道に迷っている外国人に絡まれたら、夢の島に招待されました

あかせ

第1話 とんでもない外国人に絡まれた

 ついさっき、1学期の終業式が終わって放課後になった。俺は校門付近で、1歳下の妹の莉菜りなが来るのを待つ。


明日から夏休みになるが、何をしようかな? 学校がある日と違い、理論上は1日中莉菜のそばにいられる訳だが…。


父さんか母さんが少しでも家にいれば、思い通りにはいかなくなる。俺と莉菜は周りから“仲が良い兄妹”と思われているだろう。しかし、2人きりの時はその枠に収まらない。


そう、にまで至っている。これがバレたらどうなるかは想像したくない。


俺達を育てている両親には感謝してるが、莉菜とイチャイチャしたい気持ちは消せない。何とか両立というか、うまくいく方法はないか?


俺はそんなあり得ない事を考え続ける…。



 校門にもたれながら俯いて考えていると、突然肩を叩かれた。


「兄さん、お待たせ」


顔を上げると愛しい莉菜がいた。黒髪のミディアムロングがそよ風になびいている。


「来たか莉菜」


「何か考え事? 邪魔してゴメンね」


「莉菜以上に大切な事なんてないよ」


「嬉しい♡ それじゃ帰ろうか」


「ああ」


俺達は手を繋いで帰路に就く。



 自宅までもう少しのところで、男性の外国人がスマホを見ながら辺りをキョロキョロしている。歳は30代ぐらいに見え、男性にしてはロン毛の金髪だ。


背は180ぐらいあるか? 俺は平均より少し低いから、高くて羨ましいよ。


「兄さん、あの人困ってそうだね」


「そうだな…」


何とかしたいところだが、英語を話せる自信がない。そもそも英語が通じるかわからないぞ。


俺達の存在に気付いた男性は、こっちに近付いてきた。仕方ないが何とかしよう。莉菜の前で情けないところを見せたくないからな。


「二人に訊きたいんだけど、この辺りに『七草ななくさ』という家はあるかな?」


男性が話す日本語は、日本人が話すのとほぼ変わらない。言葉の心配がないのは安心だが…。


…莉菜と目が合う。俺達に外国人の知り合いはいない。逃げても家は目と鼻の先だし、父さんの知り合いかもしれない。無碍にしないほうが良いか?


「俺達が七草です」


「そうなんだ。なら家まで案内お願いしても良い?」


堅苦しい人ではなさそうだが、用件を確認しないと。


「その前に、ウチに何の用があるんですか?」

不審者だったら通報を考えないと。


「情報提供によると、七草さんの家には仲が良い兄妹がいるみたいなんだよ。…って、よく見たら2人ともところどころ似てるな~。手も繋いでるし」


男性は俺達をジロジロ見るが、“情報提供”なんて言った時点で怪しいのは確定だ。俺達は、では変な事は一切していない。


「ゴメン、警戒させちゃったね。ボクはこういう者だ」

男性は俺達に名刺を見せてきた。


…彼の名は“パトリック・フォール”というようだ。他に載ってるのは、顔写真・携帯の電話番号・そして“資産家”という文字。


「ボクの一族は資産家でね、超が付く程の金持ちなんだ。この間、日本の無人島を数島買ったんだが、そこでボクはブラコン・シスコンの人達をサポートしたいんだ」


金持ちを自慢したいのか? 感じ悪いな。


「2人は、親の目を盗んでイチャイチャしたいと思った事ある?」


「……」


こんな質問に答える訳がない。莉菜もわかってるようで、ノーコメントだ。


「さっきの言葉は嘘じゃないよ。ボクは“きょうだい愛”が好きなんだ。といっても、兄と妹限定だけどね。姉と弟はボクの趣味じゃない」


そんなこだわり聴いてないぞ…。


「だから報奨金を用意してまで『近くに仲が良い兄妹はいる?』とネットで呼びかけたんだ。人は金に弱いし匿名だから、すぐ情報提供があったよ」


つまりご近所の人が、俺と莉菜の事を伝えたのか。金が絡むなら仕方ないかも。


「2人は間違いなく合格だ! もし気が向いたら、ボクの無人島に来て欲しい。衣食住は整ってるし、先客もいるんだ。気が合うと思うよ」


こんな怪しい勧誘に乗っただと? その人達は何を考えてる?


「そこに全寮制の高校も作ったんだ。手続きすれば、転校だってできる。しかも兄妹は絶対同じクラスだからずっといられるぞ~」


莉菜と歳が違う以上、同じ教室で勉強はできない。だがそこならそれが叶う? あり得ない話でも魅力的に聴こえる。


「君達と同じ高校の人でボクの島に来る事になった兄妹がいるんだ。佐奈目さなめ 準一じゅんいち明日香あすかって言うんだけど…」


佐奈目? 聴いたことないな。俺のクラスにはいないぞ。


「えっ!? 明日香ちゃんがそこに?」

莉菜が驚きの声を上げる。


「知ってるのか?」


「私と同じクラスなの。2学期からは別の高校に転校するんだって。今日お別れの会をやったから、兄さんと合流するのが遅れたんだよ」


「なるほどな…」


「知り合いなら話は早い。色々訊いてみたらどうかな? 転校はしなくても、夏休みだけの体験も大歓迎だから」


「……」


莉菜は考え込んでいる。どういう関係かはわからないが、クラスメートの転校先が気になるようだ。



 ……突然聞き慣れない音が俺達のそばから聞こえた。


「すまない、ボクの携帯だ」

パトリックさんはそう言って、俺達から少し距離を置く。


今の内に佐奈目さんの事を訊いておくか。


「莉菜。佐奈目さんとは仲良かったのか?」


「それほどじゃないけど、やっぱり気になるよ。3か月ぐらいでもクラスメートだったんだから」


莉菜は優しいな。俺は仲良くない限り気にしないと思う。


…電話が終わり、パトリックさんが戻ってくる。


「悪いけど別件で席を外すよ。ボクの名刺は渡すから、好きな時に連絡して欲しい」


彼は俺達に伝えた後、駅に向かって歩いて行く。金持ちのはずなのに、近くに執事とかメイドはいないんだな。パトリックさんの趣味なんだろうか?


「兄さんが良ければ、私と一緒に明日香さんの話を聴いて欲しいの。…どうかな?」


パトリックさんの話は、どこまで本当かは不明だ。でも莉菜のクラスメートの佐奈目さんが転校する事だけは本当だな。莉菜が嘘付く訳ないし。


「わかった。家に帰って昼を済ませてから、連絡を取ってみようか」


「ありがとう兄さん」


俺達は急ぎ足で帰宅するのだった。

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