どこまでも粘り強く
フジノハラ
第1話
「はあ…今回もダメだったか」
先方と、とりあえずあれやこれと動いたもののなしの礫でとりあってすらもらえなかった。
とはいえ、今回だめでもとりあって貰えるまで何度でもお伺いをたてるのが営業だ。
とりあえずまた、一から考え直さねば。
最初は自社パンフレットをもって営業先の開業したばかりのクリニックへと向かったが、受付で早くも門前払いをうけてしまった。
「ごめんなさい。製薬メーカーさんは帰すようにって先生から言われているんです」
「いえいえ、今日は帰りますが、また来ます!」
受け付けに立つ女性から申し訳なさそうに断れた間山は、ニカッと笑って一礼してもどっていった。
社に戻った間山はとりあえず日々の仕事をこなした後、門前払いをうけたクリニックへの資料制作をしていく。
次の日、前日作成した資料を持参してクリニックへ向かう。
「おはようございます。昨日はお忙しいところすみませんでした」
「おはようございます。昨日はこちらこそすみませんでした」
「本日は弊社の医薬品リストとこちらのクリニックで使用の見込める医薬品のリストと治験データになります。良ければ先生にお渡し出来ないでしょうか?」
「はい、お預かりしますね」
「よろしくお願い致します。では、今日のところとりあえず失礼します」
資料を受け付けの女性に託して間山は会社に戻り、昨日と同じように仕事をこなし、空いた時間でまた新たな資料をつくる。
そして、次の日もまたクリニックへと向かった。
「おはようございます。昨日の資料は先生はご覧になってくれましたか?」
「あぁ、どうだったかなぁ…?ちょっとそこまではわからなくて…」
「そうでしたか、実は今日、昨日お渡しした資料と合わせてそちらのクリニックで今後必要になるんじゃないかと思われる医薬品リストと資料をお持ちしました。こちらも先生にお渡し下さい。」
「はい、ありがとうございます。お預かりしますね」
「では、今日はとりあえずこれで失礼します」
いつも通り仕事を終え。とりあえずクリニックに持参する資料をつくり、また次の日、クリニックへと向かった。
「おはようございます。で、どうでしたか?お渡しした資料、読んでもらえましたかね?」
「先生は忙しいから、もしかしたらまだ読んでらっしゃらないかも知れません…」
「あぁ、そうですよね…。今日お持ちした資料は弊社で開発されたの医薬品についてなんですが、先生の専門は呼吸器でらしたので、今は治験中ですが近いうちに医薬品登録が受理される予定です。その際には是非先生にご意見賜りたいと思い資料を持参した次第です。何卒先生にお渡し下さい」
「はい、お預かりしますね」
「よろしくお願いします。ところで、先生とはお会いできませんか?」
「すみません。内診で立て込んでいるため…」
「いえいえ、ご無理言って申し訳ないです。また来ます!」
そんなこんなでとりあえず社に戻った間山は今に至る。さて、これからどうしたものかと頭を悩ませた間山は将を射んと欲せば先ず馬を射よである。次の日間山はクリニックに向かう道すがら、とりあえず女性が好きそうなお菓子を購入して向かった。
「おはようございます。いい天気ですね」
「おはようございます。そうですね」
「これ、よかったらお菓子空いた時間に皆さんで食べて下さい」
「わぁ、良いんですか?甘い物好きなんですよ〜」
「それなら良かったです。ところで、先生は資料に目を通してくれましたか?」
「ん〜、どうでしょう…まだ読んでらっしゃらないかも…」
「そう、ですか…とりあえず、何かお困りの要件とかありますか?あ、勿論私が連日お邪魔してること以外でっ」
「ふふふっ、…ええっと、あ、そういえば裏の物置にある物が重くて…」
「なら、取りに行くの手伝いますよ」
「良いんですか?ありがとうございます」
受け付けの女性は他の人に受け付けを任せ、2人で物置までいって重いダンボールを運んだ。
「運ぶの手伝って頂き、ありがとうございます」
「いえいえ、お役にたてて良かったです。では、今日はここで失礼します」
会社に戻った間山は、とりあえずいつも通り仕事をこなし、次の手を考える。今日は少しクリニックのスタッフと打ち解ける事が出来た。この調子でスタッフと打ち解ければ優遇してくれるかもしれない。
次の日も菓子折りをもってクリニックに行った間山は、昨日と同じように手伝いを申し出て、雑事をすましてから会社に戻り仕事を終わらせる。
今日こそはアポイントメントをとるためにまた菓子折りを持ってクリニックに向かう。
「おはようございます。今日はどうですか?」
「おはようございます。いつもお忙しいなか顔を出してくれてありがとうございます。今日は特になにもなかったかと…」
「そうですか、それなら良かったです。ところで、先生とお会い出来る時間つくれませんか?前にお渡しした資料についておききしたく」
「…そうですね。聞いてみます。少々お待ちください」
「ありがとうございます!」
奥に引っ込んでいった受け付けの女性は直ぐにもどってきた。
「お待たせ致しました。先生、お会いになるそうです」
「あ、ありがとうございます!」
「では、明日また同じ時間にお越しください」
「はい。ではまた明日よろしくお願いします」
やっと、アポイントメントをとれた間山は意気揚々と会社に戻り、とりあえずいつも通りの仕事をこなし、明日に備える。
ついに今日、先生と話す機会を得た間山は菓子折りを持ってクリニックに向かい。
「おはようございます!今日はよろしくお願いします」
「おはようございます良かったですね。先生は奥でお待ちです。どうぞ」
「はい、失礼します」
「あんたか、連日うちに来ては資料やら菓子折り持ってくるメーカーは…とりあえず座ってくれ」
「ありがとうございます。失礼します。先生、わたくし〇〇製薬メーカーの間山と申します。よろしくお願いいたします」
「で、間山さん、あんたこの資料。どういうつもりで押し付けたんだ?」
「とりあえず最初の資料から順に御説明させて頂きます………ーーーーこのような事から、そちらのクリニックは従来の医薬品を使用していると思いますが弊社の医薬品ですと、患者さんにお安く提供出来るだけものも多く。効果についても申し分ないと思います。どうでしょうか?」
「つらつらとよく回る口だな」
「あはは、お褒めに預かり光栄です」
「ふん、ところでキミ、この薬についてはどう思う?」
「弊社の薬ではないですが主観で話させていただきますと…そうですね。無難ではありますがそれだけです。他のメーカーで出している医薬品ではそれぞれ、効果に重きを置いているもの、コスパや副作用を抑えたものなどがあるなかでそちらはただただ無難です」
「そうか、とりあえず君のよこした資料は検討しよう。またきたまえ」
「先生ありがとうございます!」
間山はなんとか営業の仕事の足がかりを得て。仕事終わりにスーパーに寄ってとりあえず何かお腹を満たす物を購入した。
なぜだか知らないが、無性に鳥が食べたくなっていた。
トリあえず鳥が食べたい。そんな重いから鶏ももと鶏胸肉どちらも購入して、鶏胸肉は茹であげてから、細かく割いてゴマダレとあえて。鶏ももは刻んた玉ねぎと醤油さけ砂糖味醂で味付けして炒め、仕上げに卵を…と、冷蔵庫から卵を取り出そうとしたところ、卵がなかった。
最初作ろうとしていた親子丼が出来ない…。仕方なく唐辛子を少し、片栗粉で軽くとろみをつけて‘’鳥の甘辛丼”という事にした。
残念ながら親子のトリあえず終いのトリ丼ではあるが、仕事をやり切った今日の締めくくりに好きなだけ胃を満たすのだ。
「いただきます。…ん、うっま」
どこまでも粘り強く フジノハラ @sakutarou46
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