物書き最底辺のボヤキ

白夏緑自

第1話

 いったいいつまで、こんなことを続けるのか。

 今日も僕は惰性に近い気持ちで、とりあえずPCの前に座る。


 いい加減に気づいている。僕には才能がない。中学から文章を書き続けて、もはや十年近くになる。それがどうだ、部活や授業、サークルにアルバイト、仕事を言い訳にしてまともな賞に応募したことなど一度しかない。

 遊びも遊び。そのくせ、ネットに投稿した小説のPV数には一喜一憂する。いや、ずっとわずかな数字を叩き出しているおかげで、実は一つ増えるだけでも嬉しい。安上がりな幸福で満足はしている。頂いたコメントは十分ぐらい噛みしめている。


 だけど、やっぱりランキング上位に並ぶ星の数を見ると鬱々とした気分になる。きっと、作者の彼らは僕よりもずっと若いのだろう。学生──中学生も珍しくないはずだ。書き始めて一年以内の人だっているのかもしれない。

 彼らにはきっと才能がある。どこまでに通じるものかはわからない。ただ、少なくとも僕よりも多くて、鋭くて、輝いている。僕が十年細々と書き続けていても、到達できなかった領域に彼らは既に達している。

 

 悔しくはない。強がりではなく、本音だ。悔しくはないのだ。ただ、どうしても“差”は意識してしまう。彼らの作品と僕の作品。何が違う? 何が足りない? 何を意識して書けばいい?


 キャラクターだろうか。確かに、僕の作品に登場する人物たちに派手なキャラクター像は存在しない。良し悪しはあるだろうが、カクヨムの読者層に向けるならば必要なことだろう。だいたい、僕だって書き始めの動悸はライトノベルなのだ。リアル寄りの作品にだって、魅力的なキャラクターは数多く登場していた。


 展開もそうかもしれない。テンポも違うし、見せ方だって、人気作に比べると大変な違いがある。

 例えば、僕の作品は気が付くと、登場人物がずっと喋らずにいる。一人の胸中でずっとブツブツと考え事をしてしまう。これでは、テンポも悪くなるうえ、キャラクター同士の掛け合いも発生せず、関係性も育たない。つられてドラマも生まれない。楽しめる要素がどんどん削られていく。

 

 ここまでわかっているなら、意識して書けばいい。アニメやライトノベルに登場するキャラクターを意識して、登場人物を作成して、彼らに会話をさせればいい。そうやって自然発生するドラマに任せてキーボードを叩けば、多少はマシな作品が出来上がるかもしれない。

 

 わかっていても、できないことはある。スポーツ選手のプレーを真似ても同じ動きができないのと同じだ。だいたい、僕には十年溜まり続けた悪癖がある。こうやって、グチグチ内心で呟かせる癖がある。

 このままでは、いつまで経っても最底辺のままだ。どんどん年を取って、流行や主流にも感性が追いつけずに、独りよがりを吐き出し続ける。

 今の主流や売れ線を僕が身に着けている頃には、もっと違う流行が世間に生まれているかもしれない。ずっと僕はその百歩後ろを附いているだろう。

 

 いつか、僕は書くことをやめるのだろうか。いつまで続けるのか。テキストファイルを閉じて、書き溜めたUSBも押入れにしまったら、僕のこの無為な趣味は終わる。

 

 だけど、同時に始まってすらいないのだろうとも考える。毎日毎日仕事以外の時間をPCに向かいあっているわけではない。〆きりに追われているわけでもない。一円でもこれで稼いでいるわけでもない。


 例え、僕が書くのをやめたとしても、それはただ書かない時間が出来ただけ。趣味を休んだ。その程度だ。ただでさえ遅い投稿ペースがさらに遅くなる。しかも、誰も気が付かないのだから。始まってすらいない僕に終わりがあるはずもない。


 そんな、物書きとしては最底辺な僕でもまだ描き続けているのは、やはり、これしかないから。絵も歌も、その他の表現方法全てが下手くそな僕にはこれしかない。

どんなに下手くそでも、文字と言葉はキーボードを叩くだけで万人が認識できる形に出力してくれる。

 そのうえ、多少は僕にだって書き上げたい物語がある。一度思いついたものは形にして残したい。きっと、これを読んでいる、小説に限らずとも作品と言うものを作った人ならわかってくれるだろう。どんなに下手くそでも、注目を浴びなくとも、創作という行為には何とも言い得ぬ熱がある。

 その熱に身を任せることがたまらなく好きだ。最後の一行を書き上げた時に溢れる快感には中毒になっている。

 


 人気の出る作品も書けない。誰にも求められないまま、いったい、いつまで書き続けるのだろうか。

 きっと、死ぬまで書き続けるだろう。何度立ち止まっても、気が付けばまたPCに向かい合う。


 ただ僕は、僕の中で渦巻く熱を放出し、やがてピリオドと共に打つ脳内麻薬を味わいたいのだから。今日も惰性でキーボードを叩き始める。

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