第2話

 ゲームボーイの付喪神だ!


 なんて声高に言われても、そんなの知らないもん。いったいなんなの?


「葛葉くんは知ってる?」

「いや、まったく」


 全然知らない言葉に、わたしも葛葉くんもそろって首を傾げる。

 聞こえてくる声が、一気に怒声に変わった。


「お前ら、ワシを知らんのか! かつて日本中の子どもたちが夢中になって遊んだ、携帯ゲーム機のレジェンドだぞ!」


 って言っても、知らないものは知らないんだもん。


「そんなことより、どうして俺たちをこの世界に閉じ込めたんだ」

「そうだよ。なんなの、この色のないヘンテコな世界は?」

「ヘンテコとはなんだ! 色がないからってバカにしてるのか! そんなものがなくたってな、ゲームはできるんだよーっ!」


 わわっ。何がまずかったか知らないけど、よけい怒らせちゃった。


「めんどうだな。このまま怒らせると、話もできない」

「どうしよう。あっ、そうだ。スマホがあるから、とりあえず調べてみるね」


 ゲームボーイの付喪神さん、自分が誰だかわからないのが不満みたいだから、まずはそこをなんとかしないと。


 幸い、このヘンテコ空間でもスマホは使えるみたいで、ゲームボーイって検索したらすぐに結果が出てきた。


「へぇ。1989年に発売されたゲームなんだ。今から35年も前だから、大昔じゃない」

「さすが、付喪神になるだけのことはあるな」


 私たちが生まれるずっと前だし、知らないのも当然だね。


 もう少し調べてみたけど、この頃にはまだゲームをダウンロードする機能はなくて、全部ソフトを入れ替えなきゃいけなかったみたい。

 さらに調べていくと、もっとビックリすることがわかった。


「えっ? ゲームボーイの画面って、色がついてないの?」


 私が見たサイトによると、今のゲームみたいにカラフルなやつじゃなくて、緑がかった背景に、黒一色で絵が描かれてたらしいの。


 画面の写真も載ってたんだけど、このヘンテコ世界の影響で、スマホの画面も色がなくなってたから、よくわからなかった。

 って、ちょっと待って。


「この世界に色がないのって、ゲームボーイに色がなかったから?」

「その通りだ! だが色がないからといってバカにするんじゃないぞ。昔はそれでも、みんな夢中になってゲームボーイで遊んだものだ。もちろん、当時はファミコンだってあった。だがあいつはテレビの前から動くことができない。その点ワシは、どこでも持ち運びできて、あらゆる場所でゲームができるという強みがあった。この家の子どもだったワシの持ち主も、何度も何度も電池を交換しては遊んだものだ。そんな、携帯ゲームの頂点。ゲーム界のスーパーレジェンド。それが、ゲームボーイだ!」

「そ、そうなんだ」


 ゲームボーイって、そんなにすごいんだ。

 全然知らないから、こんな風に言われてもちっともわからないけど。


 って言うか、本当なの? 電池を交換してって、充電すればよくない? あと、ファミコンってなに?


「葛葉くん、どう思う?」

「本人がそう言い張ってるだけだからな。少しくらい話を盛ってるのかもしれない」


 やっぱり。

 とにかく、これでゲームボーイがなんなのかはわかったことだし、ようやく話しを進められそう。


「それで、ゲームボーイさん。あなたはどうしてわたし達をこんなところに連れてきたの?」

「そうそう、大事なのはここからだ。そんな、ゲーム界のスーパーレジェンドだったワシだが、人々から見向きもされなくなって久しい。お前達も、ワシのことを知らなかったしな。全然、まったく、これっぽっちも知らなかったな!」


 そんなこと言ったって、わたし達が生まれるずっと前のことなんだから、知らなくて当たり前じゃない。


「それもこれも、全部アイツのせいだ」

「アイツって、誰?」

「決まっているだろう。このワシを携帯ゲームの頂点から引きずり下ろした怨敵、ゲームボーイアドバンスだ!」


 なにそれ! また知らないのが出てきたんだけど!

 時代はもう令和なんだから、それに合わせて話してよね!

 わたし、Switchしか持ってないもん!





 ※本日3月21日は、今から23年前の2001年に、ゲームボーイアドバンスが発売された日です。

 もう23年も前なのに、2001年ってことは割と最近じゃないかと思ってしまいます。

 21世紀に入ってからの出来事は、全て最近です( ̄▽ ̄;)

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