ロクデナシの僕が一般人になるまで

@Kisararagi

いつか訪れるとある日


工場煙突の頂上に彼、堀江 裕貴(ほりえ ゆうき)は立っていた。


「本当に…本当に長かったなぁ…もう、疲れた。今まで色々やってきたけど、もうダメだわ…」


ポケットからスマホを取りだしどこかへ電話を掛ける

出たのはある女性だった


「もしもし?どうしたん。あんた今仕事でしょ?」


聞きなれた母の声だ

今から自分がやろうとしていることを思い出し涙が溢れてくる


「あー、ちょっと…ね。今までごめん。迷惑ばかりかけて、騙して、苦労させて。何も親孝行してあげられなかった。」


声は段々と震えくる。涙溢れ出て止めることが出来ない


「はぁ?何を今更行ってんのよ?そんなことは分かりきった事よ。あんたは頑張って働きなさい。」


呆れつつも励ましているような優しい声で更に涙が止まらなくなる


「もう、俺…ダメだ。通帳もヘソクリも何もかも俺のベッドの横にあるダンボールの中に入れてあるから。一応労災に見えるようにやるから安心して。保険金も掛けてあるし生活には困らなくなると思う。だから……これが俺の最初で最後の」


親孝行だ


電話の向こうから怒っているような困惑しているような声がする


「あんた今何してるの!?馬鹿なことをしようとしてないでしょうね!やめなs……」ブチッ……ツーツーツー


電話を切り着信拒否設定をする。そしてスマホをそのままポケットへしまった。

腰に巻いてある安全帯を手すりへ掛け

手すりから身体を乗り出す


「安全帯は削ってちぎれやすくしてる。手すりも腐って崩れやすいところ。これで落ちても労災認定されるだろう。」


涙と鼻水を出しながら手すりを乗り越えていく


涙と鼻水を拭いて顔を切替える


(次の人生は〝普通〟に暮らせるといいなぁ……まずはこの腐った根性を変えなきゃな…)


そして俺は夜の空に飛び出した

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