落語

@comsick_

コアなファン。


世の中には色々な道楽がございます。読書やら演芸といった脳を使ったり、作業を楽しんだりするものから、ハイキングやスポーツのような体を使うといった社会的にも「善」とされるものもあれば、「ギャンブル狂い」のような、公言すると顔をしかめられるようなものまで。まあ、人に迷惑をかけなければ、道楽なんてものは、何でもいいわけではございます。


さてさて。

この物語に出てくる主人公の男は、兎にも角にも「食い道楽」。最初は出されたものを食するだけでしたが、徐々に料理を覚えるようになり、今では畑を耕して自分で作物を育ててそれを食べるようになりました。


「いつも、精が出ますな」と、近所のみなさんが男に声をかけます。自分の好きなことをやってるわけですから、もう一生懸命なのでございます。返事もそぞろに、作業に打ち込み続けるので、農作業の腕はみるみると上達していき、そして好きなことだけに勉強にも熱心なもので、いつのまにか地域でも有名な農業家になっていたのです。


そんな食道楽は、畜産関連にも及び出します。特に注力したのは「鶏」。品種から飼い方、餌の内容に至るまで試考とチャレンジと吟味を重ねます。ついたあだ名は「鶏男爵」。最初の頃は、好奇の目でみていた近所の人たちも狂気的とも言える男の入れ込み具合に尊敬の念を抱くようになるのです。その頃から「コアなファン」がつくようになりました。私は、世の中の軽い動きに惑わされるような連中に対して、心のなかでは良いイメージを持っておらず「コアなファン」を大切に考えていました。


彼の生産する鶏と卵は「これまでにない味わい」だと、耳目を集めるようになります。最初は徐々に地域から広まっていったのですが、口コミの凄さは「本物だと加速度に拡散される」ということ。SNS時代でもあり、男の生産する鶏と卵の評判はうなぎ登りでございます。


そんなある日。男が料理大会に参加することになりました。これまでの腕を存分にふるい、自分が造り上げた野菜や畜産物で、豪華な料理に仕上げたのです。


大会の日、人々はその美味しさと彼の技術に驚きます。「これは美味すぎる…」と絶句する者たちが続出。しかし、訝しげな顔をするも者もいました。「コアなファン」たちです。


それをみて、男はニヤッとして言いました。「今回の料理は、トリあえず(鳥和えず)ですわ」。本質を見抜いていたコアなファンたちは、同じくニヤッと笑いました。


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