第2話 理由なんて忘れた

 セラの生み出した光が引いていき、また俺の部屋で二人きりになる。

「なあ、これって」

 話しかけようと天使の姿だったセラはどんどんと人の姿へと戻っていく、天使の輪は光となり離散し、純白の羽は抜け落ち床に落ちる前に霧のように消えていく。

 つい見てしまうその光景をもとに戻るまで眺めてしまっていた。

「なんだじろじろと、気持ち悪いぞ」

「素直な気持ちは時に人を傷つけるんだぞ」

「本当の事を言うのは気持ちいいぞ、特に胸がすっきりする」

 嗚呼コイツもとに戻ったんだなと認識する、ただ俺はこっちのほうが気楽でいいけどな。

 完全に戻った空間で先ほどの疑問がまたわいてくる。

「これって本当に変わったのか?」

 実際問題変わっていたとしたら気になることや困ることが出てくる。

 セラの言っていた交友関係とはどこまでのものを指す?

 友達や家族までに留まるのであればそこまで困らないし、俺もその認識だった。

 けどそれ以外、例えばこのアパートの管理人やバイト先の人、そういった人たちとの関係までも消えているのであれば生きていくことができなくなる。

 だからこそ……。

「ええい少しその思考を辞めないか、きちんと説明する」

「お、おう」

 なんか今思考盗聴された?アルミ巻く?

「とりあえず一から説明するぞ、よく聞くがよい」

 ……と、長々と改変されたことを説明されたが、長かったため要約すると。

 一:交友関係は友達と家族の事。

 二:バイト先などの生きていくのに必要な関係は深くなることは無い。

 三:生きることや夢を叶えることは邪魔されることは無い。

 四:基本的に友達や家族は俺の事を忘れている。

 五:同族は俺の事を忘れることは無い。

 だいたいこんな感じだ。

「さらっとカットするな」

「おお、それは失礼しました」

「まったく貴様は、他にも気になる点が出てきたらその都度答えよう」

「随分とご都合なものなんだな」

「便利でよかろうが」

 確かに現実でご都合展開があればと、どれだけ望んだことだか。

 ん?というか五番目の項目が少し気になるぞ。

「この同族ってなんだよ」

「それは気にせんでよい」

「気になる点を答えてくれるんじゃなかったのかよ」

「だから、これは人間には関係のないことだ」

 嗚呼、これって天使に適用されることなのね。

 あらかた疑問を解消することができた、あとで絶対疑問は出てくると思うけど。

「さて私はもう疲れた、飲みなおすぞ」

「はいはい付き合いますよ」

「何を言っている、もう付き合っているだろうが」

「その意味じゃないことは重々知っているはずだろ」

 こっちから言ったとはいえここでボケないで、面白くて仕方がない。

 さてと何から飲もうかな、今なら強めの酒が飲みたい気分だ。

 ……と、俺が考えている間にこの自称天使であるアル中は持っている中で一番度数高いものを飲み始めた。

 それ高いのに。

「なにまた買って来ればよいであろう」

「リアルにアルミホイル巻こうかな」

「意味無いに決まっているであろう馬鹿者」

 やっぱり意味無いのね、ぐすん。

「そうめそめそするな、ほれお前も飲め」

「だから俺の酒だって」

 やれやれと思いながらセラにお酌してもらうのが嬉しいと思ってしまい気持ちが舞い上がってしまう。

 そんな感じで二次会が始まった。

「貴様の酒の耐久力を底上げしてやろう、どれだけ飲んでも死ぬことは無いぞ」

「そんなこともできるのかよ、天使すげえ」

「ははは!当たり前であろう」

 ほんと天使様々だよ、いったいどれだけ望んだことか。

「ていうか、貴様じゃなくて名前で呼んでくれない?」

「貴様は貴様であろう」

「いやほら、名前で呼ばれたいと言いますか」

「キモチワル」

 流石にこれは俺も気持ち悪いと思ってしまう。けど誰もは思うじゃん、好きな子に名前で呼んでほしいって。

「女々しい気持ちを考えるな、相当キモイぞ」

「そろそろ大人の本気泣きが見られるかもしれないぞ、見ていられないぞ」

 たぶんここまでキモイって言われたの子供のころ以来な気がする。あの時も泣いたな……。

「ええいわかったからそこまでにしておけ、秀一」

「……」

 やばい、酒が回っているからというのもあるけど気持ちが爆発しそうでやばい。

「お前その顔私以外に見せるなよ、相当キモイぞ」

「今の俺にその言葉は効かないよ」

 もはや酒を持ちながら天を仰ぎ両腕を広げてしまっている、羽はないのに飛べてしまいそうな気分だ。

 そんな俺の姿に笑いながら酒をあおっている、俺も面白くなり笑ってしまう。

 そうやって周りを気にせず大笑いしたのは何時ぶりだろうか、すげえ気分がいい。

 暫く笑いながら酒を飲みかわす、気持ちをさらけ出して飲むことができる相手がいると何倍も酒がうまくなる。

 そうしてお互い、いくらでも飲める体ではあるが気分だけは最高潮になっている。

 だからこそお互いに聞きたいことも聞いてしまうんだろうな。

 弱音も抑えていた気持ちも。

「秀一よ、貴様の捨てたかった交友関係の話をお前の口から聞かせろ」

「それをあてにでも飲む気か?」

「当たり前であろう」

 本当だったら話したくもないし思い出したくもない、まあ忘れることなんてできずに俺の重りになっているけどな。

「さてどれから話そうか」

「そうだな、では仲の良かった友達を切った理由と、かわいい幼馴染を突き放した話でも聞こうかな」

「一番嫌な奴じゃねえかよ、それでは最初に友達を切った理由から」

「頼んでおいてだが話すのか、やっぱり最高だな」

 さて喜んでくれたので話し始めるとしますか、まあそんな面白く話せる物語でもないけどな。

「では救いの糸を垂らしてくれた友に対してそれを振り払った愚か者の話を始めましょう」

 はじめは俺の勘違いから始まった。やりたいことを見つけてそれにゆっくりとでも走っていた、楽しく充実していていい日々だったと言える。

 今までは友達と過ごしていた日々が自分のやりたいことで埋められていった。そんな日々を過ごしているとどんどんと勘違いしていくものなんだよ、自分一人でも大丈夫だと。

 そうしてほんの小さなすれ違いすらも気にしないようになっていく、いや見て見ぬふりをした。そのたった一回がだめだった、一回だけで人は取り戻せないものがある。一度築いた信頼をいともたやすく壊すことができる。

 でもそんな事本人は気が付かない、相手が今まで通り接してきてくれたから勘違いして、変わってないと思っていたのは俺一人だけだった。そんな事正面から言ってくれるまで気が付かなかった。

「そうして正面から信用ないと言われた男は考えました」

 苦手なことも頑張ってやり、それがだめでもどうすればいいか考えました。

 そうして……。

「その愚か者は変わることができませんでした」

「ほほう……」

「最初にも言ったが垂らしてもらった糸を切ったのさ、俺にはできない、あのまぶしい奴らには俺は必要ないと」

 実際にこの気持ちも話さずに勝手に離れた。

「そうしてできたのが今セラの目の前にいる愚か者だよ」

 この言葉をもってこの話はお仕舞いです。

 嗚呼幻聴が聞こえる、周りから無限のブーイングが聞こえるよ。

 ……だけどその中で埋もれずに一人だけ、拍手喝さいと言わんばかりで鳴らしている阿保がいる。

「誰が阿保だ」

「阿保だよ、こんな話聞いて拍手するのは」

 十の声援は一つの罵声で消えていく、でも今は逆だな。

「それではこの熱が冷めぬ前に第二幕、幼馴染を突き放した話を始めましょう」

 まあこっちは本当に話すことがないんだけどな。

「なのでこちらの話はクライマックスを」

 俺の幼馴染はすごいお人好しだ、一人になろうとする俺を最後まで一人にしないよう関わってきた。

「それに甘えていたら随分と居心地がいいだろう、けどそれで腐りたくなかった」

 友達を切り捨てた俺に厳しくも優しく関わってくれたから、その優しさで腐りそうだった。

「俺が夢を叶えるのにあいつがいたら駄目なんだ」

 こんなろくでなしじゃなくて、もっとまともな奴と歩み寄ってほしい。

「短いですがこのくらいにさせていただきます」

「うむ、素晴らしいくらいの自分勝手な話だった」

 まあ知ってた、けど……。

「自分勝手で何が悪い、自我を出さずに死ぬよりもマシだと俺は思うぞ」

 それを誰かに伝えずに孤独になろうと。

それにこうして自我を出したおかげで。

「セラに会えたしな」

「小声でも聞こえるぞ」

「本当にプライバシーがないよな!」

 まあセラにならプライバシーなんて壁、要らないけどな。

「貴様よく臆することなくそう思えるよな」

「当たり前だ、出会って数時間でもそう思える程のやつなんだよセラは。そんな奴どんな世界、どの次元を探してもいないって断言してやる」

「……ほんとよく思うよな、馬鹿者」

 酒のせいで赤くなっているな、かわいい奴め。

「ほれ、これでも飲んで落ち着けよ」

 俺の言葉に顔を隠しながら杯を前に出す、それに度数の高い酒を注ぎ、その後日が明けるまで飲み続けた。


「本当にこんなバカみたいな願いをするとはな」

「言ったでしょ、あいつはそういうやつなの」

 人がこんなに心配しているのに、それを無視して一人になろうとする。

 本当にバカ。

「だからこそ私はあんたと契約したでしょ」

 私はあのバカのためなら悪魔にも魂を売る。

「ふん、あっちの方がよほど悪魔みたいだがな」

「確かに、あんたは天使みたいに優しいもんね」

「だが悪魔であることには変わりない、そこは忘れるな」

「わかってるわよ」

 さてあの悪魔のような天使から秀一を取り戻さないと。

 だって……。

「秀一は私のなんだから」

「……果たしてどっちが悪魔やら」

 月明かりに照らされた公園の中で一人の少女が笑った。

 その様はまさに悪魔そのものだった。

「そういえば光莉ひかりよ、なんでそこまであのバカを気にするんだ」

「んー。なんでか」

 なんかいろいろあった気がするな、初めて会った時の印象もあるし、その後の関係もあるけど。

 まあ、どっちにしろ。

「理由なんて忘れたよ」

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もう一人の俺 斉藤 火花 @chikuwa_nerimono

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