金色の嘘が世界を回す

坂本 光陽

金色の嘘が世界を回す


 もし、お時間があるなら、少しばかり私の話を聞いてもらえませんか?


 お伝えしたいのは、嘘には色があるということです。ほら、「真っ赤な嘘」という言い方がありますね。例えば、5歳の男の子が大嫌いなニンジンを残して、お母さんから叱られたとします。すると、男の子は言います。お父さんが残してもいいって言ったから、と。


 他愛のない嘘ですね。お父さんからあっさり否定され、男の子はたちまち窮地に追い込まれます。、ただうつむくばかり。これが、真っ赤な嘘です。


「真っ青な嘘」というのもあります。例えば、誰もがうらやむ美人と結婚した男性がいたとします。しかし、美人妻は夫が浮気をするのではないかと疑っている。夫の周囲を気にして、勤務先の同僚や馴染みの美容師、定食屋の女性店員にいたるまで、浮気相手なのではないか、と疑心暗鬼にとりつかれている。


 夫の行動確認に関しては、三十分ごとに連絡してくるなど、強迫観念の域に達しています。そのうち、妻は常軌を逸した行為を見せ始めます。深夜に夫が目を覚ますと、ナイフを手にした妻がジッと見つめていたのです。


「あなた、浮気をしてるでしょ。相手はどこの誰っ?」と、妻は迫ってきます。


 でも、夫は何も言いません。言えないはずです。浮気などしていないのですから。しかし、それでは妻の気持ちは収まらない。そこで、つい嘘を吐いてしまいます。


「君よりも思いやりがあって、優しい女性だよ」と。


 妻はカッと頭に血が上ります。あとはお決まりの刃傷沙汰にんじょうざた。あたり一面、血の海です。血の気を失った夫は、心の底から後悔するのです。


 ああ、嘘なんかつくんじゃなかった、と


 ずいぶんと長い説明になりましたが、おわかりですね。これが、「真っ青な嘘」というわけです。嘘をついたことを死ぬほど後悔する、そんな嘘を指します。



 実は、私たちは「嘘」で商売を行っています。国内だけにとどまらず、世界にも進出しています。日本が輸出している自動車や家電製品と同じですよ。それを手に入れることで、生活が便利になったり、欲求が満たされたり、何らかのステイタスを得たりするわけです。


 例えば、「金色の嘘」というものがあります。その嘘をつくことで、大勢の人が幸せになる。そんな嘘を指しているのですが、これは今の時代、説明が難しいですね。


 情報が限られていてシンプルな時代なら、世の中の価値観は画一化していました。しかし、今は情報化社会が成熟し、多様性の時代です。SNSによって、一人ひとりが自分の主張を世界に発信できる時代です。


「大勢の人が幸せになる」という言葉は、どこか嘘っぽい。どう考えても、信憑性と説得力に欠けています。自分は大勢の中に入っているのか? もしかしたら、入っていないのではないか? 少数派に属する人たちは皆、多かれ少なかれ不満をもつでしょうね。


 これは友人の話ですが、彼は外国政府の中枢に位置する人物と取引をしています。ええ、「金色の嘘」を売っているわけです。この場合の「大勢の人」とは、もちろん国民を指します。


 友人は依頼人に、「国民の多数派が喜ぶ嘘」を売っているわけです。


 ただ、多数派の考えはあくまで多数派であって、その他の人たちには喜ばしいことではない。それは充分にありうる話です。多数派と少数派の間に、大きな対立が生まれることもあるでしょう。


 政治家が一般庶民の考えを切り捨てて、支持層である富裕層の意見に耳を傾ける。これもまた、リアルに受け止められる話でしょう。


 申し訳ありませんが、あなたは富裕層の方ではなく、一般庶民の方ですよね。あなたたちが怒ってしまいそうな「嘘」を友人は依頼人に売っていたのです。一般庶民にとって、それはもはや「金色の嘘」ではありません。


 耳にしただけで不愉快極まりない、そんな嘘は「真っ黒な嘘」です。悪意や差別を含んだそれは、真っ黒以外の何ものでもありません。


 いかがですか? 不思議ですよね。「金色の嘘」は「真っ黒な嘘」でもあるのです。政治がらみの問題を考えれば、よくわかるのではないでしょうか。


 日本政府の隠蔽体質、沖縄の米軍基地問題。世界に目を移せば、ロシアのウクライナ侵攻、アメリカと中国の経済戦争、人種差別による分断など……。これらの問題には多かれ少なかれ、「金色の嘘」と「真っ黒な嘘」が関わっているのです。


 世界は「嘘」であふれています。「金色の嘘」や「真っ黒な嘘」でなくても、それらが対立や紛争、混乱を生んでいることは間違いありません。これはオフレコでお願いしたいのですが、おそらく、すべての元凶は「嘘」なのでしょう。


 その一方で確かなことは、人類が滅亡でもしない限り、世界から「嘘」が消えることはない。言いかえれば、私たちはということです。


 どうですか、あなたも私たちと一緒に働いてみませんか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

金色の嘘が世界を回す 坂本 光陽 @GLSFLS23

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ