【KAC20247】最強な勇者のオレが欲望をひた隠しにしながら麗しの魔王をオレのものにする話

蒼井星空

最後の聖戦、最初の聖戦

 やあみんな!オレは勇者だ。

 今日こそはあの憎いけど可愛い魔王を叩きのめしてオレ色に染めてやるぜ!

 この世界の皆が笑って過ごせるように。

 未来の皆が生きていけるように。

 オレのこの欲望を満たすために。

 あの性悪女じゃないんだ。美しい魔王様がいいんだ!


 そんな簡単に魔王なんて倒せるのかって?

 安心してくれ、オレは最強だ。そして今既に魔王の部屋の前にいる。

 ついさっき最後の魔物である魔王の下僕を倒したところだ。

 オレの仲間である性悪な聖女、金の亡者な騎士とともにな!


「ようやくここまで来たわね……特に苦労はしていないけども」

 性格が悪い癖に聖女という肩書を最大限に利用するために表向きはお淑やかな王女を演じる女が感慨深げ気に呟く。

 オレたちの前では取り繕う必要がないからといつもこんな感じだし、お腹がすいてはパン買ってこいとか煩いやつだ。

 これでオレに結婚を迫ってるとか頭おかしいんじゃないか?


「あぁ、これで魔王を倒せば世界は救われる……そしておんしょ……」

 さすが金の亡者。騎士の精神はどこかに捨てたらしく、今も恩賞とか言ったな。なんど盾や鎧の修理代がもったいないとガードをさぼってきたことか。

 お前のせいでこの前四天王とか言うやつらに負けかけたんだぞ反省しろ!


「さっきの魔物。魔王の下僕とか言っていたけど、たいしたことなかったわね。"次元の羽"っていうアイテムを落としたけど何かしら」

 聖女とは思えない発言をしながら魔物を見下す性悪女。

 こいつはいつも辛らつだ。オレに対して「小っさ」とか言って暴虐なまでのダメージを与えたのは許せん。

 もちろんナニしようとしたわけではなく、旅の途中草むらを覗きやがったんだ。


「それも売れば高いのだろうか?」

 もういいよ金の亡者。


「それはオレが預かっておこう」

 このパーティの荷物持ちでもあるオレが自然にそう言い放つと大人しく渡す聖女。

 こいつらはバカだから知らないようだが、これは離脱のアイテム……。ちゃんと行先はオレの隠れ家に設定しておこう。

 なにがあるかわからないし、保険だ。

 

 

「さぁ行こう。この扉の向こうに魔王がいるはずだ。作戦はオレが魔王を強襲するから騎士は聖女を守れ。聖女は突入と同時に聖句を唱えてセイントクルスをぶっ放す。いいな!」

「「はい!!」」


 そしてセイントクルスで弱った魔王を救い、オレのものにするのだ!

 というのは内緒だ。

 いいよねみんな!内緒だよ!?


 

 そうして魔王の部屋になだれ込むオレたち。


「来たか……」

 それを迎える魔王。目を閉じ、落ち着いた様子。銀色の長い髪。すらりとした体躯。ローブの上からでもわかる凹凸。美しい……。


 そこへ斬りかかる騎士。

 バカ、何やってんだよ。


「フン…ナイトフォール!」

「うわぁぁあああああ!」

 あっさりとやられるバカ騎士。お前何しに来たんだよ。どうせ自分が倒したらもっとお金がもらえるとか考えてたんだろうバカ。


 しかし、チャンスだ。

 あぁ見えてもさすがに騎士。魔王の魔法を一身に受け止めてくれた。

 性悪女……じゃなかった、聖女を見ると指示通り聖句を唱えている。


 飛び掛かったオレの剣を杖で受ける魔王。


「貴様か。我が四天王の敵を討たせてもらおう」

 そのキリっとした素敵な表情を前にして求婚してしまいそうになるのを必死に抑えてオレは剣を振るう。

 いけないいけない。オレはこいつを屈服させたいのだ。

 オレ色に染めてやるんだ。


 少し手を抜きつつ魔王の魔法を受け流しつつオレは魔王のご尊顔を拝し続ける。

 言葉は不要。力で押さえつける。オレが手を抜いているのは理解するだろう。どう思われるかな。屈辱かな?

 抱きしめたい……。

 

「貴様、なぜ本気で来ぬ」

 くそっ、声まで素敵だ。耳が感動に打ち震えている。

 今すぐその唇を奪いたい衝動を抑えてオレは引き続き切り結ぶ。

 お前が可愛いからに決まってんだろうが!


「勇者様。完成しましたわ。これで魔王を……」

 そうしているうちに完成する聖女……じゃなかった性悪女のセイントクルス。

 この魔法は聖属性魔法。つまり、闇属性である魔王に効果絶大だ。

 あれ?なんかでかくない?そんなにおっきかったっけ、その魔法。


「今ここには神々の助力があるようです。さらに、皆の祈りの力も。これで魔王を消し飛ばしてやります」

 だめぇぇぇええええええええ。

 性悪女の性悪さが表に出てるのに、なんで神様とか世界の皆が力を差し出してるの。

 さっさと発射しやがったし。

 やめてぇぇぇえええぇえええええええええ。


「なんという神聖な力。そういうことですね、私を跡かたなく消し飛ばすための魔法。そのためにあえて力を抜いていたと……」

 全てを諦めきった表情。なんて美しいんだ。

 じゃない、違うんだ。こんなはずじゃない。


 オレは考える。

 どうしようと。

 助けて誰か……。

 


 あっ……。

 オレの頭に現れる天啓。あるじゃないか方法が。

 オレはこの部屋に入る前に性悪女から預かった"次元の羽"を性悪女に、そして念のため金の亡者にも見えない角度で取り出して魔王に使う。

 ちゃんと魔王からは見える場所で使ったその"次元の羽"は効果を発揮し、セイントクルスが当たる寸前に魔王を転移させる。

 やったぜ。ナイスオレ。オレ天才。

 あとはここの後始末をしたら……。


 麗しの魔王とのイチャラブ生活への妄想を脳の99%で展開しつつ、残りの1%で金の亡者を回復し、自分が魔王を倒したという勘違い性悪女をヨイショして王都に帰還した。


 そこでは国王が歓待してくれた。

 面倒なパレード、鬱陶しい貴族たちとのパーティ、魔王の前にひれ伏せてこいと言いたくなる豚とのダンス。

 料理だけはちょっと美味しかった。

 そこで振るわれる国王の弁舌は当然受け流した。だって1%だもん。


 そうして性悪女をヨイショしまくって王都に残し、金の亡者にはお前は寝てただけだと言い張って報酬を渡さずにオレは王都を抜け出し、隠れ家に向かった。



 そこには美しい銀髪のマイハニー。


「貴様は……」

 魔王はオレに気付く。杖を構えるが、攻撃はしてこない。

 よかった、ちゃんと救ったことも理解してくれてる。


 オレは警戒させないように剣を捨て、ゆっくりと彼女の方に歩み寄る。

 本当は剣だけじゃなくて着てるものを全部放り棄てて、愛らしい夢にまで見た肢体に飛び込みたいのをこらえたオレの忍耐に乾杯。

 

「無事でよかった」

 オレの言葉に少しだけ穏やかな表情になった魔王は、大人しくオレの抱擁を受け入れてくれた。






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