トリ 五分クッキング(放送事故)

佐々木 凛

第1話 放送事故

 軽快な音楽とともに、明るいスタジオが映る。広い作業台のあるシステムキッチンの大理石は、照明器具で照らされて光沢を放っている。そしてその真ん中には、みんな大好き、あの正体不明のトリがいる。

「さあ、今回も始まりました。トリ、五分クッキングのお時間です」

 今回で放送が五十回目ということもあり、トリの司会は手慣れたものである。そのカギかっこだか、二ピースのジグソーパズルだか分からないトレードマークが描かれた淡い緑色のエプロンも、視聴者の皆さんにとっては見慣れたものだろう。

「それでは、今回は放送が五十回目ということでスペシャルゲストに来ていただいています。どうぞ、お入りください」

 そう言ってトリは、両手(両羽?)を高々と上げて拍手の態勢を取った。しかし、待てど暮らせど、誰もスタジオには入ってこない。何かの手違いだろうか。これが所謂、放送事故というやつだろうか。

 だとしたら、五十目の記念放送のタイミングでこのようなことになってしまうとは

「ねえ、いつまでナレーションしてんの。早く入ってきてよ」

 ……え、俺?

「そうだよ、君に言ってるんだよ。あのさ、僕が作者の言う通りに何でも喋ると思ったら大間違いだよ。さあ、早くこっちに来てよ」

 いや、そっちには行けないというかなんというか……ていうか、なんで普通に俺と話せてるの? 俺は作者で、トリはこの小説の登場人物だよね。俺が書く通りに喋って、俺が書く通りに動く存在だよね。どうなってるの?

「僕、トリだよ? いわば、このカクヨムのすべてを司るものだよ。君に言いたいことがあったからさ、とりあえず第四の壁を壊しといた」

 第四の壁って、作品の内側にいる登場人物と作品の外側にいる俺や読者みたいな人間が、互いに干渉しないようにするための壁でしょ。

 これがあるから、映画や小説の中で連続殺人鬼や怪物が出てきても、読者や視聴者は楽しんで見ていられるっていう、重要なやつでしょ。とりあえずで壊していいもんじゃないでしょ。直してよ。今すぐ。

「駄目。そんなことよりさ、僕は君に怒ってるんだよ。僕がなんで怒ってるか、分かるよね」

 そんな面倒くさい彼女みたいに言われても……心当たりなんてありません。

「では、読者の皆さんに聞いてみましょう。皆さん、どうしてこの小説には、僕が出ているんだと思いますか。カクヨムを代表するトリですよ。満を持しての登場です。それなのに、もうすぐ千文字になるというのに、全くもって私を登場させた意味が分からない。それどころか、キャラ崩壊ばかりさせている。これが何を意味するか、分かりますか」

 第四の壁を壊して自由意思で喋ってるんだから、キャラ崩壊は俺のせいではないのでは?

「うるせぇ。顔は中の下、成績は下の下の分際で! お前毎日アホ面浮かべながらパソコンの画面にかじりついてんの知ってるんだからな」

 とんでもない風評被害なんですけど。とんでもないフェイクニュースなんですけど。こいつ、とんでもない噓つき野郎なんですけど。

「それ以上話を誤魔化そうとするなら、お前の検索履歴をここで発表してやってもいいんだぞ」

 ふん、そんなことできるわけn

「お前の検索履歴からは、犯罪の匂いがするな」

 それは、ミステリー小説を書きたい俺が調べ物をしているだけだ。やましいことはなにm

「女子アナ 放送事故 むn……」

 止めろ! それ以上何も言うな。分かった、俺の負けだ。なんだ、どうすればいい。

「とりあえず、謝れ。ここまで読んでくれた、クソつまらない茶番に付き合ってくれる稀有で寛大な心の持ち主たちに。そしてなにより、無駄に駆り出されたこの僕に!」


 え~、この度は誠に申し訳ありませんでした。本当に、今回のお題である“トリあえず”に関しては、なにも思いつきませんでした。

 しかし私事で恐縮なのですが、KAC2024のお題全てに作品を投稿することを目標に設定してしまったので、どうしても、何も投稿しないわけにいかなかったのです。だからカクヨムのマスコットキャラクターであるトリを適当に可愛く喋らせれば、なんとなくそれっぽくなると思いました。そんなに炎上しないと思いました。

 私の勝手で、甘すぎる目算で、皆さんに多大な迷惑とご心配をおかけしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。


「君、炎上心配するほど沢山の読者に読まれたことないでしょ」

 それは言わないお約束。

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トリ 五分クッキング(放送事故) 佐々木 凛 @Rin_sasaki

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