高校一年の時のお話(黒歴史放出祭とKAC20247)
夏目 漱一郎
第1話黒歴史放出
今回のKAC20247のお題は『色』だそうで、色だったら考えれば何かしら思いつくかな~と思っていたんですが、何とはなしにカクヨムのトップ画面を見た時にふと『黒歴史放出祭4月1日まで』の記事が目に入りまして、思ったんですよ。
(そういえば黒も色の中に入るから、『黒歴史』のエピソードを書けば一石二鳥になるな…)
そういう訳で今回は、僕が高校一年生の時に起きたある事件についてお話しようと思います。
今でもそうですが、その頃の僕は運動がそれ程出来る訳でも無い、かといって勉強が抜群に出来るという訳でも無い、ごく普通のあまり目立たない生徒でした。もう少し細かく言うのなら、運動はどちらかと言えば苦手な方で真ん中より下。勉強は周りのみんなが受験勉強などしない小学校の時は良かったものの、中学になって周りが勉強するようになると途端に成績が落ちて真ん中よりは少し良いかな位の順位をずっとキープしているような存在でした。
そんな成績だったので、高校も県立の真ん中よりはちょっといい位の高校の普通科に進んだのです。その頃の僕は、将来○○になろうなんて目標がある訳でもなく只、その日その日をたいした目標も持たずに過ごしていました。高校に入ってからすぐに、旺文社の『全国学力テスト』というものが行われました。学校としては、この高校に入ってきたばかりの一年生の学力を把握する為のテストなのだと思うのですが、それを受ける生徒からしてみれば『そんなテストがあるなんて聞いてないよ』な状態だった筈です。入試が終わってやっと受験勉強から解放されたばかりの一年生が、余程の事がないと勉強なんてしていないのです。
小学生の時から周りが勉強していない時には成績が良かった僕は、こんな時にはチャンスでした。別に自分の学力が急激に上がる訳では無いですが相対的に良い順位になれるかもしれないな…なんて思っていました。
♢♢♢
『この話のどこが黒歴史なんだよ?』と思っている方もいるかもしれません。黒歴史はここからです。僕が住んでいる地元では、毎年7月の始めに夏祭りが開催されます。その祭りでは
その時に叩く太鼓の練習を青年団のメンバーと子供達が6月位から駐車場に集まってやるんですが、僕と友達は小学生の頃からその太鼓の練習に参加していました。
太鼓の練習は、家から歩いて行ける位の所にある駐車場で夜の7時半から8時半位までやるんですが、僕等がこの太鼓の練習に積極的に行くのは太鼓が楽しかった事もあったのと同時に誰にも気兼ねなく夜遊びが出来るのが楽しかった事もありました。
夜遊びと言っても別に悪い事をする訳でもなく、ただ友達と夜9時過ぎに駄弁りながら町を散歩するだけなんですが門限などの心配が無いその開放感がその頃の僕等にはとても気分のいいものでした。
高校生になっても太鼓はやっていてある日の事、太鼓の練習には僕といつもの友達の他に3人の同級生が顔を出していました。彼らは太鼓の練習に来ていた訳ではなく、僕の友達と遊んでいてその延長で駐車場までついてきた形になります。僕を含め5人共高校はバラバラで、友達のNは調理師を目指していたので私立高校の『食物科』、Kは日大系列高校の普通科、Hは県立の農業高校、そしてFは高校には行かずに就職という進路でした。
「で、お前達どうするの?俺とNは太鼓の練習やるけど…」
「じゃあ、終わるの待ってるからその後遊ぼうぜ」
とは就職組のFです。中学の頃から素行はあまり良くなく、僕等4人ともそんなに仲良くしていた訳ではありません。
「まあ、待ってくれたっていいけど…」
という訳で、その日は太鼓の練習が終わってから5人で町の中を散歩していました。そして、そんな日に限って事件は起こるのです。
「おい、あいつら何者だ?」
僕等5人が歩く向かい側から、10人から15人位の(学生服だかジャージだかもう忘れてしまいましたが)男子学生が歩いてきたのです。この辺りの学校でない事はなんとなく判りました。僕の地元は温泉街なので、たまにこういう修学旅行とかで学生の団体が来る事があるのです。でも、ただ歩いているだけなので何も問題は無い筈でした。Fが余計な事を言わなければ。
「よう、あいつら俺達にガンつけてきてね~か?」
「えっ?気のせいじゃないの?」
「い~や、絶対気のせいじゃね~よ。さっき目が合ったし!」
血の気の多いFは彼等に向かって言うのでした。
「おい、てめ~ら!ガンつけてんじゃね~よ!俺達を誰だと思ってんだよ!」
相手の学生は互いに顔を見合わせた後に、こっちに向かって何か言い返して来たんですが、あいにく方言が酷くて何を言っているのかこちらには聞き取れません。すると、その事をネタにして、Fがまた余計な事を言うのです。
「おい、何言ってるかわかんね~ぞ!日本語を喋れこの田舎もん!」
さすがに向こうも頭にきたのか、全員でこちらに向かって追いかけて来たのです。
「ヤバイ!逃げろっ!」
こっちは5人に対して向こうは10~15人です。そもそもF以外は最初から喧嘩なんてやるつもりは無いのです。ここは逃げるしかないでしょう。幸い地理的にはこちらの方が詳しいので、途中で路地に逃げ込めば彼等も追って来れません。5人みんなでバラバラに逃げて、途中の路地に入って様子を見ていると急に静かになりました。
「あれ、あいつらどこ行ったんだ?」
見るとNとH、そしてFが何やら辛辣な表情で話しをしています。なぜかKの姿はありませんでした。
「どうしたんだよ?」
「Kが奴らに殴られたらしいよ…」
「Kが殴られただって?」
Kはおとなしい男で、決して自分の方から手を出すような事は考えられませんでした。殴られたのだとしたら、きっと一方的に相手にやられたのです。
「それで、Kはどうした?」
「もう、帰らせたよ」
殴られたってどのくらい殴られたのだろう?顔が腫れる位酷いのか、それ程でも無いのか、家に帰ってしまったので僕には判りませんでした。Kが殴られたと聞いて、さすがに僕も頭に来ました。友達がやられたのにこのまま黙ってはいられません。
「あいつら、どこに泊まっているんだ?今から行って謝らせよう!」
みんな15~16歳の頃でしたから、考えは至極単純でした。今だったら損害賠償とかあるんでしょうけど。
Kを殴ったというその学生達は中学3年生で、修学旅行でこっちのホテルに泊まっているようでした。僕達は最初ホテルの支配人にコンタクトを取り、Kが殴られた事を説明してとにかくここに出て来て謝って欲しい旨を伝えましたが、ホテルの支配人には全く信じてもらえませんでした。そこからは膠着状態になり、僕達はホテルの前に陣取って「早く出てこい」「謝れ」を連呼していたのですが、それが思わぬ大騒動に発展したのです。
時刻も夜の10時になろうという時、一台のバイクがホテルの前にやってきたのです。
「あれ、UさんのGPZじゃないの?」
Uさんというのは、僕達のひとつ上の先輩です。高校には行っていなくて、中学時代はたまに中学にバイクで乗り付けて思い切り空吹かしをして帰っていきます。
「おう、お前らこんなところで何やってんだ?」
「いや、実はここに泊まってる奴らにKが殴られちゃって…」
「なんだとおおおお~っ!」
先輩のUさんは、とにかく地元の人間がよそ者に舐められる事を極端に嫌う人でした。
なんだかすごく嫌な予感がします。
午後11時…どこから来たのか、いつの間にかバイクは3台に増えています。
ブォンブォン!
「オラオラアアア~さっさと出て来いよおおおお~っ!」
「ぶっさらっちまうぞこのやろう!」
もはや暴走族の集会の様相になっているこの場所には、誰も出てくる筈がありません。もはや僕でも嫌です。結局、ホテルの支配人に警察を呼ばれてしまいました。
♢♢♢
翌日、僕が高校に行くと『生徒指導室』という所に呼ばれました。そして、そのドアを開けるとそこには担任と学年主任。そして僕の親父が座っていました。
「今日警察から連絡をもらってね。君にもいろいろ話を聞いておこうと思って」
(もう学校に話が行ってるんだ…それにしても親まで呼ばなくても…)
担任に説明を求められたので、僕は相手の学生達に自分の友達が殴られてそれが許せなくて今回の騒ぎになったのだと説明しました。
「しかし、向こうはきっかけを作ったのは君達の方だという話だけどね」
「違いますよ、先に手を出したのはあいつらの方です!」
僕達は警察から調書を取られたおぼえはないし、恐らく警察の調書は僕達と相手の学生達の話よりホテル側がどれだけ迷惑を被ったかという事が中心に書かれていたのだと思います。
結局、僕は夜に大騒ぎをしてホテルに迷惑をかけたとして処分を受ける事になりました。学年主任が僕の前に座り言いました。
「全く下らない事をしたな…」
そして、担任の方を向き訊きました。
「ところで彼、成績の方はどうなんだ?この間の旺文社の全国テストの結果が来ていただろ…」
ちょうどその時、前に受けた旺文社の全国テストの結果が送られてきていたみたいでした。僕はまだ受け取っていないのでその結果は知りませんでしたが…
旺文社から高校に送られてきたその書類の中から、僕の結果を取り出し担任がそれを読み上げました。
「え~旺文社の全国実力テスト夏目君の総合は……………」
担任はそこで読むのを止めて、何とも言えない表情で学年主任の顔をじっと見ていました。
「えっ?総合が何だって?」
「総合全国1位です」
「は?・・・」
学年1位ではありません、『全国1位』です。
これはまぐれ…いや、まぐれと言うよりも奇跡と言うべきでしょう。その時の旺文社の全国テストはマークシート方式だった為、マークした選択肢がたまたま奇跡的な正解率だったんだと思います。全国1位なんて、後にも先にもこれ一度だけしか獲った事はありません。その時の学年主任の態度がすっかり変わっていたのを、今でも覚えています。
「そんなに成績が良いなら、『停学』という訳にもいくまい。ここは『謹慎3日』位で手を打っておくか」
旺文社のテスト結果のおかげで、僕の処分は比較的軽い謹慎3日で済んだのでした。
その翌日から三日間、僕は自宅で謹慎していたのですが、僕の事を心配してくれた友達のNとHが学校帰りに僕の家に寄ってくれたのです。
「○○高は厳しいな。謹慎なんて、お前の学校だけだぞ?」
「えっ?じゃあ、Hのところはどうだったんだ?」
「俺は、ごめんなさいして厳重注意で終わったよ」
「俺のところも担任に怒られただけだよ」
「なんだよそれ、俺、危なく停学になるところだったんだぞ!」
最初は随分と学校側の待遇が違うと思ったんです。しかし、友達の話をよくよく聞いてみるとその理由が分かりました。
「夏目、お前謝らなかっただろ。だから反省してないと思われたんだよ」
「だって、最初に手を出してきたのは向こうの方なんだぜ?謝るのは向こうの方だろ」
すると、僕の話を聞いたNとHが顔を見合わせて『やっぱり』と頷いていました。
「あのさ、俺も後から聞いたんだけど…最初に手を出したのはFだったらしいよ」
「なに!?ホントかそれ?」
すべての元凶はFだったのでした。あいつ、マジで勘弁してくれ・・・
まあ、今ではすべてがいい思い出です。
了
高校一年の時のお話(黒歴史放出祭とKAC20247) 夏目 漱一郎 @minoru_3930
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