第3話 ブラシースを意外な形で知る
共に30分ぐらいかかるらしいから、意外に近いな。これで問題の1つは片付いた。
最大の問題は…、両親にブラシースに行く許可をもらう事だ。うまくいくビジョンがまったく見えないが、やるしかない…。
夕食の時間になり、両親・俺・莉菜の4人で食べ始める。早く言い出さないと…。
「父さん・母さん。明日から夏休みの間、莉菜と一緒に無人島に行くんだけど良いよな?」
「無人島に行く? 何バカな事言ってるの?」
母さんの反応が普通だろう。突拍子もないからな。
「
「実は、友達に誘われたんだよ」
どうごまかすにしろ、ブラコン・シスコン関連は絶対言ってはいけない。
「友達? 嘘を言うのは止めなさい! 無人島は高校生が気軽に入れる所じゃないわ!絶対大人が関係してるはずよ!」
友達はマズったか? とはいえ、言葉だけで信じてもらうのは無理だな。
「母さんの言う通り、大人が関係してる。…この人だ」
俺はパトリックさんの名刺を見せる。
それを母さんが受け取り、細部までじっくり見始めた。
「この人、外国人じゃない! それに資産家? 怪しすぎる…」
一通り見た母さんは、名刺を父さんに渡す。
「莉央。このパトリックという人は、どう関係してるんだ?」
「友達によると、無人島を所有してるらしい」
「ふむ…」
「あなた! 莉央と莉菜を止めてよ!」
俺達を心配してくれてるのはわかるが、父さんのように落ち着いて欲しい…。
「無人島の所有者なら“名簿”に載ってるはずだ。後で調べてみよう」
「お父さん、名簿って何?」
莉菜が尋ねる。
「無人島を買った人の名前・住所・所有数などがまとめられてるんだよ。国益に反しない活動をさせないために、身分はしっかりチェックされてるんだ」
何でそんなに詳しいんだよ? 後で訊いてみるか。
「莉央・莉菜。パトリックさんが怪しくなければ、無人島に行って構わないわよ」
「お父さんも同じだ。夏休みは長いし、貴重な経験になるだろう」
どうやら白黒つけるために、名簿を見る必要がありそうだ。
夕食後、俺と莉菜は父さんの部屋にお邪魔する。ノートパソコンで調べるらしいので、俺達は後ろからのぞき込む形だ。
父さんは検索サイトに“無人島所有者名簿”と入力して検索する。そして、1番上に表示されたサイトにアクセスする。
「この検索ボックスに入力すれば良いはずだ」
父さんはそう言って、“パトリック・フォール”と入力して検索する。
…ヒットした。彼の名前・住所・顔写真に加え、所有している無人島についての記述と画像がセットで載っている。
「ほぉ、今はドローンによる上空写真もあるのか。凄いな」
「お父さん、無人島について詳しいよね? 何で?」
莉菜が俺と同じ疑問を口にする。
「実はお父さん、宝くじが当たったら無人島を買おうと思ってた時期があるんだ。それで色々調べてな…。お母さんには内緒だぞ」
父さんの恥ずかしそうな様子を見るに、ちょっとした黒歴史のようだ。
「パトリックさんは複数の無人島を所有してるんだな。2人はどこのに行くんだ?」
「ここから一番近いところのはずだ。車と船で共に30分だから」
高校から出発する流れだが、電車で2駅と少々の徒歩だ。自宅を軸に考えても差し支えないだろう。
「その条件に合う無人島は…“ブラシース”ってところか。面白いネーミングだな」
父さんは『ブラコン・シスコン』が島名の由来になってる事を知らない…。
「どういう島なのか、ちょっと見させてもらうか」
父さんが画像を拡大し始めた。これはチャンスだ。
「俺達もブラシースを詳しく知らないから、一緒に見るよ」
まさか、こんな形でブラシースについて知る事ができるとは…。 俺はワクワクしながら画像をチェックする。
「ブラシースは…、“楕円”に近い形のようだ」
俺も父さんと同じ印象を抱いた。島の全体が映ってるから、形がわかりやすい。
「パッと見た感じだと、大きい島ではなさそうだが…」
俺達は無人島を探索する訳じゃないし、小さくて良い。
「建物は1件だけか? 周りは木々が生い茂ってて、自然豊かだな」
補足すると砂浜もある。夏の今なら、楽しく遊べそうだ。
今度は別荘について知りたい。拡大する画像を変えてもらおう。
「父さん。今度は別荘が映ってる画像を拡大して欲しい」
「良いぞ」
…別荘は大きい平屋で、外観はペンションに近い印象を受ける。砂浜から少し離れた所に建っているから、あの辺は土台がしっかりしてるのか?
「他に見たい画像はあるか? 莉央・莉菜?」
「俺はない」
「私も」
「そうか。全部閉じるからな」
パソコンはホーム画面に戻り終えた。
「莉央。ブラシースに行くのは夏休みの間だな?」
父さんが俺を見て確認してきた。
「そうだよ」
「パトリックさんは名簿に載ってるから、ちゃんとした人だと思うが油断するなよ。2人が約束通りに戻らなかったら、すぐ警察に通報するから安心してくれ」
「ありがとう父さん」
これで心配する事はなくなった。
「後は風呂だな。なるべく早く入れよ、2人共」
「兄さん、最初に私が入って良い?」
「もちろん。…父さん、一緒に調べてくれて助かったよ」
「気にするな」
俺と莉菜は父さんの部屋を出てから、別行動をとる。
莉菜の風呂を自室で待ってる間、俺はブラシースについて考える。あの名簿を見ても疑問は全て解決していない。
でも行くのは俺達だけじゃない。佐奈目兄妹もいるし、先客もいる。それだけの人がいればきっと何とかなるよな。
…部屋の扉がノックされたので、すぐ扉を開ける。
「お風呂あがったよ」
風呂上がりの莉菜からは良い匂いがする。しかも薄着だから俺の興奮を誘う。
「明日、Hできるかもね♡」
彼女は耳元でそうつぶやいた。
「かもな」
ブラシースには、そういうお膳立てがあるはずだ。ブラコン・シスコンを対象にしてるんだから。
「今日はちゃんと早く寝てね。…お休み」
「お休み」
…莉菜が部屋に戻ったのを見届けた後、俺は脱衣所に向かう。
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