ハローワールド

波津井りく

美しきもの

 ある日の天高く雲の上で、泣き虫な雨さんが言いました。


「いいないいな。空さんは朝から夜まで、ずっと色がいっぱいでいいな」


「雨さんは色が欲しいのかい?」


「欲しいよ。空さんみたいに綺麗な……青くて、赤くて、黒いのがいいの」


「ならあそこを見てごらん」


 空さんと雨さんは海を見ました。青い海を。

 広くて大きくて空さんと同じ、太陽と一緒に色が変わります。


「雨さんも海へ行けば、青くて赤くて黒くなれるさ」


「本当だ、じゃあ雨じゃなくて海になる!」


 雨さんは大急ぎで海に落ちて行きました。

 いっぱい増えた海には、大きな生き物も暮らせるようになりました。

 雨さんは空さんへのお礼に、大きな虹をかけました。

 雨上がりに架かる虹は、空さんと雨さんが今でも仲良しの証です。


 ですがそれを見ていた風さんは、雨さんが羨ましくなってしまいました。


「雨ばっかりずるいわ、色がないのは私もなのに」


 怒りん坊な風さんはビュービューと吹き荒れました。

 それにぐらぐらしながら、木々達はいっせいに声を上げます。


「風さん怒らないで。話をしよう」


 ざわざわと木々が葉を鳴らすので、風さんも気付いて下りて来ました。

 誰かに聞いて欲しかったのです。

 自分だけ色がないままだったら、とても寂しい気持ちになりそうです。


「私だけ色がないままなんて嫌よ」


「なら、風さんに花びらと葉っぱを貸してあげよう。ドレスみたいに回して飛んだら綺麗だと思うよ」


「それは素敵ね、でも全部借りたら木々が困るでしょう。枝から落ちたのを貸してちょうだい」


「いいとも。楽しみにしていて」


 それから木々は色とりどりの花を咲かせ、葉っぱを落とす前に夕焼けのように染まることにしました。

 お気に入りの桜や紅葉のドレスで風さんは踊ります。

 季節ごとに変わるドレスは、今でも続く約束の証なのです。




「いいな、世界には綺麗な色が溢れてる」


 そう憧れて世界を眺めている、まだ色も形もない誰かに神様は言いました。


「ならきみも生まれておいで。どんな色になってもいいんだから」


 それを聞いた誰かは、名前を貰い何色になるか冒険するために、生まれて来ることにしました。


 今もこの世界にはたくさんの色が溢れています。

 けれど一番美しいのは、全ての色が綺麗に見える透明な心なのです。



【おしまい】

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