第2話 無人島は夢の島?

 下校中、道に迷っているパトリックさんに絡まれた俺と莉菜りな。彼は兄妹愛が好きらしく、俺達を自身が購入した無人島に招待した。


その場では答えを出さなかったものの、莉菜のクラスメートの佐奈目さなめさんが無人島に建てられた高校に転校するんだとか。


俺と莉菜は、彼女に詳しい話を聴く事にした。



 帰宅後。俺が昼食の準備をしている最中に、莉菜が佐奈目さんに連絡を取った。その結果、昼過ぎに高校近くのファミレスで会う事になる。


「お兄さんの準一じゅんいちさんも来るんだって」

2人きりで昼食中、向かいに座っている莉菜が言う。


「そうか。パトリックさんが声をかけたのはシスコン・ブラコンの兄妹なんだから、用事がなければ一緒に行動するのが普通だろう」


俺が佐奈目君の立場なら、絶対付いて行くぞ。


「だよね。私もそうする」


莉菜も同じ考えのようだ。無人島にある高校は全寮制だとパトリックさんは言っていたが、どういう所なんだろう? 早く会って聴いてみたいぞ。



 約束の時間少し前になり、俺と莉菜は待ち合わせ場所のファミレスに入る。


「莉菜、佐奈目さんはいるか?」


俺は佐奈目兄妹と面識がないから、莉菜だけが頼りだ。


「う~ん…、いないね」


「そうか。待たせてなくて良かった」

俺達が急遽呼び出したんだから、待ってたほうが良いのは言うまでもない。


俺と莉菜はテーブル席に隣同士で座り、出入り口を観察し続ける。



 俺達が席に着いて数分後。ある2人組の男女に莉菜が反応した。


「あの子が明日香あすかちゃんだよ。お~い」


莉菜の声に佐奈目さんが気付き、こっちに向かう。…あの2人も手を繋いでいるな。シスコン・ブラコンはみんなこうなのか?


佐奈目兄妹が座った事で、兄同士・妹同士が向かい合う形になる。


佐奈目君はキノコヘアーと雰囲気で、大人しいタイプなのが一目瞭然だ。逆に佐奈目さんはショートヘアーが印象的で、活発そうに見える。


「明日香ちゃん、急に呼び出してゴメンね」


「気にしないで。それより莉菜ちゃんの隣がいるのが…」


「兄の莉央りおだ。よろしくな佐奈目さん」


「こちらこそお願いします。…ほら、お兄ちゃんも!」


「…準一です。よろしく」


彼は俺達と目を合わさず小声で自己紹介を済ませる。


この兄妹、佐奈目さんがリードしてる感じだな…。愛の形は人それぞれだから何も言うまい。



 「明日香ちゃん。パトリックさんの話は胡散臭いよ。転校は止めたほうが良いって!」


あの話を信じる人は相当の変わり者だぞ。シスコン・ブラコン以上だろう。


「あたしも最初は疑ってたよ? でも証拠を色々見せてくれたから…」


「証拠って何?」


「あれ? 莉菜ちゃんは写真とか動画見てないの?」


「別件があると言って帰ったから…」


もし別件がなければ、家でそれらを見せてくれたかもな。


「そうなんだ。意外にしっかりしてたよね? お兄ちゃん?」


「…うん。“ブラシース”の場所とか別荘の感じとか、ちゃんと動画で確認できたよ」


「ブラシースって何だ?」

初めて聴く言葉だが?


「無人島の名前らしいですよ。パトリックが命名したって言ってました」

佐奈目さんが答える。


「へぇ~。ブラシースに別荘以外の建物はあるのか?」


「…動画には映ってなかったです。ぼく達は2組目なので、別荘が高校と寮を併せ持つかと。これから人が増えれば増築されるかも…」


「えっ? 佐奈目君達が2組目? じゃあ全校生徒は4人って事?」

それ、高校としてやっていけるの?


「そうなりますね~。資産家は何でもできて羨ましいですよ」


「明日香ちゃん。やっぱり怪しいから転校は止めた方が…」


俺もそう思う。さっき言ってた写真と動画がそんなに信頼できるのか?


「あんまり言いたくないけど、お母さんがお金に困っててさ…」

突然佐奈目さんがそうつぶやく。


「お金?」


「そう。パトリックの高校に転校すると、学費がかからないどころか謝礼としてお金がもらえるんだよ。そのお金があれば、お母さんを楽にしてあげられる…」


「…それに、いつでもテレビ通話させてくれるみたいなんです。その話を聴いて、ぼくと明日香は転校を決意しました」


2人はお母さん想いの良い兄妹だな。しかし…。


「その話が本当とは限らないだろ? 2人の身に何かあったら…」


「莉菜ちゃんのお兄ちゃん。さっき言った通り、あたし達にはお金がないの。そもそも、普通の高校生のあたし達をハメてパトリックが得する事があるんですか?」


佐奈目さん達は置いといて、俺と莉菜は一般家庭のはずだ。確かにハメるメリットがあるとは思えない。


「パトリックは『ブラコン・シスコンの人達が自由にイチャイチャできる所を作りたい』と言ってました。あたしはその言葉に賭けます。人生で最初で最大の賭けになるでしょうね」


「…明日香が賭けるから、ぼくも賭ける事にしたんです。こんな情けないぼくを“好き”って言ってくれる妹を放っておく事はできません」


2人の決意は固いな。もはや何を言っても無駄だろう。


「明日香ちゃんの気持ちはよくわかったよ…」


そう言う莉菜は考え込む。果たして何を思うのだろうか?



 「兄さん! 私達もブラシースに行こうよ!」


莉菜が言い出した事は、まったく予想していなかった。


「莉菜。どういうつもりだ?」


「だって、明日香ちゃんが心配だもん。それにパトリックさん言ってたよね? 『夏休みだけの体験も大歓迎』って」


「それはそうだが…」


「やっぱり怪しかったら明日香ちゃんの転校を止める! もし良いところだったら、私達もブラシースに転校しよう!」


莉菜は俺の目をじっと見つめてくる。簡単には折れそうにない。


「一応訊くが自棄やけじゃないよな?」


「もちろん」


俺、佐奈目君の事言えないかも?


「わかった。莉菜がそこまで言うなら…」


「ありがとう兄さん!」


「莉菜ちゃんも来てくれて嬉しいよ~」



 こうして、俺と莉菜はブラシースに行く事になった。その場でパトリックさんの携帯に連絡し、体験したい旨を伝えた。


彼はとても喜び、佐奈目さんと同じタイミングにブラシースに向かう事が決定した。この夏休みは波乱になりそうだ…。

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