今日未完神

短編

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　きょうみ・かんしん【興味関心】

　●興味→物事に心がひかれ面白いと感じること。

　●関心→物事に興味をもったり、注意を払ったりすること。気にかけること。

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　俺は最近の時流に興味が全く微塵も、毛ほどもねえ。これっぽっちもだ。つっても、文章でその程度を伝達するのは生半（なまなか）な語彙力じゃできねえだろうな。俺程度じゃ、せいぜい指を広げて、この程度、と表現することくらいしかねえ。時流っつうか、何だろうな、時の流れだ。勝手に流れてろって思う派でね。っつうのも、これは俺の親を反面教師にしてるっつう明確な理由がある。俺の親父は、定年退職して、一日家にいる。そして日中ずっとパソコンの画面と睨（にら）めっこして、ネット上、ＳＮＳ上、ニュースのコメント欄（らん）、至る所で自分の思想と噛み合わない奴を叩いてやがるんだ。詳しい政治思想は聞いちゃいねえが、あの親父は俺達があの家、まあ、実家で住んでいる時、一度として選挙に行かなかった。マジだぜ。何か理由があるとか、そういう意味でもなく、積極的に選挙に行かなかったんだ。マジかよって思ったぜ。その上でネットで言論という名の叩きまくりときた。もうまともじゃねえんだろうなと思うよ。まあ、誰にも止められなかった、止めてもらえなかった可哀想なジジイだ。本人曰く誹謗中傷っつうまではいかねえらしいが、その加減もどうなんだよ、って感じだよな。相手が中傷だと思ったら、それは中傷になるっつうのにな。これだから老害はゴミなんだよ。まあ老害って言葉自体が「ゴミ」成分を含有しているから、俺の言い草だと、「ゴミはゴミなんだ」っつってるようになっちまうがな。結局ネットの発展に置いて行かれてやがる、昭和の遺物とでも言や良いのかね。いつか相手から弁護士介入の開示請求が来るか、不摂生が祟（たた）って死ぬかどっちかで弟と賭けをしている最中だぜ。ちなみに死ぬ方に賭けたのは俺の弟だ。まあ何が言いたいのかっていえば、いない方が良い親もいるって話。

　そんな俺の物語は、俺の社会不適合友達が「小（こ）狸（だぬき）」っつうペンネームで、『書痴（しょち）の知（ち）』ってタイトルの連作短編の一つ、「冷静（れいせい）柔（やわ）」にまとめている。気取りやがって。物好き好きな奴は読んでみると良い。今も小説を更新してるらしい。最近はめっきり見てねえが、当時の俺を知っている人間はあいつくらいのものだ。流石に「小狸」でも俺の家庭環境は知らなかったみてえだから、嘘八百ぶっこいてるらしいが、まあ温かい目で見て――読んでもらえりゃ、あいつも喜ぶだろうぜ。

　ただそんな俺でも言いたいことが何もないって訳じゃねえ。時折その話題は槍玉に挙げられる（誤用の方の意味だ）、映像の倍速視聴についてだ。映像っつうと、俺の専門分野（つっても、俺は大学に行く金が家に無かったから、高校までの知識しかねえが）たる小説とは少々離れることになるが、まあ偶には違う話をしてみようっちゅう趣旨なわけだ。

　倍速視聴――この場合は動画、まあ、映像作品を示す。や、もっと限定しちまうか、映画、ドラマ、アニメ等、物語性を含有した動画ってことにしよう。そうしよう。んで、それを倍速視聴することに対して、異議申し立てをする奴がいるってことだな。うんうん。

　まあ、好きにすりゃ良いんじゃねえの？

　別に倍速視聴したからって、その作品が面白くねえって訳じゃねえんだろ？　最近はサブスクの時代で、あれが一体どうやって版元に金が行っているのかシステムが分からねえが、倍速視聴したってことで何らかの数値が下がるっつう訳じゃないんだろ。すりゃいーじゃねか。倍速視聴。令和の今だ、若者も忙しいんだよ、いちいち一つ一つ細けえところにまで目を向けられねえんだ。それができんのは一部の、恵まれた奴だけだ。俺の社会不適合友達の話になるが、サブスク登録しつつ、放送も見つつ、Blu-rayも購入している奴がいる。莫迦だよな。最低賃金極限で、衣食住もままならないっつうのに、アニメだけは観るようにしているっつう、変な具合に芯の通った奴だ。それ以外の奴にとっては、何だろうな、作品っつうのは、消費するもの――コンテンツ、なんだよな。いや、真面目な話。食い物や飲み物と同じく、消費して空になったら捨てて次のものを食べる、あるいは何かの片手間に視聴する、もうそのコンテンツ単体でどうこうできる時世じゃねえんだよ。情報過多の今の時代だ、そうせにゃ生きれねえ気持ちは分からなくはねえ。

　ま、だからっつって俺は共感してやらねえがな。

　貴重な俺の思考領域を、そんな下らねえことに使ってたまるかっつうんだ。まあ、倍速で視聴したい奴は好きにやりゃいいが、俺はしない。そういう意見だ。どうして？　そりゃお前、当たり前だろう。例えば、そうだな、アニメだ。最近はどんどん求められるクオリティが上がってきてるよな。神作画、とかいってYouTubeに違法アップロードしてるゴミもわんさかいる。俺の親父も、そういうのを叩きゃいいのにな。話を戻すぜ。俺はこう思うんだよ。映像作品、いやさ創作物全般に対して言えることだが、1コマ1コマに、宿るわけだよ。命が。何抽象的なこと言ってんだ、って思うか？　慣れて、適当に、手癖で書いて作ってぶん投げられた奴は、今は読者や視聴者は簡単に見抜ける。目が肥（こ）えてっからな。そして、だ。創作者なら誰しも経験することだとは思うが、作り手側と受け取り手側の認識には、どうしたって乖離がある。ただ、吹き込まれた命によって、その距離が極限まで近づく瞬間、っつうものがあるんだよ。すげえものを作ったとアニメーターが思って、そんで俺達がこれはすげえ、って思う。その合致。俺はな、それを絶対に見逃したくない。そこにこそ、物語の本質っつうものがあると思っているからだ。それは、倍速視聴、片手間で観たり聴いたりしている奴らには、決して到達できない境地の話だと、俺は思う。ま、お前さんが何を思い、何を考えるかはどうでも良いし、それを強要しようとは思わねえが、ただ、俺は倍速視聴はしないってことだけを伝えておくぜ。乱文乱筆っつうか、もう嵐筆（らんぴつ）（そんな言葉は無え）かよってくらいの口調の文章だろうが、どうせこれも「小狸」が、上手くまとめてくれんだろ。世の中誰もが何でも発信できる時代だ、何でもない俺がこんなことを指摘したところで、どうせ誰も気付かないだろうぜ。でもそれは良いことでもあるんだ。それくらい、世界が平和だっつうことだからな。

（「今日（きょう）未（み）完（かん）神（しん）」――了）