七色の虹の橋の上で・・・

アほリ

七色の虹の橋の上で・・・

 私は死んだ。


 病気で死んだ。


 とても、幸せの絶頂だったのに・・・


 やっと掴めた幸せだったのに・・・飼い主の御主人様に看取られて。


 今、私の目の前には七色に輝く虹の橋がかかっている。


 私は、天の声に導かれるままにこの七色にキラキラ輝く虹の橋を恐る恐る一歩一歩歩いて渡っている。


 嗚呼・・・離れていく私の亡骸。


 そして、私の魂がこの七色の虹の橋をそろりそろりと渡っている。


 眼下に見える、私の亡骸に寄り添って号泣する私の御主人様。


 泣かないで、親愛なる御主人様。


 貴方のお陰で、いい犬生だったわ。


 思えば、私は元野良犬。


 山奥で前の御主人様に飼いきれないとか言われて、置いていかれて・・・


 彷徨って彷徨って、前の御主人様を探し回って、


 気づいたら他の人間に捕まったと思ったら、今の心優しい今の御主人様にお迎えされて。


 今の幸せな日々があったんだわ。


 いろんな場所に一緒に連れて行って貰って、


 いろんな人々や犬達と触れ合って、


 いろんな体験をして、


 元野良犬の身でありながら、誕生会までしてくてれて、


 嗚呼・・・この七色の虹の橋を一歩一歩歩くたびに、走馬灯のようにカラフルに蘇る私の波乱万丈の犬生。


 私の犬生の想い出が、次々と風船になって膨らんで空高く飛んでいく・・・


 そういえば、私生前御主人様と風船で良く遊んだよね。


 犬生の想い出で膨らんだカラフルな風船が飛んでいく姿を、私は虹の橋の上で見上げる。


 さようなら・・・今までの私。


 私は、この七色に輝く虹の橋を渡って天国に向かって一歩一歩踏みしめて歩いている。


 よっこらしょ、よっこらしょ、よっこらしょ、よっこらしょ、よっこらしょ、よっこらしょ。


 ふぅ・・・だいぶ虹の橋の渡ったよね。


 眼下に、よく御主人様とリードで引っ張られて散歩した公園や河原や街の商店街だわ。


 見慣れた風景がこーんなに小さく一望出来るわ。


 思い出すわ。あのコンビニの前で小学生の女の子達にひっきりなしに撫で回されてヘトヘトになった時。


 あの叢で、リード外されて喜んで疾走したら雑草に脚を滑らせて派手にすっ転んで御主人様に笑われたっけ。


 また生前の想い出が蘇ると、カラフルな風船になって膨らんで大空高く飛んでいく。


 いったい何処へ飛んでいくんだろ。あの想い出で膨らんだカラフルないろんな色の風船。


 私は、その風船の一つ一つを視界から消えるまで見守ると、再び天国目指してこの虹の橋を渡る。


 よっこらしょ、よっこらしょ、よっこらしょ、よっこらしょ、よっこらしょ、よっこらしょ、よっこらしょ、よっこらしょ。


 何処までも続いていく、虹の橋。

 

 行くども行くども、天国は見えない。


 天国は、まだ着かないないのかな?


 それでも私は虹の橋を黙々と歩いていく。


 よっこらしょ、よっこらしょ、よっこらしょ、よっこらしょ、よっこらしょ、よっこらしょ、よっこらしょ、


 脚が疲れた・・・


 何でだろ?私は死んでるのに、虹の橋渡っている途中で脚が疲れるなんて?


 でも脚が痺れた・・・



 びゅううううう〜〜〜〜〜〜!!!!



 今度は突風?!虹の橋から吹き飛ばされるぅ!!

  

 堕ちる!!堕ちる!!


 


 ズルッ!!




 シマッタ!!虹の橋から脚を滑らせたわっ!!


 うわーーーーっ!! 


 


 がしっ!!




 とっさに私は前脚で虹の橋を掴んで、宙吊りになった。


 ふぅ・・・何とか助かったけど・・・?!


 げっ!!


 虹の橋の真下には、どんよりとどす黒い川が流れているっ?!


 これは・・・


 奈落の三途の川?!


 ってことは・・・


 地獄?!私、 地獄に真っ逆さま?!


 って、何で地獄に堕ちようとしてるの?私?


 私は考えた。何か生前に悪いこと・・・


 そうだ!!


 私、野良犬時代にお腹を空かせて食い物探してたとき、農家のニワトリ小屋に侵入してニワトリを失敬しようとしたら、人間に追いかけられて命懸けで逃げたっけ。


 しかし、この私の魔が差した行為が私のせいじゃなくていつの間に、ここに棲むキツネのせいにされて・・・人間に勘違いされて濡れ衣着せられたキツネが捕まった事を知った時・・・


 あのキツネとは仲良しだったのに・・・


 私はあの時、なんてことを・・・



 ググッ!!



 虹の橋を掴んでる前脚の肉球が!!滑る!!つ、爪が!!痛い!!


 駄目だ・・・やっぱり私は七色の虹の橋に渡って天国に行くんじゃなくて、真っ黒な三途の川に溺れて地獄に行くのがお似合いだったんだわ・・・?!


 私はキツネを不幸にした!!


 私はキツネを不幸にした!!


 私はキツネを不幸にした!!


 私はキツネを・・・



 ずるっ!!



 堕ちる!!私は虹の橋から三途の川に堕ちる!!


 そうよ・・・これが運命・・・


 地獄で閻魔様に謝らなきゃ。


 私は罪のないキツネを不幸にしましたと・・・



 ふうわり・・・



 えっ?風船?!


 私の目の前に、オレンジ色の風船が飛んできた。


 まさか、この風船は・・・


 今度は赤い風船が、青い風船が、白い風船が、緑色の風船が、黄色い風船が、ピンク色の風船が私周りに次々と飛んできて集まってきた。


 やがて、その風船群は束になってその紐を必死に墜ちないように虹の橋の端を掴む前脚の側にフワフワと揺らした。


 この風船・・・私がこの虹の橋を渡っていた時に今までの生前の想い出が風船になって飛んでいった・・・


 え?あのキツネさんは生きてるって?


 魔が差して襲おうとていたニワトリさんも皆無事だって?


 私が地獄に墜ちそうになってたのは、神様の早合点だって?


 だから、この風船の紐を掴んで脱出して虹の橋に戻って天国に来て!って?


 風船達・・・解ったわ!!


 私は、風船の束を爪でヨイショ!と手繰り寄せてパッ!と両脚の肉球に風船の紐を掴んで、三途の川の脅威から無事に脱出して空をフワフワと飛んだ。


 あ、虹の橋の上に着地だわ。


 ありがとう。風船達・・・


 私は、想い出が詰まって膨らんだ風船の紐を離して虹の橋の上に着地しようとした。


 あれ?!あれあれあれ?!風船の紐が脚から離れない!!


 に、虹の橋から私が離れていく!!


 私は必死に上空でもがいた。


 離して!!私は虹の橋に降りたいの!!だから!!私の脚から風船を離して!!お願い!!


 しかし、風船の紐はどうしても紐から取れない。


 というか、このカラフルな色の風船の束は、虹の橋の天国の向かう方とは逆方向へ私を飛ばしていく。


 待ってー!!待ってー!!私を何処へ連れて行く気なの?!この風船!!って、げっ!!


 私は風船を見上げて仰天した。


 持ってる風船が全部、更に大きく膨らんでパンパンになっていたのだ。


 この風船はどんどん膨らんでパンクするんだわ!!

  

 やっぱり地獄に突き落とすんだわ!!風船に騙されたんだ・・・私!!

 

 それは違うよ?


 そのカラフルな風船はどんどん膨らみながらそう囁くと、其々の風船の吹き口の結び目が解けた。


  

 ぷしゅーーーーーー!!



 其々の風船は、少しずつ想い出という空気を吹き出して萎んでいき、どんどん高度を下げていった。


 な、何するの?!


 私は必死に風船の紐を手繰り寄せて、萎みゆく風船に息を吹き込もうともがいてた。


 しかし、萎みゆく風船は更に高度を下げて目の前にペット葬儀場・・・


 今、正に私の亡骸が火葬されるところだった。


 ぶ、ぶつかるーーー!!


 焦った私は、萎みきった風船の束を前脚から離してしまった。



 ぱぁぁぁぁぁぁ・・・

  



 あれ?何処?ここは?暗いわ?狭いわ!


 こ、この中はまさか?!


 「ねぇ、棺桶の中からクッキーの鳴き声聞こえたよね?」


 「って、クッキーはもう死んだ筈じゃ?!」


 私は暗い場所からワンワン叫び、脚でバンバン蹴っ飛ばした。


 「待って!!クッキーが生きてる?!」 


 御主人様の叫び声が、暗い場所から響く。


 

 ドサーーっ!!



 暗い場所の扉が開いた。


 「クッキー!!生きてた!!クッキー!!ごめんね!!クッキーーーー!!」


 私は号泣する御主人様に抱きしめられていた。


 周囲には、仰天する葬儀場の関係者。


 私は生き返ったのだ。しかも、今正に私の亡骸が火葬される直前だったのだ。間一髪だったのだ。


 嗚呼・・・奇跡。


 空には、カラフルな七色の風船が飛んでいった。


 ありがとう、風船達。私を生き返らせて。


 私は空高く飛んでいく風船を見上げて、視界から見えなくなるまで感謝した。






 〜七色の虹の橋の上で・・・〜


 〜fin〜

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七色の虹の橋の上で・・・ アほリ @ahori1970

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