前日譚2【溢れ出す影】
____その日は、カラッと晴れた良い日だった。
爽やかな風は変わらず吹いて、花の香りは甘くて優しい。日差しはちょっと暑いけど、こんな日は近くの泉で水浴びをする子供達が多くいた。
テイマーも例に漏れずその一人であり、同じ集落の子どもたちと共に泉へと入っていた。
きゃー!わー!!
水かけるなよー!!そっちこそ!
くらえー!!!うぁーん!!にーちゃーん!!
そんな子供達の明るい声が響く。
水でびしょびしょになりながら楽しそうに笑って、近くで見守る大人に笑われながらも、子供達だけで魚を採ったりしてた。(手掴みは凄く難しくて、大人に手伝ってもらった)
けれど、そんな楽しい時間は、あっという間に過ぎる。
『お昼だよ〜!!』という声で、子供達は弾かれたように飛び上がり。意気揚々とそれぞれの家へ帰っていったり、その場で火を起こして魚を焼いて食べたりし始めた。
__________
…疲れ、たぁぁ〜…!!!!!
僕、テイマーは、泉のふちに腰掛ける。
すっごく疲れちゃって、ミミとタオ(僕の友達で二人は双子!すっごくにてるよ!)に引っ張り回されたからもう、くったくた。
僕の自慢の可愛い兎の耳がぺしょー…って元気無くなるくらいには!ほんとに、もう!!
あの二人は悪戯っ子だからって、集落の大人たちも、他の子達も、あんまり遊びたがらない。僕はおにーちゃんだから一緒に遊んであげてるけど!
…でも、そのおかげでミミとタオから面白い話は聞けた。あの二人は物知りだから、お母さんにもいつかお話する。
聞いたお話をゆっくりと思い出しながら、ころんと後ろに倒れて目を閉じた。
____ここの泉や土地は、精霊様が守ってるらしい。
らしい、っていうのは、精霊様は滅多に姿をあらわさないから。精霊様は一番偉くて、その下に妖精がいるらしい。
だからこの泉の近くじゃ、よく妖精が見れる。でも見れるといってもキラキラ光るものが見えるだけで、お話したりするのは一部の子しかできない。でも悪戯してくる時とか、そういう時は皆見えてた。(実際僕も何度か悪戯されては、妖精と喧嘩してにーちゃんに回収された。……僕悪くない!!)
…後、この集落や、他の集落も、精霊様に助けてもらって目眩ましの術?をかけてもらってるらしい。
ミミとタオは、物知りって以外にも、この精霊様とお話する役割?がお父さんとお母さんにあるらしくて、こんな話しを聞けたんだって。
凄いなぁ〜…なんて思ったし、………?
なんだか、声が、聞こえる。
「…………か。……は、どう………」
ピョコン、耳が動く。可愛い僕の耳は、他の子達よりもずーっと耳が良くて、大人たちより耳が良いんだ。
だから大人たちが気をつけても、僕ならちゃーんと聞けるんだよね!!お昼寝をしてるフリをして、聞き耳をたてた。
「_____ソッチも駄目だ。『ロンデミア』も。」
___ロンデミア、近くの一番おっきい集落だった気がする。なにかあったのかな?
「嘘だろ…!?何でいきなり…この事を知ってる奴等は?」
「大人は全員。後は子供だとテルミネとアニマが知ってる。」
「……あの二人なら、なにかあっても大丈夫だな。_____ロンデミアが襲撃されたのは、何時だ?」
襲撃。
聞こえた恐ろしい言葉に、耳がぺたっと閉じそうになる。集落はさっき聞いた、精霊様が守ってるんじゃないの?
「…一週間前だ。ジオとファーニャが精霊様の様子がおかしいと話しを聞いて発覚した、昨日知ったらしい。…多分、近くのここも危ない。」
ジオおじさんとファーニャおばさん、ミミとタオのお父さんとお母さんだ。
「……見回りを増やそう。後何かあったときの為に色々と話し合う必要がある、今日の夜大人達とあの二人も合わせて話し合おう。」
…話し声が、遠くなってく。足音もするから、きっと村に戻っちゃったのかな。
薄っすらと目を開いて、誰も居ないのを確認して起き上がる。…すごい話し、聞いちゃった。これ、聞いてよかったのかな。
……それに、集落が、危ないって。……大丈夫なのかな、これ。…怖いな。
__________
"数時間後"
夕方。
あの後、戻ってきた皆とまた遊んで、いっぱい疲れた僕。
……うん!!見事に、見事に!疲れて寝ちゃってた!!
…どうしよう、どうしよう。にーちゃんに怒られる。もう皆周りにいないし。今帰ったら多分、げんこつ一発じゃ終わんない!
(にーちゃんのげんこつは本当に痛いからされたくない!)
____ガサッ、ガサッ。
獣と違う足音。ぴくっと耳が反応した。段々とこっちに近づいてきてて、ゆっくり立ち上がる。
そしたら、黒い影、みたいな。"怖い人"が現れた。
『_____』
顔全部隠すみたいな、とんがった鳥みたいな、お面?をつけてる、人。僕らにある筈の耳がなくて、大人達によく聞いてた『外の人』っていうのだとおもう。
顔が、見えなくて。全身、黒い…服?コート、っていうのを着てて、手には
"パァンッ!!!!"
__________
乾いた音が、森の中に響き渡る。
謎の人間が手に持っていたのは、所謂『ライフル』と呼ばれるもの。(勿論テイマーはそんなもの、知るわけがないが)
命を奪う冷たい乾いた音だったが、テイマーの頬には、赤い傷跡がたった一本付いた。
「…………は、ぇ。」
幼い子供。熱い傷跡。ただでさえ良い聴力に対して、大きな音。動きを取れないのは仕方がなく、けれど、"たまたま"逸れた銃弾で拾った命。
獣としての「生きなければ」という感情のみで、テイマーは弾かれたように森の中へ駆け込む。
____なに、なにあれ、こわい、怖い!!!
恐怖でガチガチとなる歯、震える足。慣れた森の中だけれど、頭が真っ白になって、何処に行っていいかわからなくなる。
__怖い、怖い、怖い。でも、大きい音だった。大人達が、きっと来てくれる。
___確か、確かこっちに、集落がある!!
必死にもつれる足を動かして、後ろから追いかける足音から逃げる。視界が涙で歪んで、転びそうになる。
でも、でも。足を止めたらあの恐ろしい大きな音が、また、自身を傷つけると理解しているから、足を止めずに必死に走り続ける。
____パァンッ!!
また、乾いた音。発砲音で次に当たったのは、足。けれど次は、テイマーの足に当たる。直撃ではなくて、ただ掠っただけ。
熱い、なんて思うけれどウサギの足は止まらない。必死に、縦横無尽に走り回っていく。
そして、後ろから追いかける足音は、消えていた。それに気づいたのは、辺りが暗くなった頃だ。
テイマーは、ハッとして辺りを見回す。
「(…ここ、あそこだ。)」
降り注ぐ月光。地面には花畑。昔、兄につれてきてもらったところだ。集落の側、兄の昼寝スポット。
長く走り回っていたから、恐らくだが大きく大回りをしながらも集落の近くへ着くことができたのだろう。
ほっとして、足から力が抜けた。急に緊張の糸が解けて、ふっとテイマーの意識が遠くなる。
走り回った時、テイマーは裸足だった。つまり足はもう傷だらけで、銃による傷跡もある。痛みを感じながら、ぺたっと地面に倒れる。
倒れると同時に、多くの人間の足音。警戒はできるけれど、もう起き上がる力も無い。薄っすらとだけ目を開けて、ぼんやりとした視界に見える光を見つめた。
___おとな、かなぁ。
大人達が、自分を見つけに来てくれたのだろう。うん、そう思おう。テイマーはゆったりと目を閉じた。
最後に聞こえたのは、兄の心配して自分の名前を呼ぶ声。
「テイマー!!!!!!」
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