ただ渇望するだけだ

 「愛されたい」と願うのは人間の性ではなかろうか。私は「愛されたい」と強く願ってしまう。

 だが、「愛されてたい」と願う気持ちと共に、こんな私が愛されるわけがないという気持ちも沸き上がってくる。愛されたくて愛想を振る舞う自身に、冷笑してしまう。こんなことをしなければ愛されないことが滑稽で哀れだ。

 もともと不足感を抱きやすい人間であり、「愛されたい」と願うのは仕方ないことは理解している。だからこそ、偽ってでも愛されるのであれば、そうやって振る舞うことは正当化して行動を変える。自分自身の気持ちを抑えて、愛されるために行動しているのだ。





 しかし、段々と欠乏感が酷くなっていった。「愛されたい」と行動したとて、全然満たされない。貰っても貰っても足りなくなってきた。

 そんな中で心が声を上げ始めた。


 「そのままで愛されたい。私は私のままで愛されたい」


 心が訴えてきた。そんな恐ろしいことが出来る訳がない。耳を塞ぎたくても、訴えているのは自分自身なので、無視したくても無視することが出来なかった。

 この気持ちを無くそうと無くそうと必死だった。今までよりも必死に行動することにした。愛されるために、満たされるために思考を巡らせていく。良い案は全然思いつかなかったことで、焦燥感に駆られる。どんどん空っぽになっていく。

 消えてしまいたくなった。どうやっても満たされない。どうしたらいいのか分からない。




「ただ愛されたいだけなのに」




 呟いた言葉は、誰にも届かない。届かないまま、涙と共に沈んでいくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

心の炎 泡沫 知希(うたかた ともき) @towa1012

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ