とりあえず付き合ってみる話

藤浪保

とりあえず付き合ってみる話

 ベビーベッドに寝かされた私の横に一緒に寝かされたのが最初。もちろん覚えてないけど、写真にしっかり残っている。


 家が隣で、母親同士も仲が良くて、小中高と一緒。幼馴染み。腐れ縁。


「まさか大学も一緒になるとは思わなかったけどな」

「偏差値が合ってて実家から通えるのがここしかなかった」


 嘘。こいつが受けるって知って猛勉強した。だいぶ背伸びして、なんとか滑り込んだ。


 つり革に掴まる横顔を見る。


 イケメンではない。だけどそこそこモテているのを知っている。高校でも何度か告白されていた。なのに彼女いない歴=年齢。


 私も人のことは言えない。彼氏いない歴=年齢。小さい頃からこいつ一筋。ずっと片想い。


「今日、放課後、忘れんなよ?」

「わかってる」



 * * * * *



 ベビーベッドに寝かされたこいつの横に俺も寝かされたのが最初。母親たちの話によると、こいつは目が覚めて俺の存在に気づくとギャン泣きしたらしい。


 最悪の出会いだったろうに、俺たちは仲良く育った。思春期にありがちな気まずさも、クラスメイトからの変なあおりも特になく、良きお隣さんとして。


 今も二人で水族館にいるというのに、なんの意識もされていない。課題のために来ているだけでデートでもなんでもないから当然だけど。


 薄暗い館内で、水槽からの光に照らされる横顔を見る。


 特別に美人というわけではない。しかしこれでそこそこモテている。ムカつくことに大学でもすでに目を付けられていた。


 さすがに彼氏ができたら、俺とは出掛けてくれなくなるんだろう。俺にすればいいのに。


「え?」

 

 こちらに向けられた目が大きく見開いている。


「あれ、今、俺、口に出して――うぇぇ、いや、今のはそういうんじゃ、なくも、ないけど」


 誤魔化してももう遅い。顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。目の前の顔もすげー真っ赤。かわいい。


 さ迷った目が、またこっちを見た。


「えと、とりあえず、付き合ってみる?」

「よろしくお願いします……」

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とりあえず付き合ってみる話 藤浪保 @fujinami-tamotsu

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