無色透明

板谷空炉

無色透明

 無色透明でありたい。

 無色透明であるように、まっさらで、嘘偽り無く、穢れも無く、純粋で、誠実な人間でありたい。

 でも、それは出来ない。

 人間は嘘付きで、罪を重ね、過ちから学ばず、とても阿呆な生物だ。

 かく言う自分も、その生物の一匹なのだが。


 窓越しに空を見てみる。

 本日は美しく雨が降っている。

 窓を少し開けてみる。

 雨の香りでさえ、心地良い。

 無色透明ならこんなふうに、自然の役に立ちたい。偶に災いを引き起こすこともあるけれど、それも自然の摂理だ。

 ああ、自然は美しく、哀しい。

 ずっと残っているものなど無い。長短はあれども、いつかは消え去るのだから。


 ──人間も同じ?

 嘘付きで愚かで罪を繰り返す人間も、自然と同じくいつかは消え去る。

 そして、人間も自然の一部だ。

 

 自然に美しい色があるのなら、愚かな人間にも色の名前を付けよう。

 無色透明でありたい。

 無色透明のように誠実でありたい。

 それは今でも変わらない。


 窓から景色を見る。

 車が通り、人間が歩き、建物はそこにある。

 ──人間は、本当に愚かなのだろうか?

 いや、それは正しく、それは間違っている。

 人間は愚かであると同時に、生きるために独自の進化を遂げてきた。

 車だって、建物だって、そして、傘や服だって、人間が造ってきた。


 ようやく分かった気がする。

 人間は、愛すべき愚かな生物なのだと。

 だから人間は愛し合い、後世に命や知恵を繋いでいく。

 

 自分は人間が嫌いだった。

 だから引き籠もり、たまに外を見る生活をしていた。

 でも、今は少しだけなら受け入れられるかもしれない。

 嫌いな部分も含めて、人間を愛していけたら……

 普通の人間に、なれるだろうか?


 無色透明でありたい。

 無色透明であるように、まっさらで、嘘偽り無く、穢れも無く、純粋で、誠実な人間でありたい。

 例えそれが出来なくとも、そんな人間を、そんな自分を、受け入れたい。

 そう思った。


 再び窓から外を見てみる。

 雨の香りはまだ残っていた。

 だけど空は少しずつ蒼くなり、遠くに虹が見えていた。

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