金色の鳥
寄鍋一人
とりあえずから揚げ
冒険者なら一度は追い求めることがある。
いくつもの逸話を持つ
何でも願いを叶えてくれる。抜け落ちた羽は何にも勝る剣に生まれ変わる。こぼれ落ちた涙はあらゆる傷や病を治す。不死で倒すことができない。
そういった類の伝説が冒険者の間では語り継がれている。
だが金色の鳥は、一生に一度会えただけでも運がいいと言われるくらい、まずお目にかかれない代物だ。だから語り継がれてきた逸話も全てが都市伝説と成り果てている。
「なぁ、あの噂知ってるか?」
一仕事終えて酒場で一人酒をあおっていると、知り合いの冒険者が言い打ちするようにやつてきた。
「噂って、金色の鳥のことか?」
「ああ、なんでもそいつの肉がとんでもなく美味いらしいんだよ」
冒険者はモンスターの肉などで腹を満たすが、満たすだけでは飽き足らず、創意工夫を凝らして料理として昇華させる美食家がいる。
俺も目の前のこいつもその美食家というやつだ。
その美食家の間で、伝説の金色の鳥が美味いという噂が広まった。
不死なのにどうして肉の味が分かるのかは甚だ疑問だ。しかし不死なのかもそもそも不明だし、存在すら都市伝説。美味いと思ったほうがロマンがあって追い求め甲斐がある。
「一度食ってみてぇもんだなぁ……」
「そうだなぁ……。まぁいくら徳を積んでも無理だろうな」
そう、無理だろうと思っていた。
「マジかよ……」
金色の鳥は都市伝説ではなく実在していた。
森の奥深く、突然現れた湖のほとりで光り輝くそれは、羽を休め無防備に水を飲んでいた。
あの数々の噂は本当なんだろうか。美味いんだろうか。冒険者の、そして美食家の性が体を動かす。
それは思ったより警戒心がないようで、こちらに気づきはしたものの逃げる素振りはない。
それどころか――。
「人間か」
人間の言葉を発した。オスかメスか分からない、だが敵意はなさそうな声色。
距離を詰めても問題ないと判断した俺はそいつに近づく。頭を起こせば俺の身長と同じくらいはある巨体だった。
「お前のような人間は見たことがない。敵意はないが
聞けば、出会ってきた人間はみな敵意や欲望を剥き出しにして襲いかかってきたらしい。たしかに俺みたいに、美味そうという好奇心で心が踊っている奴はそうそういないだろう。
「面白い。願いを一つ叶えてやろう」
何がお気に召したのかは分からないが、願いを叶えてくれるという噂は本当だったらしい。
ならば美味いという噂も本当なんじゃないだろうか。そう思ってダメ元で望む。
「……あなたの肉を分けていただくことはできないでしょうか……?」
金色の鳥は一時キョトンと困惑し、我に返ったように高らかに笑った。
「ハハハハハハッ! やはりお前は面白い。いいだろう、不死の私にとって肉の欠片をやるなど造作もない」
そう言って翼を差し出し、一思いに切れ、と言い放った。さすがに一度躊躇ったがこいつも変に頑固らしく、譲り合った結果、結局剣を一振りして肉を削いだ。
「なんだ、それだけでいいのか。謙虚なやつだ」
削ぎとった欠片すら神々しく光り輝いていた。これを見てしまっては、もっと欲しいという気持ち一周回って消え失せる。
「気に入った。次に会ったときにはまた私の肉をやろう」
そう言い捨てて、金色の翼を広げて舞い上がり、空の彼方へと消えていった。
さて、手のひらで輝くこの肉はどうしたものか。
食あたりのリスクを取って鳥刺しでいただくか、さっと火だけ通すか。
「とりあえずから揚げかな……」
その夜、おそらくこの世で初めての金色のから揚げが完成した。
味は正直卒倒しそうになるほどに美味かったが、細かくはしばらく俺の心の内に秘めておいて、優越感に浸らせてもらうことにしよう。
金色の鳥 寄鍋一人 @nabeu
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