第19話 北部戦線

前回までのあらすじ

 星霊隊には新たに、綾乃、晴夏、真理子、雅の4人が加わった。そんな星霊隊に、人間軍と悪魔軍の主要な戦線のひとつ、北部戦線からの救援要請がやってくる。

 北部戦線では、残忍な女悪魔のセスナーと狡猾なノルズの2人が悪魔軍の指揮を執っていた。



北部戦線 第一師団本部

「敵小隊前進確認」

「砲撃準備、五十六式砲、1番2番照準合わせ、指示があるまで待機」

 偵察部隊からの報告を聞き、仮説テントの中にいた第一師団長である安藤大将は部下たちに指示を出し、部下たちの復唱を聞くと、さらに次の指示を重ねた。

「第1、第2機甲小隊はポイントアルファにて指示があるまで待機、偵察部隊、敵の数を再度報告せよ、どうぞ」

「敵勢おおよそ50と思われる。武装はいずれも近接武器のみ、ポイントオメガまでは残り1分ほどで到達すると予想される、どうぞ」

「こちら本部、安藤、了解」

 安藤は偵察部隊からの報告を聞き、身につけている通信用のヘッドセットにかかる手の力を本人も気づかないうちに強めていた。

(五十六式砲は研究所の最新兵器、もしこれが通用しなければ、またあの戦争みたいな地獄が繰り広げられることになる…)

「敵小隊、目標地点まで残り10秒」

 安藤の耳に、偵察部隊からの報告が入る。安藤は顔を上げ、偵察部隊からの報告に耳を傾けていた。


「敵小隊、目標地点に到達」


「1番2番、撃ち方始め」


 安藤の無機質な号令と同じように兵士たちの復唱が聞こえてくる。

 さして間も無く、辺りに凄まじい轟音が響いたかと思うと、テントの近くに設置されていた巨大なミサイルが発射され、第一師団の正面に広がっていた森に着弾した。


 安藤はヘッドセットを持ちながらテントを出て森を見る。

 数km先に広がっていた森の木々は焼かれ、そこにいる命は何ひとつ残っていない。

 そのはずだった。

「こちら偵察部隊、敵部隊に被害なし、依然として前進中、こちらに…」

 偵察部隊からの報告が聞こえてくるが、すぐに銃声と共に途切れ、悲鳴が聞こえてくる。安藤はその声に作戦の失敗を痛感した。

「第1、第2機甲小隊は至急ポイントオメガに向かえ。第3歩兵連隊は偵察部隊の救助、第4歩兵連隊は正面から敵に当たれ、急げ」

 安藤は指示を出しながらも、その内心は絶望していた。

(損害は免れないだろうな…しかも、それは決して少なくない…)



 人間軍がポイントオメガと呼称していた場所では、燃え盛る木々などものともせず、セスナー率いる50の悪魔たちが平然としていた。

「いいか!ここから先、出くわす人間は全て殺せ!わかったな!?」

「おう!」

「銃を向けてくる人間はもちろん敵だ!」

「殺せ!」

「逃げる人間は賢い敵だ!」

「殺せ!」

「女子供は未来の敵だ!」

「ぶっ殺せ!」

「いい人間は死んだ人間だけだ!皆殺しにしろ!!」

 セスナーの号令に、悪魔たちの士気も大きく上がる。そんなセスナーに向けて、やってきていた戦車が砲弾を放っていた。

「ふん」

 セスナーは砲弾を片手で受け止め、逆にキャッチして持ち直した。

「私にこんなものは効かないが、これを武器にするってことは、人間には効くってことだよなぁ?」

 セスナーはそう言うと、大きく振りかぶって握っていた砲弾を戦車に向けて投げ返した。

 砲弾が直撃した戦車は、わずかに時間をおいてから爆発する。

 かろうじて戦車から抜け出した兵士たちには、すぐに悪魔たちが群がる。兵士たちが抵抗する間もなく、悪魔たちは武器を振り下ろし、兵士たちを一方的に惨殺していた。

「ハッハッハ!いいぞ!思うままに殺せ!!」

 セスナーが部下の活躍に大笑いしていると、別の戦車3台がやってくる。その背後には最低でも300人以上の人間たちが徒歩でやってきていた。

「お前ら!歩兵をやれ!私は戦車だ!」

 セスナーはそう言うと、戦車に向けて堂々と歩いていく。戦車からは備え付けの機関銃の銃撃がセスナーに飛んで来ていたが、セスナーはそれを食らっても一切怯まずに、自分に銃撃を浴びせている戦車の銃座の上に飛び乗った。

「死ねぃ!」

 セスナーは銃座にいた兵士を大剣で真っ二つにすると、その大剣で戦車の天井に穴を開け、備え付けの機関銃をもぎ取り、戦車の中に向けて乱射した。

「アハハハハ!!愉快愉快!人間もいいもの作るねぇ!」

 セスナーは人間たちの悲鳴を聞きながら高笑いを上げる。戦車の中にいた人間が全滅したのを見て、セスナーは次の戦車に狙いを定めるのだった。

「さて、1人残らず殺してやる!!」



霊橋区市庁舎

 市庁舎にある1室で、日菜子、四葉、幸紀の3人が作戦会議をしていた。

「日菜子さん、このメンバーで大丈夫ですか?ほとんどみんな入ったばかりのメンバーですよ?まぁ私もそうですけど」

「大丈夫、うまくやるよ、四葉。残りのみんなをよろしくね」

 不安そうにする四葉に対し、日菜子は笑って言う。3人は部屋を出ると、残りのメンバーたち全員が待機している食堂にやってきた。

「みんな!今から私と一緒に来てほしい人の名前を呼ぶから、呼ばれた人はこっちに来て!」

 日菜子が大きな声で言うと、全員日菜子の方を向く。日菜子はメンバーの名前を呼び始めた。

「珠緒!麗奈!香純!由里さん!璃子さん!綾乃!晴夏!真理子さん!雅さん!」

 日菜子に呼ばれたメンバーたちは日菜子のもとに集まる。日菜子が点呼を終えると、四葉が話し始めた。

「残りの皆さんは私と一緒にここの防衛です!緊急時には北部戦線に加わりますので、そのつもりで!」

「では北部戦線チームはさっそく出発するぞ」

 幸紀はそう言って日菜子と共に北部戦線に向かうメンバーたちの前を歩く。ここに残るメンバーたちは、出発するメンバーたちを見送って声をかけるのだった。



北部戦線 第一師団本部

 先ほどまでは安全だったはずの本部も、現在は悪魔に攻め込まれ、防戦一方だった。無数に並んでいたテントのほとんどは焼け落ち、装甲車や戦車の多くは破壊され、悪魔たちは人間の死体とバリケードを踏み越え、殺せる人間を探して闊歩していた。

 全体の指揮官である安藤大将も、自らアサルトライフルを持って迫り来る悪魔と対峙していた。

「死ねえええ!!」

「お断り!」

 安藤大将は悪魔の一体の顔面にひたすら銃撃を浴びせるが、悪魔は気にせず棍棒を振り上げる。安藤も怯まずに撃ち続け、マガジンの弾を全て撃ち切るころ、ようやく悪魔はそこに倒れた。

「ったく、一匹にこれじゃあ割に合わねぇや」

 安藤は愚痴をこぼしながら銃のマガジンを交換する。同時に、近くにいた部下に声をかけた。

「おい!他の連隊と連絡ついたか!」

「いいえ!どの部隊も似たような混乱状態だと思われます!」

「地獄か。悪魔共にはピッタリだな」

 安藤はそう言いながら、本部のテントの残骸にあった通信用のヘッドセットを掴むと、声を張った。

「第一師団の精鋭諸君!師団長の安藤だ!いいか!最低でも2人1組で動け!絶対に1人で悪魔共を相手にしようと思うな!ここが正念場だ!故郷を守るために命を捨てろ!一歩も退くな!だが死ぬな!1匹でも多くの悪魔を殺して、故郷でまた会おう!」

 安藤は力強く演説する。しかし、演説を終えた直後、背後から部下の悲鳴が聞こえてきた。

「いい演説でしたな、師団長の安藤殿」

 安藤が振り向くと、安藤の部下の1人から剣を引き抜いている悪魔が1体、安藤を見ていた。

「まともな言葉を話せる悪魔は少ないと聞く。そしてそういった悪魔の多くはえてして指揮官クラスだと。あんた、この部隊の指揮官だな?」

「その通り。俺の名はノルズ。安藤、死か服従か、選ぶがいい」

 ノルズはそう言って血に汚れた剣を安藤に向ける。安藤はノルズの言葉を鼻で笑い飛ばした。

「生きる。貴様を殺してな」

「愚かな」

「馬鹿は生まれつきさ」

 安藤はそう言うと、持っていたアサルトライフルを構えて引き金を引く。ノルズは飛んでくる銃弾を剣で切り捨てながら安藤へと一気に肉薄すると、安藤を貫こうとするが、安藤はそれをかわし、ノルズの顔面に頭突きを叩き込む。

 安藤はそのまま銃撃を浴びせようとするが、ノルズが剣で銃を真っ二つにする方が早かった。

「ふん!」

 ノルズは安藤の腹に蹴りを入れ、突き飛ばす。そうして壁に追い込まれた安藤の首を目掛けて、ノルズは剣を振り下ろした。


「『桜花拳』!」


 その瞬間、桜色の気弾が、安藤の首に当たろうとしていた剣へ直撃し、剣を大きく吹き飛ばした。

 ノルズは素早く振り向く。

「これはこれは…星霊隊の桜井日菜子か」

「昨日の悪魔!今日は逃がさない!」

 日菜子はそう言ってノルズのもとに駆け寄り、拳を振るうが、ノルズはそれをひらりとかわし、日菜子の方を向きながら逃げ始めた。

「悪いが失礼するよ。力仕事は主義じゃない」

 ノルズは捨て台詞を吐くと、背中を向けて一気に逃げていく。日菜子はノルズを追いかけようとしたが、幸紀が日菜子の手を掴んでそれを止めた。

「今は救助が先だ」

 幸紀に言われ、日菜子も納得する。それと同時に、幸紀の背後から星霊隊のメンバーたちが駆けつけてきた。

 その中にいた璃子がさっそく安藤のもとに駆け寄り、手当てを始める。

「お嬢ちゃんたちは…」

「星霊隊です!助けに来ました!」

 安藤の呟きに、日菜子が答えると、安藤は口元に笑みを浮かべながら話し始めた。

「へぇ、君らが噂の。美人揃いで役得だな、東雲」

 安藤が幸紀に言うと、日菜子は驚いたように幸紀のほうを見る。

「知り合いなんですか?」

「…話すと長くなる」

 幸紀は日菜子の話を打ち切ると、安藤の方に尋ね始めた。

「安藤、状況は?」

「専門用語で言うところの『壊滅』だな。数百メートル先で展開中の部隊はたった50体の悪魔にほぼ全滅、ここも200程度の悪魔にやられて壊滅状た…いててて!!」

 安藤が幸紀に報告していると、璃子の治療の痛みで安藤は声を上げた。

「優しくやってちょーだいよ、お嬢ちゃん」

「肋骨が折れてる。これ以上の戦闘は禁止よ」

「参ったな、まだあっちこっちで部下が戦ってるってのに」

 璃子の診断に、安藤は奥歯を噛み締める。日菜子はそれを見てすぐに声を上げた。

「任せてください!助けに行きます!」

「嬉しいし呼んだのは俺たちではあるんだが、本当にいいのか?こんなお嬢ちゃんたちに…」

 安藤は幸紀に尋ねる。幸紀は自信を持って頷いた。

「大丈夫だ。日菜子、隊員を選抜して救助にあたらせてくれ。日菜子と麗奈はここで作戦会議だ」

「了解しました!」

 幸紀の指示を聞き、日菜子は星霊隊のメンバーたちのもとに走り、メンバーを選んで指示を出す。幸紀と安藤はそれを少し離れたところから見守りつつ、このあたりの地図を取り出して広げた。



 一方のセスナーは、人間から奪い取ったマシンガンを乱射しながら、向かってくる人間を射殺していた。

「フハハハハ!!1匹残らず死ねい!!」

 そんなセスナーの横から、ノルズが駆け寄り声をかけた。

「セスナー殿!」

 しかしセスナーは銃声と自分の高笑いでノルズの声が聞こえてなかった。

「おい!セスナー!」

 ノルズは怒鳴りながらセスナーの腕を掴んで銃撃をやめさせる。セスナーは銃撃をやめて顔だけ振り向いた。

「なんだ、緑のチビ!私は今忙しいんだ!!」

「敵に増援が来た!星霊隊だ!作戦通り一度退却を命じるんだ!」

「バカが!!今ほどの好機はこれ以上ない!そんな作戦は変更だ!このまま本部の200も呼び込み、正面から敵を殲滅するのだ!!敵の本部を奇襲しているお前の部下たちも、そのまま攻めさせろ!」

「話が違う!」

「臨機応変だタコが!押されていた戦線をようやく取り戻す絶好の機会!私はこれを逃せるほど臆病ではない!!」

 セスナーはノルズの言うことを聞かず、マシンガンを乱射しながら戦車と歩兵の入り混じった人間たちの方へ進んでいく。セスナーの部下である悪魔たちも、声を上げながらセスナーに続いて行った。

「…バカはどっちだ」

 ノルズは残されると、そう言葉を吐きながら自分の本部へと通信を入れた。

「ノルズだ、本部に待機している部隊は正面へ侵攻を開始せよ」

 ノルズはそれだけ言いながら、自分は本部へと戻っていくのだった。




 その頃、第一師団の本部では、数名の兵士たちが土嚢どのうの陰に隠れながら迫ってくる悪魔たちに銃撃を浴びせ続けていた。

「近寄らせるな!撃ち続けろ!」

 兵士の1人が言い、それに従って他の兵士たちも銃撃を続けるが、悪魔たちは怯まずに歩みを続ける。

 悪魔の一体が痺れを切らし、大きく跳躍すると、土嚢を飛び越えて兵士たちの横に着地する。

「!」

 兵士の1人が真横に立っている悪魔に銃撃を浴びせようとするが、それよりも早く悪魔はその兵士を蹴り上げ、持っていた剣を振り回し始める。それによって銃撃が止まると、土嚢の外側の悪魔たちもさらに兵士たちへ近づいていった。

「まずは内側の」

「死ねえ!!」

 指示を出そうとした兵士に、悪魔は剣を振り上げる。

 その瞬間、どこかから扇子が飛び、その悪魔の首から上を切り飛ばし、黒い煙に変えた。

「なに?」

 人間も悪魔も戸惑っていると、土嚢の内側から誰かが悪魔のもとに飛び出す。

 その人影は素早く敵の間を縫うようにして駆け抜けながら、両手に持っていた小型マシンガンの引き金を引く。

 その一瞬で、土嚢の周囲を囲んでいた10体以上の悪魔は全て煙に変わっていた。

「さすが真理子さんですわ!いつにも増してかっこいいですわ!」

 悪魔の首を切り飛ばした扇子を畳みながら、雅が真理子を褒める。褒められた真理子は、持っていたマシンガンの銃口の煙に軽く息を吹きかけてから振り向き、明るい笑顔を見せた。

「ありがとう、雅ちゃん!さ、さっそくお仕事しましょう!」

「はい!さぁ第一師団の皆さま!一旦ここから退きますわよ!はい、スタコラサッサ!」

「待ってくれ、君たちは?」

「私たちは星霊隊です!安藤大将の指示で援護に来ました!」

 兵士たちが疑問を抱くと、真理子が言い、その間に雅が持っていたウエストポーチから手提げ袋を取り出した。

「今ならわたくし特製のクッキーもありましてよ!さぁ、腹ごしらえしながら逃げますわ!」

 雅はそう言いながら手提げ袋の中のクッキーを配り、兵士たちを先導して歩いていく。真理子はその場に立ち止まり、背後から迫ってくる悪魔の方を向いた。

「雅ちゃん、みんなを任せるわ。ここは私に任せて、先に行ってて」

「はい!また落ち合いましょう!ですわ!」

 真理子と雅は短く別れの言葉を交わすと、雅は兵士たちを連れて行き、真理子はその場にとどまって霊力で作ったサブマシンガンを握りしめた。

「さて、かっこよく、いくよ」

 そう言って悪魔に銃を構える真理子から、笑顔は消えていた。



 仮復旧した第一師団の本部では、日菜子、麗奈、幸紀、安藤の4人が作戦会議をおこなっていた。

「ここに戦車10輌と歩兵1000を配置していた」

「現時点の本部の損耗率から推定するに、このポイントに残存している兵力は最大で10%、悲観的に考えれば全滅です」

 麗奈は無機質に言う。安藤は目を見開きながら頭を掻いた。

「こりゃあまたストレートな子だ」

「ごめんなさい、ちょっと事情があって…」

 安藤が驚いていると、日菜子が謝る。そうしていると、香純が日菜子のもとにやってきた。

「日菜子さん、この辺りの人の救助は終わりました。今、璃子さんと珠緒さんが手当てをしてます」

「わかった、報告ありがとう、香純!」

 日菜子はそのまま香純を帰そうとする。しかし、麗奈が香純を呼び止めた。

「香純、晴夏と綾乃を呼べますか」

「え?うん、今そこにいるよ」

「ではここに連れて来てください。2人に頼みたいことがあります」

「わかった」

 香純はそう言うと走り出す。その間に、安藤は幸紀に確認を取った。

「その2人が、あれか?トラップを仕掛けるための2人か?」

「あぁそうだ」

「全く、最近の若い子はすげぇなぁ」

「連れてきたよ!」

 安藤と幸紀が話していると、香純の声が聞こえる。振り向くと、晴夏と綾乃が立っていた。

「お待たせしました」

「待っていました、晴夏、綾乃。2人には作戦に協力してもらいます」

 麗奈が言うと、晴夏と綾乃は息を飲みながら背筋を正す。すぐに安藤が話を始めた。

「単純な作戦さ。今正面で戦っている味方を救出、撤退しながら、敵を誘導し罠にかける」

「晴夏と綾乃の霊力で、誘い出した敵の逃げ道を塞いで欲しいの。晴夏の鉱石を操る能力と、綾乃のボウガンで」

 日菜子が言うと、綾乃はさっそく了解しましたと返事をする。晴夏は質問した。

「閉じ込めた敵はどうするんです?」

 麗奈が答える。

「私たちで一斉に攻撃します。誘導と封鎖が適切ならば殲滅は容易でしょう」

 麗奈の説明を聞いた晴夏と綾乃は納得したようだった。安藤はそれを見て他のメンバーたちに頭を下げた。

「君たちのような年若い女性たちにこんな作戦を任せるのは忍びないが…この通りだ。部下を助けてくれ」

「頭を上げてください!今日まで私たちを守ってくれてたのは安藤さんたち軍隊の皆さんじゃないですか!今回は私たちが助けてみせます!ね、みんな!」

 日菜子が言うと、晴夏と綾乃は頷いたが、香純は首を傾げた。

「そうだったんですか?」

「そうだよ!そっか、香純は異世界の人だから知らないのか」

 日菜子は純粋な目で言う。一方の安藤は自虐的に言い捨てた。

「まぁ、守ってるなんて偉そうなことは言えねぇけどな。持ってる武器がまず効かねぇから、ほとんどずっと負け続けてきたわけで」

「そう卑屈になるな。ここまで戦線を維持してきた功績は大きい」

 幸紀は安藤を短く慰めると、女性たちの方へ振り向いた。

「それでは作戦を始める。各位、奮戦してくれ」

 幸紀が言うと、女性たちは明るく返事をする。そして日菜子はその場にいた女性たちを率いて走り始めた。

「安藤、俺も動く。お前は部下たちを率いてここを守れ」

「わかった。死ぬんじゃねぇぞ」

 幸紀も安藤にそう言ってその場を去っていく。安藤はそんな幸紀の背中を見送った。



 セスナーに攻撃されている人間の部隊は、わずかに残った兵力を集め、戦車を盾にしながら迫ってくる悪魔に銃撃を浴びせ続けていた。

「弾幕張り続けろ!ここを抜かれたらおしまいだ!」

「こいつら普通の奴より頑丈だぞ!」

「衛生兵!」

 人間の兵士たちは混乱した状態で銃撃を続けるが、セスナー率いる悪魔軍の部隊は一糸乱れぬ様子で前進を続けていた。

「その程度か!人間風情が!消し飛べ!!」

 セスナーはそう言うと、殺した人間から奪い取ったロケット砲を構え、戦車に向けた。

「ロケット砲来るぞ!」

「総員退避!!」

 兵士たちは声を上げながら戦車から離れていく。セスナーは構わずロケット砲の引き金を引いた。

 放たれたロケット弾が背中に迫り、兵士たちは絶望した。


「『ルビー・コメット』」


 その瞬間、上空から赤く輝く石が降り注ぎ、兵士たちから離れた場所でロケット弾を撃ち落とし、爆発させた。

「なに?」

 人間の兵士たちに被害はない。セスナーはそんな状況に首を傾げる。

 風が黒い煙が吹き払うと、セスナーと兵士たちの間に、日菜子、綾乃、晴夏の3人が立っていた。

「晴夏、ナイスだったよ!」

 日菜子は晴夏を褒める。晴夏は少しニヤッとするだけだった。

 少し遅れてセスナーは状況を理解し、何度も頷いた。

「あー、あー、あー、そういうことか。貴様らが生意気にも私たち悪魔に歯向かう星霊隊とかいう連中か。だからなんだ!消し炭にしてやる!」

「綾乃!」

 セスナーは問答無用でロケット砲を構える。日菜子はそれを察知して綾乃に指示を出す。綾乃は霊力で作ったボウガンに3本の矢を装填して一斉に放った。

「『キャロルズ・ミラー』!」

 綾乃が放った矢はそれぞれ散らばる。そしてある程度のところで止まると、3本の矢同士を繋ぐように三角形のバリアが出来上がる。

 ロケット弾はバリアに直撃すると、爆発せずに跳ね返り、真っ直ぐセスナーを目掛けて飛んでいった。

「!!」

 ロケット弾はセスナーに直撃し、爆発する。セスナー自身も大きく吹き飛び、周囲の悪魔数体は消滅し、黒い煙が舞った。

「よし、今のうち!香純、珠緒!みんなをテントへ!」

 日菜子が指示を出すと、残存部隊の後ろに控えていた香純と珠緒が声を張り、負傷した兵士たちを案内して撤退していく。

 それを見た日菜子は、晴夏と綾乃に指示を出した。

「綾乃、いい腕だったよ!さ、2人は先に行ってて。私も様子を見ながら下がるから!」

 日菜子の指示を受けて、晴夏と綾乃は走ってその場を離れていく。日菜子は言葉通り背後の様子を確認する。辺りには黒い煙が立ちこめているだけなのを確認すると、日菜子も晴夏と綾乃の後を追って走り始めた。

 そんな日菜子の背中を見て、セスナーは黒い煙の中から姿を現した。

「おのれ…おのれぇっ!!人間風情が!やはり貴様らは駆除せねば!!ぶっ殺してやる!!続け!!」

 セスナーは悪魔たちに号令を掛けると、持っていた機関銃を乱射しながら走り始める。悪魔たちの声と銃声を聞き、日菜子は激戦の予感を感じ取ると、通信機に向けて叫んだ。

「みんな!やるよ!」

 日菜子はそれだけ言うと、無数に迫り来る悪魔たちから逃げるように全力で走り始めた。

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