無能力探偵の推理
「さて、死因が発火装置ではないことは明らかだ。そんなものを使えば被害者は暴れまわるから、あんな風にはならない。睡眠剤を飲ませた線もない。睡眠剤は見つかっていないし、そもそも飲ませるのは困難だ。初対面でサシで飲む確率もかなり低い」
「理由はそれだけか?」
「いや、佐々木さんは発火能力で殺そうとしても無理なんだ」
能力で殺すのが無理? どういうことだ?
「佐々木さんの証明書に書いてあっただろう? 『一日三回が限界』だって。彼は事件前にすでに三回使っている。まずは、飯田さんと鹿島刑事にステーキを作った時。次に僕たちや田口さん。最後に被害者の岡本さんの時」
言われてみれば、その通りだ。なんて簡単なことを見落としていたんだ!
「発火装置での犯行は無理がだあって、佐々木さんの能力では殺せない。では、ここにいる全員の能力で殺した可能性を考えよう。僕は無能力だし、テレパシーでは人殺しは出来ない。刑事さんの過去視も物体引き寄せでも難しい。つまり、消去法で飯田さん、あなたが犯人となる」
「それはおかしい。あんたの理論でいくと、電波発信でも人殺しはできないはずだ!」
「そうだな。しょせん素人だ。何が消去法だ!」
「まあまあ、刑事さん落ちついて」
梶田のことだ。消去法以外にも決め手があるに違いない。
「さて、田口さん。あなたは僕たちと一緒にリビングにいた時、オンラインゲームをしていましたね?」
「そうだよ。回線切れがなければ僕たちの勝ちだったんだ!」
「そう、そこがポイントなんです」
田口の言葉を無視して話を続ける。
「みなさん経験があるかもしれないが、電子レンジを使っていると回線が切れることが往々にしてある」
「まさか……」
「そのまさかだ。飯田さんは電波発信を使って電子レンジの要領で被害者の岡本さんを殺したんだ。動機はさすがに分からないがね」
梶田の推理を聞いた飯田さんはがっくりとうなだれぽつりとつぶやく。
「まさか、殺人のタイミングでゲームをやっていたとはな。運が悪いとしか言いようがない」
「確かにそうですね。それがなかったら決め手にかけていましたから」
「くそ、素人に負ける、そんなことがあってはならない! 俺は警察だ。それも有用な能力の持ち主だっていうのに!」
刑事は今にも梶田を殴りそうな剣幕だ。
「刑事さん、落ち着いてください。まだ動機を聞いてませんよ」
佐々木さんが鹿島刑事の体を無理やり押さえる。
「動機……ね。簡単なことさ。ダイニングで岡本に会った時、一目惚れしたのさ。何度もアタックしたが俺になびくことはなかった」
「まさか、それだけで殺したの? 恋愛なんてゲームの中だけでも十分だと思うけどなぁ」
「それだけなら良かった。だが、あいつは俺の能力をバカにしたんだ!」
あまりにも短気すぎる。下手したら鹿島刑事より短気かもしれない。
「悔しいが、お前の勝ちらしいな」
鹿島刑事が手錠をかけながら言う。
「当たり前さ。あなたは知らないらしいが、僕の推理力を買って大勢の刑事が相談に来るんだ。今度困ったことがあれば、ここに連絡してくれ」
梶田は名刺を差し出す。
「超能力専門探偵か。覚えておこう。頼ることはないと思うがな」
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