強制誤変換事案における調査日誌

うたう

強制誤変換事案における調査日誌

 3月20日(水)


 文章を入力する際、強制的に誤変換されてしまうという障害が発生するようになってから2ヶ月が経つが未だ解決には至っていない。調査はアシたを期限に打ち切られることになるが、どうにかヒキ続き調査を行えないものだろうか。

 現状では、原因の特定までは至れず、仮説を打ち出すのが関ノヤマではあるが。

 トリあえず、仮説を記しておく。


 柿本人麻呂の呪いである可能性を考えたい。

 なぜ人麻呂であるのかは、まだ論理的には説明できない。残念ながら直感的なものに過ぎない。

 人麻呂の死については諸説あるが、その中のひとつに刑死したとするものがある。またいろは歌の作者は不明であるが、人麻呂こそがその作者ではないかと唱える学者がいる。その学者の言説によれば、人麻呂はいろは歌に怨みを籠めたのだとか。いろは歌を七文字ごとに区切って書き、最後の文字を拾っていくと「咎なくて死す」という言葉が確かに浮かび上がるが、どうであろうか。

 しかし、もしもこれらの説が真実であった場合、人麻呂が成仏できずに怨霊になっていたとしても不思議はない。


 今日は調査最終日であった。できる限りのことはやろうと思い、奈良県へ赴いた。霊能力のあるもノヲ伴い、柿本寺跡とその周辺を探索した。人麻呂の遺骨は柿本寺に埋葬されたと聞くが同行者が言うには、邪悪な念は感じないとのことだった。

「あちらの方角に何かある」と同行者が言うので、柿本寺跡を離れ、山へ向かう。しかし途中、いノシしに出くわし、やむなく退散するに至った。

 天理駅周辺で聞き込みをしてみたが、悪あがきにすぎなかった。人麻呂のたタリヲ恐れているという人には出会えなかった。

 調査を始めてからずっと霧ノナカを彷徨っている気分だった。最終日も結局芳しい成果は得られナカった。調査継続の必要性を訴え、電話で本部を説得シヨうと試みたが、不便ではあっても実害の乏しい事案であるため、これ以上の予算は付けられないと取り付く島もなかった。


 帰りの電車の中で、溜息ヲヒトつ吐く。同行者も無言だった。

 途中、どこかで叫ぶような鳥の鳴き声を聞いたが、あれはゆリカモめだったのだろうか。疲れもあってかネム気に抗えず、窓の外に目をやる気力もなかった。

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強制誤変換事案における調査日誌 うたう @kamatakamatari

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