第4話 ブラシースに上陸!

 今日はいよいよ、ブラシースに行く日だ。佐奈目兄妹と高校の校門あたりで待っていれば、パトリックさんの車が来てくれるはずだ。


その後は、港まで行って船で向かう流れになっている。


「莉央・莉菜。気を付けるのよ」


玄関で靴を履いている時に、見送る母さんが言う。


「ああ」


「わかってるよ、お母さん」


「夏休みの間滞在するんだろ? 荷物はなくて良いのか?」


父さんの疑問はもっともだ。ポケットに収まる分しか持っていないから、俺達は手ぶらになる。


「向こうで用意してくれるんだよ。持ってるのは携帯と充電器だけだな」

電車で高校に向かうから“定期券”もあるが、面倒だから補足しない。


「私も同じ」


「そうか…」


「それじゃ、そろそろ行くよ」


「行ってらっしゃい」


母さんの言葉を聴き、俺と莉菜は家を出た。



 家を出てからは、普段のように高校に向かう。私服姿で高校に行くのは新鮮だな。


そして…、高校の校門前に着いた。佐奈目兄妹に先を越されたようだ。


「ごめんね明日香ちゃん、待たせちゃって」


「良いの良いの。あたしとお兄ちゃんが早く来ただけだから」


…佐奈目さんは何も持っていないが、佐奈目君は大きいリュックを背負っている。お気に入りの何かが入ってるのか?


「あのリュックには、あたし達の“枕”が入ってるんです。枕が変わると寝られないタイプなので…」


俺の視線が気になったのか、佐奈目さんが補足する。


そういう人いるよな。これ以上触れないでおこう。



 俺達の前に大きな車が停車し、運転席から若い女性・助手席からパトリックさんが降りてきた。それから俺達の前に現れる。


てっきりリムジンのような高級車に乗ってくると思ったが、普通の車だな。一般道で見た事がある車種だと思う。


「みんなお待たせ。車に乗る前に、彼女の事を話しておくよ」

パトリックさんは隣にいる女性を手で示す。


双瀬ふたせ 右喜うきと申します。皆様、よろしくお願いいたします」


どう見ても俺達より年上の人だ。なのに敬語で話されると気になる。


…もう1つ気になるのが、彼女の胸の大きさだ。莉菜と佐奈目さんとは比較にならないサイズだから目が離せない。


「むっ…」


何やら莉菜の声がしたので確認すると、彼女はムッとした様子だ。双瀬さんの胸を見ていたのがバレたか?


「彼女もみんなをサポートする一員だよ。詳しくは移動中に話そう」

パトリックさんはそう言うと、再び助手席に乗り込む。


「皆様もどうぞ」


ご丁寧に双瀬さんが車のドアを開けてくれたが、誰も乗りこもうとしない。このままだと埒が明かないな…。


「佐奈目君達、先に乗って良いよ」

ここは促したほうが良いだろう。


「え? 良いの?」

彼が聞き返す。


「2人がメインだからね。俺と莉菜は体験に過ぎないし」

立場を考えれば、佐奈目兄妹を優先するのは当然だ。


「…ありがとう七草君。じゃあお言葉に甘えて」


「優しいですね。莉菜ちゃんのお兄ちゃん」


「それぐらいは当然だよ」


…よし、2人共乗り込んだようだ。


「俺達も乗るぞ莉菜」


「うん」


全員乗ったのを見届けた後、双瀬さんがドアを閉めて運転席に座る。


「港まで頼むよ右喜ちゃん。船はボクが操縦するから」


「かしこまりました、パトリック様」


車は発進し、港を目指す。



 「ブラシースはボク・妹のキャサリン・右喜ちゃん・左京さきょう君の4人で管理してるんだ。なるべく島に2人以上いるようにするから安心して欲しい」


車が発進して最初の赤信号の時に、パトリックさんが後ろを振り返って言う。


「左京って人は誰ですか?」

後部座席にいる佐奈目さんが尋ねる。


「右喜ちゃんの弟だよ。ボクが最初に目を付けたのが2人になるんだ」


って事は、双瀬さんはお姉さんになる。パトリックさんは“兄妹愛”が好きなはずだから、方針が違うのでは?


「2人は双子でね。先に産まれたのは右喜ちゃんらしいけど、双子って“兄妹”にも“姉弟”にもなって良いよね」


それが彼の興味を引いたのか。理由を聴けば納得だ。


「他に訊きたい事ある?」


その間に青信号に変わって車は発進したので、パトリックさんは体勢を戻す。


「えーと、車の事なんですけど…」

莉菜が遠慮がちに訊いてきた。


やはり俺達は心が通じ合っているな。同じところが気になるんだから。


「もしかして、リムジンを期待しちゃった?」


「…正直に言うとそうですね」


「あくまでボクの持論だけど、高級車に乗ってたら周りに“金持ちアピール”する事になってしまう。そんな事しても得にはならない。むしろ損するよ」


俺のような高校生には及ばない苦労を、パトリックさんはしてるようだ。



 双瀬さんが運転する車は、無事港に到着した。


「車の件で察してもらえたかもしれないけど、船もそこまで大きくないね」

全員下車した後、俺達を見てパトリックさんが申し訳なさそうに言う。


「俺は全然気にしませんよ」

彼の言いたい事はわかるからだ。


「ぼくも…」


「私(あたし)もです!」


「みんな良い子だね~。その分、ブラシースでゆっくり過ごして欲しい。…迷わずに付いて来て」


パトリックさんを先頭に、俺達4人と双瀬さんは付いて行く。



 …パトリックさんが足を止めた。お目当ての船の元に着いたようだ。


俺の見た印象としては、船というよりクルーザーに見える。大した事じゃないから、指摘するつもりはない。


「みんなは船乗った事ある?」

パトリックさんが訊いてきた。


「俺達はないです。佐奈目君達はどう?」


「ぼく達もないよ…」


「そうか。万が一酔ったら、右喜ちゃんが優しくしてくれるから。ね?」


「はい。皆様、安心してご乗船下さい」


頼もしいな~。俺はそう思いながら、パトリックさんに続いて乗船する。全員乗った後、船は動き出す。



 船が風を切る感じが気持ち良い。幸い、誰も船酔いしてなさそうだ。


「…皆様、ブラシースが見えてきましたよ」


双瀬さんが指差す方向を見ると、本当に島が見える。…ん? 砂浜に人が3人いるぞ? まだ遠いから、男女の区別はできない。


そのまま船は進み始め、砂浜ギリギリまで接近する。無人島だから船着き場はないようだ。昨日見た上空写真にもなかったっけ…。


上陸直前で、さっきの3人の正体がわかった。気を遣って船のそばに来てくれたのも、わかる要因になった。


1人は水着姿の男子・もう1人は同じく水着姿の女子。外見から判断するに先客だろう。今日から夏休みだし、海で遊びたくなるよな。


もう1人は、パトリックさんと同じ金髪の女性。あの人がさっき言ってたキャサリンさんだと思う。可愛いではなく、双瀬さんのような美人枠に入るな。


「早く上陸したい!」

佐奈目さんは待ち侘びているようだ。


「そうだね。私もだよ」

莉菜も楽しそうだ。


いよいよ、ブラシースでの体験が始まる。俺はワクワクしながら、島に向けて最初の一歩を踏み出す。

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道に迷っている外国人に絡まれたら、夢の島に招待されました あかせ @red_blanc

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