1680万色に発光するゲーミング転生者、異世界で安住の地を探す
雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞
帰るべき場所
転生者がチートなりぶっ壊れスキルなりをもらうなど、昨今では珍しくもない。
ご多分に漏れず、俺もスキルを授かった。
1680万色に発光する力。
そう、ゲーミング勇者だ。
……なんの役に立つんだよ、これが!?
最初こそ、「うぉ、まぶしっ」「こんだけ輝いてるってことは勇者じゃね?」「光ってるもんは何でも勇者ってことにしておけばいいべ」と、とんとん拍子に勇者であることは認めてもらった。
だが、別にこの世界に魔王とかはいなかったし、そもそも俺に1680万色に発光する以外の力も無かった。
あっと言う間にことが露見した俺は、最初の町から追放される。
そこからは、あてどのない旅の始まりだ。
次の町へ向かっても、「光り輝きすぎて逆に気色悪いな……カエレ!」と追い返される。
森の中で夜営しようとすれば、俺の光に引きつけられて昆虫系魔物がめちゃくちゃ寄ってきて寝られない。
昼間は昼間で日光に負けないぐらい輝いているので、町に入ろうものなら「色がうるさい!」と理不尽な言葉を投げかけられる始末。
そんな日々が一年近く続き、俺はほとほとまいっていた。
転生なんてしなければよかった。
いい感じに消滅して安寧を味わっていたほうがよかったのだ。
いやだって、目を閉じていても自分の色が騒がしすぎててうまく眠れないし……。
自暴自棄。
いっそ身投げでもしてやろうかと、港町まで来たときのこと。
俺は、ひとりの少年と出会ったんだ。
彼は漁に出た父親の帰りを待っていた。
けれど霧が出てしまい帰ってこられず、行方不明になって何日も経つらしい。
灯台はないのか訊ねると、壊れていて使い物にならないという。
……そうだな、俺には関係の無いことだ。
けれど、死ぬつもりだったんだ。
どうせならこの世界に、爪痕を残してやろう!
そんな心持ちになった俺は灯台に上がり込み、最大出力で輝きを放った。
出現するのはフィーバータイム。
濃霧を照らし出すゲーミングフラッシュ。
1680万色のハイビーム。
どれほどそうしていたのか解らない。
不眠不休で海を照らし続けた俺の元へ、誰かが駆け寄ってきた。
あの少年と、その父親だった。
二人は俺を救い主だと言い、1680万色の光が導いてくれなければ遭難していたと感謝してくれた。
そして、俺は異世界で初めての仕事を手に入れる。
灯台守だ。
その日から毎日。
たった一日も欠かすことなく、俺は海を照らし続けた。
漁師さんたちの帰る場所を示すために。
ずっとそうしていたからか、いつしか港町の人々は俺を受け容れてくれた。
毎日食事を運んでくれて、話し相手になってくれて、一緒に遊んで、酒を飲んで、笑って、泣いて。
やがて、俺も老いさらばえた。
そろそろ天に召される頃だろうと灯台の中で横になっていると、あの少年がやってきた。
いや、もう少年ではない。父親の後を継いだ、立派な網元だ。
彼の手の中には、赤ん坊が抱かれていて。
孫、なのだという。
彼にとっての。
そして、
「あなたにとってもです」
彼の言葉に首を傾げれば。
かつて少年だった友達は、こう言った。
「この街は、あなたのおかげで事故もなく今日まで存続してこられました。あなたがいなければ、きっとどこかで哀しいことが起きていたでしょう。だからあなたは」
俺は。
「ぼくたちにとって、光り輝く、帰るべき場所だったんです」
彼が泣いた。
気が付けば、同じものが俺の頬を伝っていた。
思えば、追放され、追い出され、爪弾きにされる人生だった。
けれどいまは、こんな俺のことを帰るべき場所だと言ってくれる者たちがいる。
ああ、こんなにも嬉しいことはない。
だから。
ああ、だから。
まだ死なないよ。
そう答えて、俺は全身をひときわ強く輝かせた。
……後年、俺は耀ける聖者として、全ての港町の守護者に認定された。
1680万色。
それは希望、人々を導く光として、この世界に刻まれることになる。
けれどいま、俺はそんなことは知らないし。
ただただ。
ぴかぴか光る俺を見て、目を輝かせて笑う赤ちゃんが。
新しい命が、愛おしかった。
1680万色に発光するゲーミング転生者、異世界で安住の地を探す 雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞 @aoi-ringo
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