君の声の色

LeeArgent

第1話

 共感覚、というものを知っているだろうか。

 文字や音を見聞きすると、別の感覚を覚える、というものだ。


 僕は共感覚である。耳に入る情報全てに、色を感じる。

 その色は、言葉の意味ではなく音に対して反応するらしくて、例えば母親の声は灰色に聞こえるし、父親の声は茶色、妹の声は群青色。そこに決まったルールはない。

 ルールがあるとすれば、何を話していても、その人の言葉は一色だ。夕ご飯の内容であったとしても、宿題の内容であったとしても、妹の声なら全て群青色だ。


「それ、すごくない?」


 クラスメイトに話したところ、一人の女子が食いついた。赤色の声をした、虹音にじねという苗字の女子だ。


 美術の授業で、上手く絵が書けずに困っていた時、ついポツリと共感覚の苦労を呟いた。

 みんな僕を気持ち悪がったが、虹音にじねだけは違った。僕の感覚を、すごいと言った。


「私らには見えない色を感じてるんでしょ? すごいよ」


「別に、すごくない。他人に説明しても、なかなか伝わらないし。小さい頃は気味悪がられたし」


「あー、確かに、急に『金色の風が……』なんて言われたら、ちょっとびっくりするかも」


 ほらな。

 僕は、絵の具を画用紙に塗り広げる、正に今、「金色に聞こえる風」を描こうとしたんだけど、みんなから不審がられてしまった。

 だから、絵は嫌いだ。他人との違いを見せつけられているようで。


「でもさ。良くない?」


 虹音にじねの声が、淡い赤色になる。

 いや、赤色だと思ってた声がオレンジに、黄色に、変化する。


「だって、みんな違う世界を見てるじゃない。私からは八声はつせ君が見えるけど、私自身は見えない。あそこの町田ちゃんは私が見えるだろうけど、町田ちゃん自身は見えない。

 みんな、他人が見えないものを見てるんだよ。だから同じ。同じだけど、それって何だかすごいことだよね?」


 虹音にじねが話す度、色が変わる。黄色が緑に。緑が青に。青が紫に。

 

八声はつせ君は、声の中に色を見てる。私は、私が見えない世界をすごいと思う」


 虹音にじねの声は、虹色だった。話す度に色が変わる。初めての感覚だ。


「ところで、私の声って何色?」


 僕はハッと我に返る。

 虹音にじねに虹色の話をするのが、なんか恥ずかしくて。僕はそっぽを向いて呟いた。


「さぁ」


「教えてよー。減るもんじゃないし」


 隣で虹音にじねが騒いでいる。

 でも、次々に変わる虹音にじねの声の色は、とても綺麗だった。

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