僕の出した結論

 僕は事件後、ステーキ屋の記事を書いた。直火のステーキのおいしさ、佐々木さんのもてなしの素晴らしさ。


 そんな時、急に編集長に呼び出された。これは記事の内容に腹を立てたに違いない。給料が下がるのも覚悟しなければ。


 そんな思いで事務所の扉を開けると、編集長がいきなり僕に近寄るなり強く手を握る。

「冴島君のおかげで我が社の雑誌は爆発的に売れた! 君の記事は素晴らしかった!」

 何がなんだか分からない。

「あれを見たまえ!」

 壁には横断幕が掲げられていて「祝 一万部達成」とミミズののたくったような字で書かれている。間違いなく編集長のお手製だ。果たして、一万部で大成功なのだろうか。うちにとってはそうかもしれない。


「編集長、僕はステーキ屋について書いただけですよ?」

「君にとってはそうかもしれない。だが、読者は違った。今回の事件の詳細が書かれてないか気になって仕方がないのさ」

 まあ、そんなこともあるかもしれない。

「そこでだ。もっと給料を出すから超能力事件専門の記者にならないか? 雑誌が売れまくること間違いなしだ! それに、君は友人と一緒にいるだけで事件に出会うはずだ。事件には困らないだろう?」


 僕はある程度この展開を予想していた。

「編集長、それだけはごめんですよ。血生臭い記事を書くのは気が進みません。僕はあくまでも超能力の可能性が知りたいんです」

「そこをなんとか」

「じゃあ、これを渡すしかかないですね」

 机に一枚の紙を置く。そこには「辞表」と書かれている。

「なんだと! ここを辞めるというのか?」

「ええ、その通りです」

 僕は玄関に歩を進める。

「それなら結構。文才がないお前に行く場所はないぞ!」

 編集長の方を振り返る。

「大丈夫ですよ。僕にはこれがありますから」

 トントンとこめかみを叩く。



「しかし、それで良かったのかい?」

 梶田がソファーに腰掛けて尋ねる。

「ああ、後悔はないね。そうだ、やりたいことがあるんだ。ペンキを貸してくれないか?」

「かまわないよ。ほら、そこにある」

 梶田は事務所の隅を指す。

「看板に少し文字を付け足しても構わないかい?」

「好きにしてくれ。どうせ看板を見る人はいないだろうからな」


 僕は借りたペンキで看板にこう書いた。「超能力専門 冴島さえじま研究所」と。

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無能力探偵の事件簿 雨宮 徹@クロユリの花束を君に💐 @AmemiyaTooru1993

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