女神

sorarion914

ついで

 ですから――と、大臣は言った。


「武器は貸与品たいよひんとなっております。したがって、冒険を無事にクリアした際には、返却していただきませんと……」

 大臣はそう言って眉間に深い皺を寄せると、「困ります」と僕を見た。

 そう言われて、僕も「困ります」と返す。

「出発の際に渡された伝説の武器は、あっという間に破損しました。新しく手に入れた武器は、全て僕が戦闘で手に入れたお金で買ったものです。だからこれは僕の物です」

「では、破損した伝説の武器をお返しください」

「魔王の城に、一番近い村に置いてきました」

「では取りに戻ってください」

「えぇ⁉またあそこまで行くんですか?」

 僕はウンザリした顔で大臣と、その横で優雅にくつろぐ王様を見て言った。

「旅の仲間はもうそれぞれの生活に戻ってしまいました。僕1人じゃあんな所まで行けません」

「困ります」

 大臣の口から再びこのセリフが飛び出して来て、押し問答が繰り返される。

「いいですか?」

 大臣はそう言うと、出発前にサインさせられた誓約書を見せた。

「ここにちゃんと書いてあります。【貸与品は必ず、帰城した際には返却すること】って」

 よく見ると、確かに書かれている。

 ※の横に小さな文字で、薄っすらと……

「そんな大事なこと、もっと大きな文字で書いてくださいよ!こんなの……悪意を感じます」

「お返ししていただけないのであれば、買い取りということになりますが――」

「はぁ⁉壊れた物のですか?」

「お渡しした時の状態で――ですので、50万ゴールデンです」

「50万⁉嘘だろう⁉」

 驚いて目を剥く僕に、大臣は笑いながら言った。

「一度に払えとは申しません。分割払いも可能です。魔王を倒してくださった方なので、特別に分割手数料は頂きません。ご安心ください」

「……」

 唖然として言葉もない僕に、王様が言った。

「借金を返済するまで、姫との結婚は延期とする」

「ちょっ――ちょっと……ちょっと待ってよ」






 あれ?






 なんか……






 思ってたのと違う――――


 なんだ?この……ゲスな展開は。


(変だな……伝説の勇者って、もっとチヤホヤされると思ってた)

 なのに、なんだかまるで詐欺にでも遭ってるような気分だ。

 すぐに壊れる粗悪な武器を、伝説の品だと偽り貸与して、返せないなら買い取れと高額請求する。

 まさかこれって―――

の世界の詐欺じゃないのか?」



 城の地下にある牢獄の様な一室に通されて、悶々としていた僕の元に、1人の女神が現れた。

「あぁ、女神様!」

 僕はすがる様な目で女神に近づいた。

「どうですか?異世界ライフを楽しんでいますか?」

 女神がそう言って微笑む。僕はつい今しがた起きた出来事を語って聞かせた。

「これって、どう考えても詐欺にしか思えないんですけど……?」

 それを聞いて女神は「あらあら」と気の毒そうな顔をした。

「買い取り詐欺に遭ってしまいましたか……貴方もつくづく運のない方ですね」

「こっちの世界にも、そんなのがあるんですか?」

「近頃はどこの世界にも横行しています」

「そんな……」

 現実世界に嫌気がさして、すっかり人間不信に陥ってしまった僕だったが、数日前に現れた運命の女神に導かれて、このに転生。

 優雅な冒険生活をしてたというのに。


 最後の最後で詐欺被害発覚――



 本当に僕という人間は、つくづく運が無い。

 どこの世界に生まれ変わっても、結局、騙されて終わる人生なんだ……



 ガックリ項垂れている僕に、女神が言った。


「そんなに落ち込まないで。大丈夫です。お借りしたものをお返しすれば済むことです」

「けど、取りに戻るにはかなり困難な場所でして……」

「お安い御用です」

 女神はそう言うと、一時姿を消し、再び姿を現した時には手に壊れた剣を一本持っていた。

「さぁ、これを。王様にお返しなさい」


 あ、そうそう――女神はそう言うと、「ついでにこの……」と言って、自分の懐から一本のナイフを取り出すと、それも剣に添えた。

「ナイフも一緒に―――色を付けてお返ししましょう」

「……?」



 禍々しいオーラを放つ、そのナイフ。


 女神は僕の目を見ると、少し照れたようにはにかんで――言った。





「これ。誰かに処分することが出来ないんです……こういうを売りつける商人もいるので、貴方も気を付けて下さいね」




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女神 sorarion914 @hi-rose

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