第20話 狼煙

前回までのあらすじ

 北部戦線の悪魔軍の勢いは凄まじく、数で勝る人間軍をほぼ壊滅させていた。

 救援に来た日菜子たちは、悪魔軍の主力であるセスナーを罠に掛けようと攻撃を始める。

 同じく北部戦線にいる幸紀も、それに合わせて独自の動きを始めていた。



 幸紀は本部のテントから離れると、星霊隊のメンバーと合流する前に、周囲に誰もいないことを確認して通信機を手に取っていた。

「ノルズ殿、ノルズ殿」

「…なんだ」

「私はこれから数人の星霊隊を率いてそちらを攻撃します」

「そうか…ならちょうどいいな、手筈通りに」

「しかし、本当によろしいんですか?これでは実質…」

「あら?幸紀さん、どうしてここにいるのかしらぁ?」

 幸紀が通信をしている背後から、突然由里が声をかけてくる。幸紀は平然を装いながら通信機に短く声をかけた。

「掛け直す」

 そうして通信機を切った幸紀は、由里の方へ向き直った。

「すまん、安藤と作戦を再調整していた」

「あらぁそうだったの。邪魔しちゃったわぁ」

「気にするな。雅と真理子は?」

「先に行ってますよぉ」

「わかった、合流しよう」

 幸紀は話を短く打ち切り、霊力を全身に纏いながら、由里と共に走り始めるのだった。



 同じ頃、日菜子も全力で森が焼けた跡を走っていた。日菜子の背後からは、機関銃の銃弾とセスナー率いる無数の悪魔たちが迫ってきていた。

「殺せぇ!!絶対に逃すな!絶滅させろぉお!!」

 セスナーは叫びながら日菜子に向けて銃を乱射する。悪魔たちは銃弾とともに走り、日菜子を追い立てる。しかし日菜子は冷静に走り続けていた。

 日菜子は走りながら一瞬後ろを見る。セスナーは冷静さを失いながら日菜子を追いかけ回しており、日菜子たちの計画通りの場所までやってきていた。

「今だよ!晴夏!綾乃!!」

 日菜子は走りながら叫ぶ。日菜子が銃撃を回避するために物陰に隠れたのとほとんど同時に、空から岩と弓矢がセスナーを目掛けて降り注いだ。

 霊力の風があたりに吹き荒れる。日菜子は木の根の陰でそれを防ぎ切ると、物陰から飛び出して様子を確認する。

 先ほどまで燃え尽きた木々があるだけだった平野に、大岩と弓矢で作られた透明な結界が張られ、セスナーと部下の悪魔たちはその中に閉じ込められていた。

「よし!かかった!」

「おのれ小癪な!!」

 セスナーは結界に向けて機関銃の引き金を引く。しかし、綾乃が作った結界は、銃撃を簡単に跳ね返した。

「みんな!!ここからだよ!!」

 日菜子が声を張ると、晴夏、麗奈、綾乃の3人が、大岩の上に現れると、悪魔たちを見下ろし、それぞれの武器を構えていた。

「…あんたたちが奪ってきたものの重さ、思い知らせてあげる」

「盛者必衰…恨まないでね」

「殲滅プログラム、準備OK」

 仲間たち3人の声を聞くと、日菜子はニヤリとしながら命令した。


「攻撃開始!!」


 日菜子の合図に合わせて、岩の上に立っていた3人が一斉に悪魔たちへの攻撃を開始した。麗奈と綾乃は弓矢を悪魔たちに浴びせ、晴夏は霊力で作った無数の鋭い岩を悪魔たちに放ち始めた。

 抵抗できなかった悪魔たちが次々と倒れていくが、セスナーは素手で飛んでくる弓矢や岩を弾き飛ばしていた。

「くっ…このクソどもが…!!」

 セスナーは次々に倒されていく自分の部下を見ながら飛んでくる攻撃を弾き返していく。

「おい!やれ!!」

 セスナーは声を張り上げて自分たちを閉じ込めている結界や大岩の外にいる部下に指示を出す。

 セスナーの命令を聞いた部下の悪魔たちは岩を登り始める。晴夏たちはセスナーたちへの攻撃に夢中になり、背後から這い上がってくる悪魔たちに気づけなかった。

「捕まえたぜぇ!!」

「!」

 最初に捕まったのは晴夏だった。足を掴まれた彼女は、敵を振り解こうとしたが、悪魔の捨て身の飛び降りに巻き込まれる形で岩から落とされた。

「晴夏ちゃん!!」

「今だぁああ!!!」

 晴夏が攻撃を受けて離脱したことで、セスナーは勢いを取り戻してマシンガンを麗奈や綾乃に向けて乱射する。

 銃弾を回避しようとした綾乃はバランスを崩して岩から地面に落ち、肩のあたりに銃弾がかすめた麗奈はそれによって岩から地面に落ちた。

「みんな!!」

 日菜子は絶望にも似た声をあげる。結界は解けてしまい、セスナーと5体ほどの悪魔たちが日菜子の方へと向かってきていた。

(ここを抜かれたら負傷者が危ない…!3人とも、なんとか生き延びて…!!)

 日菜子は3人の救出よりも、目の前のセスナーたちを止めることを優先することに決め、セスナーたちに向かっていった。


 一方の晴夏たち岩から叩き落とされた3人は、悪魔たちに取り囲まれていた。

 晴夏は自分の手元から少し離れたところにある、槍を取ろうと地面を這いずる。しかし、その瞬間、悪魔が晴夏の脚を踏みつけた。

「あぁ…っ…!!ぐぁああ….!!」

「晴夏ちゃん!!」

 綾乃はそんな晴夏の様子を見て、慌ててクロスボウガンを手に取るが、悪魔の1体が綾乃に馬乗りになり、綾乃の首を締め始めた。

「くぉっ…!!」

「霊力よこしやがれぇ!!」

「ま…て…サリー、私サリー…!!」

 綾乃は自分の正体を明かすが、悪魔は構わず綾乃の首を締め続ける。

 すぐさま麗奈が弓矢で綾乃と晴夏を襲っていた悪魔を射抜き、2人を救出する。しかし、状況はあまり変わらず、3人は未だに多くの悪魔に囲まれていた。

「晴夏、綾乃、動けますか」

「…脚が動かない…」

「私も…」

 晴夏と綾乃の報告を聞きながら、麗奈はじわじわと迫ってくる悪魔たちに弓を向ける。

「…なるほど、これが恐怖…」

 麗奈は人生で初めて経験する感情に自分でも驚きながら、震える手で弓を構える。

「やっちまええ!!」

 悪魔たちが襲い掛かろうとしたその時だった。


「撃ち方始め!!」


 安藤の声があたりに響いた直後、銃声が響き渡る。麗奈が見ると、負傷して退避していたはずの軍人たちが隊列を組み、小銃を構えて悪魔たちへと銃撃を浴びせていた。

 銃撃はあまり悪魔には効いていないが、悪魔たちの注意を引くには十分だった。

「今です」

 麗奈はそう言うと、弓を引いて悪魔たちに矢を放っていく。綾乃と晴夏も力を振り絞り、自分の武器で悪魔たちを攻撃していく。悪魔たちはものの数秒で全滅していた。

「危なかった…」

 綾乃がふと呟く。疲労した彼女たちに、軍人たちの数名が駆け寄った。

「大丈夫かい?」

「損害は軽微です」

 軍人の1人の質問に麗奈が答える。

「助かりました。私たちが助けに来たのに申し訳ないです…」

「気にすんな、お嬢ちゃんたち」

 晴夏が申し訳なさそうに言うと、軍人たちの後ろにいた安藤が前に歩いてきて言う。安藤は背後に並ぶ部下たちに対して声を張った。

「第一師団の精鋭諸君!こんな少女たちにまで戦わせて、このまま引き下がっちゃ精鋭の名折れだ!違うか!!」

「おう!!」

「よし!!ならば今こそ我ら第一師団の底力!この戦場に!悪魔共に!思い知らせてやれ!!」

 安藤の号令に、軍人たちは声を上げる。安藤は部下たちの返事を聞くと、日菜子とセスナーが戦っている場所へと駆け出した。



 同じ頃、ノルズは悪魔軍の基地でセスナーからの通信を受けていた。

「ノルズ!!早く救援をよこせ!!」

「今支度をさせています。5分耐えてください」

 ノルズはセスナーの通信を受けて部下たちに指示を出す。同時に、今ノルズがいる丘のふもとから幸紀たちが来ているのが見えていた。

(来たな、コーキ)

 ノルズは手筈通りの動きをしている幸紀を見て、ノルズは部下たちに対して声を張った。

「敵襲だ!第3部隊は迎撃に回れ!」

 ノルズはそう言うと、基地の内部へと戻っていく。ノルズと入れ違いになるように、無数の悪魔たちがやってくる幸紀たちへと向かっていった。


 一方、幸紀は、由里、雅、真理子の3人を率いて悪魔軍の基地の近くまでやってきていた。

「みんな、手筈通りに動けるな?」

 幸紀が他の3人に尋ねる。由里と真理子は短く頷くが、雅が尋ねた。

「不満はありませんわ!でも、私たちなら敵を倒すのもできませんこと?」

「今回はリスクを抑えたい。敵を抑えるだけにとどめるんだ」

 雅の質問に幸紀が答えていると、4人の前に悪魔たちが現れる。幸紀は霊力で日本刀を発現させると、後ろの女性3人に対して声を張った。

「いいか、無理はするな。死なない程度に敵を抑えるんだ。いくぞ」

「はい!」

 幸紀の指示を聞くと、女性たちは明るい声で返事をする。4人は向かってくる悪魔たちに対し、一切怯まずに立ち向かっていくのだった。



 一方、仲間の悪魔たちと分断された悪魔軍の指揮官、セスナーは、閉じ込められた岩の壁の内側で、日菜子に向けてマシンガンを乱射していた。

「死ねえぇえ!!」

 銃弾の雨が日菜子に飛ぶが、日菜子は霊力を駆使して身体能力を強化し、その銃弾を回避すると、一気にセスナーに肉薄、そのままセスナーの持っていたマシンガンを蹴り飛ばした。

「何っ!?」

「そりゃあっ!!」

 1m90cmはあろうセスナーの顔面に、日菜子は跳びながら回し蹴りを叩き込む。セスナーはもろにそれをくらい、大きく怯んだ。

「くっ…!人間風情が…!!」

 セスナーは日菜子に対して拳を構える。日菜子も訓練で練習してきた構えをすると、じっとセスナーの動きを観察し始めた。

「今のは霊力を込めてない。これ以上やる気なら、容赦無く霊力を込める。大人しく戦うのをやめて!」

 日菜子はセスナーに対して警告と命令をする。セスナーは自分を見上げて声を張る日菜子の様子を見て、鼻で笑った。


「脅しのつもりか?このセスナー様に!ねじ伏せてやる!!」


 セスナーはそう言うと日菜子に駆け寄りつつ拳を振り上げる。日菜子はそれに対し、全身に纏わせた霊力を敵の拳が当たるであろう一点に集中させた。


「死ねえっ!!」


 セスナーの拳が振り下ろされる。日菜子は集中させた霊力でそれを受け止めつつ、反撃の右ストレートを放とうとする。


「『春雷』…!」


 しかしセスナーの腕力は凄まじく、日菜子の身を守っている霊力ごと、その腕の力で日菜子を殴り抜いた。


「あぁぁっ!!」


 吹き飛んで倒れた日菜子が泥にまみれる。しかし、日菜子はまだ諦めておらず、すぐに立ち上がった。

 セスナーとの距離が離れた日菜子は、右の手のひらをセスナーに向けて、そこに霊力を集中させた。


「『桜花拳』!」


 日菜子の右手から桃色の気弾が放たれる。

 その瞬間、セスナーは凄まじい跳躍を見せ、空中から一気に日菜子に近づいた。


「!」


「もらったァ!」


 セスナーはそう叫ぶと、空中で回転して勢いをつけながら足を日菜子の頭上に振り下ろす。

 日菜子はなんとかそれをガードしたが、セスナーの蹴りの威力は凄まじく、ガードした日菜子の方が大きく仰け反った。


「オラオラどうしたぁ!」


 怯んでいる日菜子のボディーに、セスナーは拳を叩き込む。日菜子は思わず反応できず、さらにあまりに強烈な一撃だったので、声も上げることすらできずに、セスナーの方へと倒れ込んだ。


「ふん!」


 セスナーは日菜子の背後に回り込むと、そのまま日菜子の腰を抱え込む。そうして自分の上体を倒し、日菜子の顔面を、スープレックスの要領で地面に叩きつけた。


「ぐはっ…」


 日菜子の体が地面に投げ出される。セスナーは悠然と立ち上がり、そこに倒れている日菜子の姿を見下ろした。


「哀れで無様だな!早く死ぬがいい」


 セスナーはそう言って日菜子の頭に唾を吐きかけ、唾のついた部分をブーツで踏み締める。


「…い」


 セスナーの足下にいる日菜子が何かを言う。セスナーは不思議がって尋ね返した。


「あ?」


「…諦めない…私は…!!」


 日菜子は両腕で地面を押して体を起こし、声を張る。しかし、セスナーは日菜子の頭を踏みつけて言葉を返した。


「はっ!人間が何を言う!お前たちは所詮我らに支配されるだけの弱者!我ら強者たる悪魔こそ!全てを支配する価値のある存在!貴様らはそこらを這う虫と同じ!!大人しく死ねい!!」


 セスナーはそう言うと、改めて日菜子の頭を踏み抜こうと足を振り上げた。


「知らないのかい?『一寸の虫にも五分の魂』って言葉」


 どこからかセスナーの耳に男の声が聞こえてくる。同時に、大量の銃弾がセスナーの体に直撃し始めた。


「っ!!」


 セスナーにダメージはないものの、あまりの銃弾の量に、思わずセスナーも後ろに下がっていく。


「なんだクソが!?」


 セスナーが銃弾の飛んできた方向を見ると、安藤大将率いる第一師団の精鋭たちがそれぞれの小銃を構え、セスナーへと向けていた。


「あとはお嬢ちゃんたちに任せようか」


 安藤が言うと、麗奈、晴夏、綾乃の3人がそれぞれの武器でセスナーを攻撃しながら日菜子へと駆け寄る。


「大丈夫ですか。日菜子」


 麗奈が日菜子に手を差し伸べる。日菜子は麗奈の手を掴みながら立ち上がると、セスナーの方を見た。


「うん…みんなでやろう…!!」


「ええいザコが群れたところで!!」


 セスナーがそう言って日菜子に駆け寄って拳を振りかぶり、殴ろうとする。


 しかし、セスナーの拳が日菜子に直撃するその瞬間、晴夏の槍と綾乃のボウガンがその拳を受け止めた。


「そう…私たちは1人1人だと弱い…だからみんなで協力し合って、絆を深める…その絆を守るために、私たちは戦う…!あなたみたいに、自分が全てを支配するために戦ったりはしない!」


 日菜子はそう言い切ると、セスナーに向けて走り始める。セスナーは日菜子の方に向き直ると、その拳を受け止めようと構えた。


「計算通り」


 そんなセスナーの脇腹に、麗奈が冷静に霊力の込められた弓矢を叩き込む。


「!」


 セスナーは弓矢によって怯む。そこに、日菜子の拳が一気に迫った。


「そおおおりゃあああ!!!」


 セスナーの顔面を、日菜子の拳が殴り抜ける。


 セスナーは怯んだが、すぐに構え直す。


 しかしそれよりも早く、日菜子の右の手の平は、セスナーの顎の下に置かれていた。


(こいつ…!!まさかこの距離から霊力を…!!)


「『晴雲せいうん』...」


「やめろぉおお!!」


「『掌破しょうは』ぁ…!!」


 裂帛の気合いと共に、日菜子は渾身の力でセスナーの顎を殴り上げながら、霊力によって作り出された気弾を放つ。


「うぐあああっ!!」


 セスナーは悲鳴を上げながら吹き飛んでいく。一方で一時的に霊力を使い果たし、ダメージが日菜子もその場に膝をついた。

「日菜子さん」

「大丈夫ですか?」

 そんな日菜子の様子を、晴夏と綾乃はしゃがみ込んで心配する。

 それを横目で見ていたセスナーは、霊力によって満身創痍になりながら這いずって通信機を手に取った。

「お…い…ノルズ…助けを…助けをよこせ…!早く…!助けて…!」

 セスナーは恥も外聞も捨ててノルズに助けを求める。しかしノルズは事務的に言葉を発した。

「現在敵の攻撃を受けています、5分お待ちください」

「そんな…!頼むから…」

「通信終了」

 ノルズは一切の慈悲をかけずに通信を切る。セスナーは絶望しながら、通信機を置いた。

「くそ…あの下衆め…!!」

 セスナーは恨みごとを言いながら、機関銃へ手を伸ばす。だが、安藤がその機関銃を拾い上げた。

「俺たちの銃だ。返してもらうぞ」

 安藤はそう言うと、銃を地面に倒れているセスナーへと向ける。セスナーは銃口を見て叫び始めた。

「悪かった…!殺さないでくれ…!」

「そう言ってきた人間たちを何人殺してきた?何人俺たちの家族を奪ってきた?」

「それは…」

「それに、ここで俺が何をしても、霊力であんたはじきに死ぬ。ゆっくり苦しめ」

 安藤はそう言い放ち、セスナーに背を向ける。倒れていたセスナーは、爪を鋭くすると、声を上げた。

「うがああああ!!!」

 セスナーは残っていた力を振り絞って立ち上がり、安藤の首を断ち切ろうとする。しかし、そのセスナーの背中に、2本の弓矢と槍の穂先、そして桃色の気弾が直撃すると、セスナーは断末魔をあげながら黒い煙になって消えていくのだった。


 安藤は一瞬振り向いてセスナーが死んだのを見届けると、日菜子たち4人の方へと向き直った。

「ありがとう、お嬢ちゃんたち。おかげで大勢の人間が救われた。野郎ども、このレディーたちに礼を言うぞ」

 安藤の言葉に、第一師団の軍人たちは姿勢を正した。

「このたびは、大変ありがとうございましたッ!」

「ありがとうございましたッ!」

 安藤の言葉に続いて、軍人たちも威勢よくそう言い、頭を下げる。日菜子は4人を代表して話し始めた。

「いいえ、こちらこそ、皆さんのご協力のおかげで敵を倒すことができました。本当にありがとうございます!」

 日菜子がそう言って頭を下げると、他の3人も頭を下げる。しかし、すぐに日菜子は頭を上げた。

「でも、まだ戦っている仲間たちがいますから、私たちはみんなを助けに行かないと」

「その必要はなさそうだぜ。幸紀から連絡が入った。これからこちらに戻ってくるそうだ」

 安藤が通信機を片手に言う。日菜子たちは目を見開いた。

「みんな無事なんですか?」

「そうらしい。迎えに行ってやってくれ」

 安藤に言われると、日菜子は大きく返事をして走り出す。麗奈は日菜子と安藤に提案した。

「日菜子、私たち3人は第一師団と共に本部へ撤退します。幸紀と合流してください」

「わかった!」

 日菜子は麗奈の提案に頷くと走り出す。残りの3人は日菜子とは反対の方向へ、第一師団の軍人たちと共に歩き始めた。


 その頃、幸紀は悪魔軍の基地でノルズと斬り合っていた。

 幸紀の日本刀での一撃を受け止めると、ノルズは幸紀と鍔迫り合いになりながら幸紀の報告に耳を傾けた。

「ノルズ将軍、どうやらセスナー将軍は死んだ模様です」

「そうか…!じゃあさっさと力を弱めろ…八百長にしてはやりすぎだ…!」

 ノルズに言われると、幸紀はわざとらしくノルズと離れるように後ろへ飛び退いた。

「幸紀!」

 そこに真理子が駆けつけると、ノルズに向けて霊力で作ったサブマシンガンを乱射する。ノルズはすぐに物陰に隠れた。

「真理子」

「雑魚は片付けたよ、幸紀!あとはあいつだけ!」

 真理子がそう言ってマシンガンを構えると、遅れて由里、雅も駆けつけてくる。このままではノルズが死ぬと思った幸紀は、身を乗り出して真理子たちを制止しはじめた。

「深追いするな!」

 その瞬間、ノルズは腰に提げていた手榴弾を抜いて投げつける。

 幸紀は嫌な予感を察して3人をまとめて突き飛ばした。

「幸紀さん!」

 幸紀は爆風に巻き込まれて吹き飛ぶ。しかし幸紀が助けた3人の女性は無傷だった。

「今のうちだ」

 ノルズは吹き飛んだ幸紀を気にもせずに撤収していく。それを見ていた雅は、武器である扇子を広げた。

「待ちやがれこの卑怯モン!ぶっ殺して差し上げますわ!!」

「待ってよぉ、雅さん、幸紀さんの治療が先よぉ」

 ノルズを追いかけようとする雅を、由里が止める。雅もそれで足を止めると、幸紀を支えている真理子のもとに駆け寄った。

「ごめん幸紀、私が深追いしたせいで…」

「…大丈夫だ、傷は浅い…」

 謝る真理子に対し、幸紀は短く慰める。そんな幸紀たちのもとに、日菜子が駆けつけた。

「みんな!」

「日菜子ちゃん」

「幸紀さん!?大丈夫ですか!?」

 日菜子は幸紀の様子に気づいて心配する。幸紀は真理子に支えながら立ち上がった。

「あぁ…俺は大丈夫だ。敵も追い払った。俺たちの勝ちだ。さぁ、帰ろう…」

 幸紀が言うと、日菜子も頷く。5人になった幸紀たちは、ゆっくりと第一師団の基地へと歩き始めた。



 数十分後、星霊隊のメンバーたちと、第一師団の生き残りたちは仮設テントで作った本部に集まり、治療をおこなっていた。

 幸紀も例外でなく、璃子から治療を受けていた。

「軽度の脳震盪のうしんとうのみ。軽傷ね」

「ありがとう、他の軍人たちを治療してくれ」

「そうさせてもらうわ」

 璃子はそう言ってテントを出ていく。同じテントにいてその様子を見ていた安藤は、幸紀の姿を見て小さく笑っていた。

「不死身の東雲も形無しだな」

「ふん、嬉しいか」

「かもな」

 安藤と幸紀は互いに憎まれ口を叩く。安藤は肋骨を押さえながら立ち上がり、テントの入り口を開き、周囲の風景を見せる。

 夕焼けの空に、燃え尽きた森から出る黒い煙が立ち上る。安藤はそれを眺めながら幸紀に語りかけた。

「あれは狼煙のろしだと思ってる」

「狼煙?」

「あぁ。今日に至るまで、俺たちは負け続けてきた。でも、今日、俺たちは初めて悪魔たちに勝てた。もっとも星霊隊の力がほとんどだがな。しかし勝ったのは事実だ。あの黒い煙は、人間たちの反撃の狼煙だ」

 安藤はそう言って幸紀の方を見る。幸紀は小さく笑った。

「相変わらずの詩人だな」

「あぁ、これに女が惚れるのさ」

 幸紀は黙って肩をすくめる。安藤は大笑いすると、立ち上がった。

「さて、俺は国防本部に連絡してくるよ。お前も侯爵に報告しとけ」

「あぁそうするよ」

 幸紀は安藤を見送る。安藤がいなくなったを見て、幸紀は通信機を取り出した。

「清峰侯爵、東雲です。北部戦線、無事に敵を撃退しました」



夜 北部戦線国防軍仮設拠点

 国防軍の救援部隊と清峰率いる補給部隊が、幸紀たちのいる拠点にやってきた。

 幸紀、安藤、日菜子の3人が1番大きなテントで待機していると、清峰侯爵と白髪の男性がテントの中に入ってくる。先にいた3人は頭を下げると、5人は席に着いた。

「日菜子、幸紀、ご苦労だった」

 まず清峰が話し始める。清峰に言われると、幸紀と日菜子は頭を下げた。

「2人に紹介しよう、新たに着任した、堀口防衛長官だ」

 清峰は白髪の男性を紹介する。堀口は紹介されると、安藤の方を見た。

「安藤、お前もご苦労だった」

「出世されましたな、堀口長官」

 安藤に言われると、堀口は話し始めた。

「さて、清峰侯爵と相談した結果、この北部戦線を攻め上がっていくことにした」

「我ら第一師団の出番で?」

「いいや、星霊隊だ」

 堀口が言うと、安藤も日菜子も、幸紀も驚いたように堀口を見る。清峰が続いた。

「悪魔から人類を守るためには、先制攻撃によって悪魔を倒すしかないと参謀本部は決定しました」

「…第一師団には悪魔を倒していく戦力はない。だから星霊隊か」

 清峰の発言の意図を察した安藤が呟く。堀口は安藤の呟きに対して頷いた。

「その通りだ。第一師団は星霊隊が警備している場所の警備に就いてもらい、復興と負傷者の療養に努めてくれ」

「了解しました」

 安藤は短く返事をする。清峰はそれを聞き、幸紀と日菜子に尋ねた。

「こちらもそれで異論はないな?」

「はい!星霊隊なら、勝てると思います!」

 清峰の質問に、日菜子が明るく答える。幸紀もそれに頷いた。

「ではこれで話を進めていきます。補給や輸送もこのまま行います、第一師団は篤那川まで移動してもらうぞ」

「承知しました。東雲、お嬢ちゃんたち、ここは任せたぞ」

 堀口と安藤はそう言って立ち上がり、頭を下げてから去っていく。残った清峰、幸紀、日菜子の3人はそんな2人の背中を見送った。

「さて、これからまた星霊隊は忙しくなるぞ?」

 清峰が幸紀と日菜子に言う。日菜子は笑顔で答えた。

「大丈夫です!幸紀さんとみんながいれば!」

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2025年10月22日 23:00 毎週 水曜日 23:00

スパイ生活は星霊隊の24人の美女たちと共に 晴本吉陽 @hareyoshi945

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