瓶の中の液体が怪しく光を発している。
「椅子に座って。まずは鎮静色の青と緑を処方しますね」
男はそう言うと2色の小瓶を持ち、私の両目に一滴ずつ点眼した。
――肩の力が抜けるような感覚と共に、気分が落ち着いていくのが分かった。
「次に淡いピンク色で気持ちを晴れやかに。そしてオレンジ色で明るさと活力をあげよう。さぁ、どうかな?」
処置室を出て窓の外を見ると、私の視界に鮮やかな色が戻っていた。
それと共に心も晴れやかになっているのを感じた。
「一体これはどういう事ですか?」
「この目薬で貴女の心に色を差したんですよ。辛くなったら、またいつでも来てください。」
そう言うと白衣の男は爽やかな笑顔を見せた。
心の色彩欠落症 かざみまゆみ @srveleta
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます