二人は百鬼夜行!? レトロゲームの逆襲!

無月兄

第1話

「大江、それっぽいのはあったか?」

「ううんー。見つからないー」


 わたし、大江真弥と、小学校の同級生、葛葉信彦くんは、大きな蔵の中で、あれこれ探し回っていた。


 なにを探してるのかって? 実は、わたしにもわかんない。

 強いて言うなら、付喪神。って言ってもわかんないよね。


 実は私は人間じゃなくて、代々続く鬼の家系。お父さんなんて、百鬼夜行をやってるんだ。

 百鬼って言っても、今は人数も減って四人しかいないけど。


 そして葛葉くんは、そんなお父さんの百鬼夜行に入ろうとしている、狐の妖怪なの。妖狐っていうんだよ。


 けど色々あって、わたしと百鬼夜行の主従としての契約を結んじゃったんだよね。

 お父さんは百鬼夜行の跡継ぎができたって言ってたけど、わたし、そんな気なんてなかったのに。

 けどやっちゃったものはしかたない。


 そのへんの細かいところは、『百鬼夜行なんて継ぎません!』に書いてあるから、知らない人は読んでみて。

 https://kakuyomu.jp/works/16817330659560944296




 というわけで、わたしと葛葉くんの二人で百鬼夜行をやってるんだ。

 お父さんやわたしがやってる百鬼夜行のお仕事は、人間と妖怪の仲を取り持つこと。要は、悪さをする妖怪がいたら捕まえたり懲らしめたりするんだけど、わたし達はまだ子どもだから、危ないことはダメ。


 ただお父さんが、これならわたしたちにもできそうって思う事件があったら、練習として解決してみなさいって言ってくるの。


 今回の依頼も、その中のひとつ。

 ちょっと離れた街にある、大きな家の蔵の中で、最近変な物音がするんだって。

 お父さんが調べたら、どうやらこの蔵の中の何かが、付喪神になってるみたいなの。

 あっ。付喪神ってのは、古くなったものに意思が宿って、妖怪になったものね。


 その付喪神を見つけてなんとかするのが、今回のわたし達のお仕事。

 お父さんが蔵の持ち主に許可をもらって、わたしたちが調査できるようにしてくれたんだって。


 だけど、その付喪神がちっとも見つからないの。


「ああーっ! 付喪神なんてどこにもいないじゃなーい! 付喪神さーん! いたら返事してーっ!」


 叫んだ声が蔵の壁に跳ね返ってこだまするけど、ちっとも返事はなかった。


「俺たちが探しに来たから、警戒して出てこないのかもな」

「そんな。このままじゃ、せっかくの休みが潰れちゃうよ」


 今日は土曜日、明日は日曜日で、連休なのに。

 このまま見つからなかったら、今日どころか明日まで付喪神探しで終わっちゃうかも。


「それが嫌なら、早く見つけるぞ。これも、立派な百鬼夜行になるための修行だ」

「そうだけどさ……」


 葛葉くんは、元々自分からお父さんの百鬼夜行に入れてほしいって言ってきただけあって、修行もお仕事も、すっごく真面目にやってる。


 それに引き換えわたしは、元々百鬼夜行を継ぐ気なんてなかったから、ちょ〜っと不真面目。

 も、もちろん、一度やるって決めたからには、しっかりやるよ。

 でも、こうも手応えがないんじゃ、やる気も出なくなっちゃうよ。

 しかも、しかもだよ!


「帰ってゲームしたいのにーっ!」

「ゲーム? ああ、だからこんなに早く終わらせたがってるのか」

「そうなの。せっかくお小遣いためて買ったのに、お預けなんてあんまりだよ」

「俺、ゲームはあまりやらないから、よくわからないな」

「葛葉くんもやってみなよ。きっと面白いから。昔からある人気シリーズの最新作なんだけどね、今回は新しい機能があって……」


 お預けをくらった鬱憤を晴らすように、そのゲームがどれだけ楽しいかを話す。

 ああ。できることなら今すぐ帰って続きをやりたいよ。

 だけど、その時だった。


「な……に……が…………」


 突然、わたしでも葛葉くんでもない、まったく別の声が聞こえてきた。


「葛葉くん。今の、聞こえた?」

「ああ。付喪神か?」


 ゲームトークは中断。二人揃って、声のした方を見る。

 倉の隅にある、棚の中。

 そこから、さらに声が聞こえてくる。


「なにが、最新作だ! 新しいゲームがそんなに偉いのかーっ!」


 今度は、もっとハッキリ聞こえる怒鳴り声。

 そして次の瞬間、わたし達を謎の光が包んだ。


「な、なに?」


 少しの間目をつむって、それからゆっくりと開いたところで、わたしは息を飲む。


 さっきまで蔵の中にいたはずなのに、いつの間にか、全然違う、何も無い空間にいた。


 しかも……


「大江。お前、どうしたんだよ!」

「葛葉くんこそ! なんか、白黒になってるんだけど!」


 わたしも葛葉くんも、どういうわけか、色が無くなってた。

 葛葉くんの言ってる通り、まるで鉛筆で描いた絵みたいに、白黒になってる。


 ううん、正確には、ちょっと違うかも。

 黒はそのまま。だけど白って言うには、ちょっと緑がかった色。その二色だ。

 けどとにかく、色なんてほとんどない、おかしな世界。


 驚いていると、どこからともなく声が聞こえてくる。


「ハッハッハ! ワシの世界へようこそ」

「お前は誰だ! 付喪神なのか? どうして俺たちをこんなところに連れてきた!」


 葛葉くんが叫ぶと、声はさらに返ってくる。


「いかにも。ワシは付喪神。そしてここは、ワシが作り出した世界じゃ!」

「世界を作ったって、あなた、いったいなんの付喪神なの?」


 こんなことになるとは思わなかったけど、とにかくまずは、相手の正体を知らなきゃはじまらない。

 すると声の主は、どうだって感じでこう答えた。


「教えてやろう。ワシはな、ゲームボーイの付喪神だ!」


 凄いだろう。まるで、そう言っているみたいな、誇らしげな口調。

 でも、でもさ……


「えっと……ゲームボーイって、なに?」



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