英雄は色を好んだ
闇谷 紅
幸運と見なすか、不幸と見なすか
「え? 僕がですか?」
何の運命のいたずらか。僕は英雄と呼ばれるべき人物のパーティーメンバーに選ばれてしまった。
「ああ、〇〇様のパーティーだが、後衛が一人大けがを負ってしまってな。急遽代わりの者が必要になったんだが」
「相応の実力を持つ者で予定の開いていそうなのが僕しかいなかった……と」
相手は英雄と名高く、こうして冒険者をあっせんするギルドのオッサンですら様付で呼ぶような人物だ。結構有名で、僕もその名前どころかどんな人物かも知っている。
「色を好む〇〇」
二つ名が二つ名なので名前だけ知ってるような輩は色欲魔人だとかそう言うのを想像するらしいが、実際は別物。
「あらぁん、今のオハナシ……ひょっとしてこのボウヤがアタシのパーティーに臨時で入ってくれるのかしらぁん?」
ちょうど僕の後ろから声をかけてきた筋骨隆々のオネェな男こそがその英雄様であらせられたりする。と言うかクネクネするな、目を潤ませつつこっちを見るな。
「イイ、イイわぁ。その色使い!」
そう英雄様は吠えた。
「冒険者ってオシャレに気を使わない無骨なヒトが多いでしょぉん? 身を護るための保護色とか、そう言うのにもアタシ、理解はあるつもりだけど……表側が木の葉に扮した蝶だって羽根を開くと鮮やかな色だったりするもの、そう言うのとだってオシャレは両立できると思うのよぉ!」
なんでもこの英雄様、両親は芸術家と服のデザイナーであるらしく、戦闘力は疑いようがないくらい高いが、オシャレと色使いへのこだわりなんかも強い。完全に変人の部類であって、メンバー見つからない理由の半分はコレなんじゃないかと僕は思う。
「ええと」
何か語り始めた英雄様にどう答えるのが正解かわかりかね、言葉を探しているとぎゅっと手が握られた。
「ここで知り合ったのも何かの縁! アタシが今すぐ使える冒険者のオシャレ術を端から端までずずっと伝授しちゃうわぁ」
期待してねとこのくんだりでウィンクされる僕だったが、心からノーサンキューですと叫びたい。
「と、いう訳で頼むぜ?」
僕の一時加入が確定事項かの様に親指を立てたギルドのオッサンに僕は危うく全力の魔法をぶつけるところだった。
英雄は色を好んだ 闇谷 紅 @yamitanikou
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