トリに襲われて異世界転生するなんていう情けない話は俺だけで十分です

枠井空き地

トリに襲われて異世界転生するなんていう情けない話は俺だけで十分です

 ―――まぁ異世界に転生するのはいいさ、こんな時代だ、しょうがない。現代日本人の約60%が異世界への転生を経験済みという統計もある。

 だから、転生そのものは構わない、ただその経緯だけが納得できないだけだ。


 公園のベンチで昼飯のサンドウィッチに噛り付いていた俺は、いつの間にやら俺はおこぼれを狙う十数羽の鳩たちに囲まれていた。

「シッ、シッ!!」

追い払おうと声を上げて腕を振り回したが、さすがは都会の鳩ども、動じやしない。仕方なくサンドウィッチを急いで食べ切った俺は……

「イェ~~!もう無い~~~」

わざとらしく両手を広げて鳩を煽る。我ながら情けないものがある。ただ、しかし鳩たちは納得しなかった。まだあるだろ?と言わんばかりに距離を詰めだし、勇気のある一羽の鳩が俺に飛びかかってきた。そしてそれに続けてとばかりに残りの鳩も俺に襲い掛かる。しかも、どうやら騒ぎを聞きつけた他の鳥、カラス、トンビ、トキも俺に群がってきた…………トキ??

 

 たまらずベンチから立ち上がり、逃げ出す。情けない光景だが、その時の俺にはそれが精一杯だった。走っているのに平気でついてくる鳥たち、そしてそれから必死で逃れる俺。そしてその必死な俺は車道にまで出てしまったことに気が付かなかった。


 そっから先はもういいだろ。とにかく鳥に襲われこの異世界に転生した、という訳だ。情けねぇ。


 そうひとりごちていると肩のあたりを突っつかれた。

「で、お前、ドッからどうやってキたンだ?」

 そう聞いてきたのは転生したばかりの俺を助けてくれた原住民の少年だった。

―――そういえばこの子の家に連れてきてもらったばかりで、この子とは会話の途中だったな。訛りがあるとはいえ日本語が通じるタイプの転生で良かったゼ


「あぁー……二ホンってとこからなんだが、その……鳥に、襲われて……」

「トリ?それはなんだ?」

「ああ、そりゃあれだよ、空飛んでるやつ、ほら俺たちの上の方を飛んでるやつさ」

「空をトブ…………トブってなんだ?」

「??空に浮かんでるってことさ…………いや、まさか"空に生き物なんて居ない"のか?」

「そうさ、空にいられるのは"ピゾーン"神のみ、生き物はいてはいけないんだよ」


 なんと……この世界に鳥はいないのか。なんたる皮肉、鳥に襲われ転生した世界に鳥がいない、とは……。

 そう驚くのも束の間、俺の中に少し薄暗い考えが芽生えたーーーどうせ知らんのなら、トリあえず……あっ、とりあえず(ひどすぎる、最悪にも程がある、IPPONグランプリで回答に一点もつかなかった時の空気感を五十回くらい味わわせてやらんと収支がとれない)ちょっと嘘ついて見るか、面白いことになるやもしれん。


「あぁ……そう、そのピ、ピゾーンと俺は別の世界で戦っていたのさ、しかし、くしくも!その戦いに敗れた俺はこの世界へと飛ばされる羽目となったのさ」

「本当に!?ちょ、ちょっと待って、今おじいちゃん呼んでくるから!」

そういうと少年は俺たちがいた小屋から飛び出していった。なにかスゴく嫌な予感がした。


 しばらくすると、少年は二人のジジイを連れてやってきた。母方と父方かな?

 いや違うぞ、これは。身なりが、違いすぎる。一人は少年と質感が変わらない質素なものだが、もう一人は装飾品を多く身に付け服も上等そうなものだった。嫌な予感がするぞぉ~~~


「この人はぼくの村の長老だよ!何でも知ってんだ!」

少年が身なりのいい方を指して言う。やっぱりか……なんか、これからの予想がついてしまう……

「……あ、あなた様は別の世界で"ピゾーン"神をお戦いになったとか……ひょっとして、その戦いのきっかけはあなたの食事が侵されたため……ではありませんでしたかな?」

「うっ、そ、うですが……」

少年とその祖父が、おおぅと唸る声が聞こえる。

「その食事とは”サンダーチ”と呼ばれるものではありませんでしたかな?」

発音が似てる~~~!!!

「た、たぶんそうですね……」

 不思議と、何で知ってるんだという疑問はあまり湧かなかった。どちらかと言えばどこまで知っているのか、そしてこれから何が起こるのか、という方向に意識が集中していた。そうしている間にも周りの人たちの何か期待のようなものが膨れ上がっていく気がした。


「"ピゾーン"神に追われたあなたは、更に悪魔”トラーク”にも追い打ちをかけられ、世界を追われた―――違いますかな?」

「うん……もう、そうです」

過去イチで周りが沸いた感じがある。

「やはり、全てが神話と合致する…………!来訪者サマ、あなたは神話で予言された”救世の勇者”サマでありましたか……!」

 そう来たか。嫌な予感ド直球のやつが来た。俺は慌てて訂正しようと試みる。

「あのねぇ―――」

「勇者サマじゃぁ!この方は勇者サマだったんじゃあ~~~!!!」

さっきまで孫と一緒に見ていた祖父の方のジジイは、興奮したのか叫びながら家から走り出ていった。

「なっ、テメっ、ジジイ!!」

 慌てて追ったが、もともと物珍しさに村人が周囲に集まって居たこともあってか、もう既に村人中にこの話は伝搬していた。俺の周りには別の世界から来た”救世の勇者”に触れようと子供や若者が纏わりついてきた。鳥どもと変わりねぇーじゃん!!


 そこから先の話はいるか……?まぁ、するけど。あれから、あれよあれよという間に勇者へと仕立て上げられた俺は「特に何の能力に目覚めたわけでもないのに」魔王との戦いへと駆り出されることとなった。

「助けてくれぇ~~~~~~~!!!!!」

 みんなもトリには気をつけようね!!!!


 

 

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トリに襲われて異世界転生するなんていう情けない話は俺だけで十分です 枠井空き地 @wakdon

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