前日譚3【崩壊、始まり。】
"3日後"
____白兎、テイマーが謎の人物に襲われて3日が経つ。
あの後はまぁ、案の定大騒ぎ。
倒れていたテイマーが捜索隊の大人達に見つかり、数時間後にテイマーは目を覚ましたけれど、大説教を寝起きにくらった。
(寝起きに大説教をくらったため、大絶叫と共に号泣して1時間は話ができなくなった)
何とか話せるようになってから、テイマーは洗いざらい全てを話した。
おかしな人に会った事、大きな音のする棒?で攻撃された事(ライフルのこと)、その後は逃げていた事。
テイマーを精霊様の近くだから大丈夫だろう、と置いていった大人達からは何度も謝られ、兄のアニマからは再び大説教をくらい、姉のテルミネからは泣きながら抱きしめられた。
…が、そんなことはもう過去のこと。現在のテイマーはというと。
「____にーちゃんのわからずやーッッッッッ!!!!!!!!!」
兄弟ケンカの、真っ最中である。
「なんで!!お母さん!!おいてくの!?!!なんで!!!!!!!!」
「だからぁっ!!お前はまだ子供だから教えらんねーの!!!わかるぅ!?」
「わーかーんーなーいー!!!!!!!」
「わかれよ馬鹿!!!!!!!!!!」
事の発端は、まぁ、三日前の事。
大人達がそれから酷く忙しそうにしていて、今日突然集落自体の引っ越しが決まった。
引っ越し自体は過去何度かあった、らしい。ただ、今回は。母ソフィアを連れて行くことができない。
そう、集落全体の会議で決まった。
仕方ない、仕方ないのだ。ソフィアは自力で動けず、誰かが背負う必要がある。以前までならまぁ、許容範囲として許されていたが、今回ばかりは「スピード勝負」。
だから、荷物はおいていく。
「…落ち着いて、テイマー、アニマ。」
二人の様子をみかねて、姉のテルミネが声をかける。
「テイマー、お兄ちゃんだって置いていきたくて置いてくわけじゃないのよ。…アニマはちょっと冷静に。テイマーはまだ、8歳よ?」
___母ソフィアによく似た声。
白い髪に、所々黒いメッシュの入ったロングヘアー。紫…まるで、ブドウのような瞳を持ち、丸い眉は今は下がりきっている。
テイマーとお揃いの赤いマフラーに、白く長い袖の、赤いリボンが付いたフリルワンピース。
可愛らしい、し、愛らしい見た目であり、弟二人によく似た顔つきをしている。
「……8歳だからって、なんだよ。もう知らねぇ!!!!!」
アニマの声に、びくりと体が跳ねるテイマー。目に一杯の涙を貯めて、けれど泣かないようにぐっと唇を噛みしめる。
「……ぼくも、しらない!!!!おにーちゃんのばか!!!!!おねーちゃんも、しらない!!!!!!!!」
バンッ!と、家から飛び出していく。後ろから聞こえる、姉の静止の声も聞かず、必死に走って、集落の外に出る。
___みんな、みんな!!お母さんのこと、いらないんだ!!!
____ぼくの、お母さんなのに!!みんなの、なかまなのに!!!!
ボロボロとあふれる涙を、そのままに。必死に走ってたどり着いたのは、あの泉。
泉に水を飲みにやってきていた動物達は、テイマーを見ても逃げず。崩れるように座り込んだテイマーに、むしろ寄り添った。
他者からすれば、警戒心の強い野生の動物が寄り添うなんて異様な光景かもしれない。けれどテイマーにとってはこれが普通。
「な、んで……ヒック、おか、おかっ゛、あ゛、さん゛が!お゛か、っ゛、ぁ゛、さん、が、ぁ゛〜!!!!!」
人目を気にせず、泣き出す。
テイマーは、寄り添ってくれた鹿や、狐、狸、様々な動物たちを強く抱きしめながら大声を上げる。母との別れは、幼いテイマーにとって辛い事だった
逃げないのは、仲間だと彼らに思われているからで、だからこそ仲間が泣いている様子に鹿は涙を舌先で拭い、他の動物達はテイマーが泣き止むまで、側にいた。
テイマーは、小さく優しい、仲間たちに囲まれて、グスグスと暫く、ぐずり続ける。
_______
時間が経ち、けれどそれも数十分。
目はパンパンに腫れ上がって、動物達にごめんね、と声をかけながら、テイマーはゆるゆると立ち上がる。
____もう、いっかい。おにーちゃんと、はなそう。それで、あやまって、なかなおりしよう。おねーちゃんにも、あやまんなきゃ。
母との別れを、考えたくない。でもたった一人との兄とケンカしたままは、もっと嫌。
「__ね、ね。おはな、きれいなとこ、おしえて。」
友達である、動物達に声をかけた。理解しているのか、していないのか。けれどその子達は足を進めて、テイマーはそれについていく。
泉の近く、綺麗なお花が咲く場所。誰も知らないのだろう、木漏れ日が気持ちよく、様々な花々が咲き乱れている。
テイマーは知ることも無いが、季節外れの花でさえ咲いているのだ。
まぁ、本人は気にせず。姉と、兄が好きだった色を考えながら、花を見つけて、花冠を作り始める
姉は紫色が好きだった。だから紫のお花ばかりを集めて。
兄は青色が好きだから、青いお花を集めて。
二人の好きな色を合わせた、花冠も。
3つ、夢中で花冠を作っていた事で、出来た頃には、もう日が沈みかかっていた。
もうそろそろ帰らなくちゃ、また怒られる。だからテイマーも立ち上がり、動物たちに別れを告げる。花冠のうち、自分用に作った青と紫の花が使われた花冠を、頭の耳に引っ掛けるようにして頭に乗せた。
泉の側を通り、周りに何の気配もないのを確認して、集落への道を歩き____
『 い っちゃ だ め 』
リンッ、となる、鈴のような声。女の子のような声に、テイマーは足を止めて振り返る。
そこには、誰もいなくて。なんだろう、という疑問と、若干の嫌な予感がした。
「……ようせ、い?それとも、せいれいさま?」
問いかけに返事は無い。誰も居ない。不思議に思いながら、ゆっくりと泉へと歩きだそうとした。
そう。した、だけで、できなかった。
何故、かと問われれば。テイマーの自慢の耳が、今は憎たらしいぐらいにいい耳が、"悲鳴を捉えた"。
慌てて、振り返る。その方向にあるのは、集落で。けれど集落から離れてもいるのだから、悲鳴が聞こえるわけがない。
けれど集落のある方向から、空に高く黒煙が上がっていた。
『 に げ て 』
もう一度聞こえた、鈴のような声。けれどテイマーはその声を気にもせず、一気に走り出した。
向かう先は集落、向かうにつれて、己を傷つけたあの乾いた大きな音や、聞き覚えのある声の怒号や悲鳴が。
聞き覚えのない声の下品な笑い声が、ガチャガチャという何かのぶつかる音が、何かが、壊される音が。
___みんな、みんな!!!!
必死に、足を動かす。赤いマフラーは、途中で枝に引っかかって、嫌な音を立てて破ける。足を止めずに、マフラーを投げ捨てながら、走り続ける。
今回は道を忘れない。だから木々の隙間からすぐに、集落が見えた。
厳密には、集落だったものが。
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