最終話
あれから季節は流れ、現在は12月。
担任の先生からは、クラス成績最下位のパーティーは進級できないと発表されたのだが、その時は当然のようにクラスの皆から反感があった。
ゲイルの場合は……
『おい! ふざけんじゃねぇぞ! どうしてそんなことになった! 言え!』
と、こんな感じでいつも通りキレていた。
原作はゲームなので、製作者がそのように作ったというのが最大の理由だが、物語内での理由としては……
『競争をさせ、学園のレベルを上げる為です』
ということになっている。
いくらなんでも急だとは思うが、そこはゲームなので深く突っ込むのは、よした方がいいだろう。
パーティーの順位と言えば、ゲイルのパーティーはというと、なんとか最下位は免れていた。
花の原作知識もそうだが、やはりゲイルは努力家で、本来原作主人公であるミストが倒すべき相手を倒したというのもある。
やはり、口が悪いだけで、おそらく根は悪い奴ではないのだろう。
「なぁ、俺実は弱い奴は要らないって言われて育ったんだけどよ!」
とある休日、辺りも暗くなってきた頃、森の中で焚火を花とゲイルが囲っている。
そこでのゲイルの発言を聞き、根は悪い奴ではないと再度思ったのであった。
「実はんなこたねぇのか!?」
「それはそうだろ」
「でもよ、最下位のパーティーは2年に上がれないって言ってたぞ? それってつまり、俺ん
「それは元がゲームだし……うん」
その後もゲイルがどのような教育を受けて来たのかを、聞いた。
なぜ主人公であるミストを追放しようとしたのか?
パーティー最下位で2年になって進級できないと家族にバレたら、おそらく家を追放されてしまうからだろう。
最終的にミストを殺そうとしたのも、家族に相談して何か酷いことを言われたのかもしれない。
現時点でのゲイルは、仲間に対して暴言をはくが、殺すことは悪いことだと思っているのだから。
焦りと否定は、人間を変えてしまうのかもしれない。
描写がないだけで、他の作品に登場する主人公に喧嘩を売る小物キャラにも、ドラマがあるのかもしれない。
そう思った。
「ゲイル、親のせいにしていいんだからな」
「あ?」
「僕は親は優しかったから、偉そうなこと言えないんだけどさ、大人になると親のせいにしちゃいけないって風潮がどこかにある。だから、もしかしてそれがゲイルの耳に入ることがあるかもしれない」
「んな風潮ねぇだろ! つーか、俺は親のせいにしちゃいねぇ! 俺がもっと強くなればいいだけの話だからなぁ!」
「だから心配なんだよ」
「どういうことだ? 言え!」
「矛盾だよ。育った環境っていうのは、どうしても性格に大きな影響を与える。なのに、そんなこと言われちゃ、ゲイルだってどうしていいか分からなくなるだろ? 確かに人前でそれを言うと面倒なことになるから言わない方がいいけど、実際にゲイルの場合は親のせいってのはあると思う」
原作において、ゲイルの親についての描写はないので、原作の彼はどうなのかは分からない。
だがここにいる彼は、育った環境でこのような性格になってしまった可能性は高いだろう。
「お前は本当偉そうだな、おい!」
ゲイルは若干キレながら、座ったまま思い切り地面を蹴りつけるのであった。
◇
そして、平日のある日。
そう、とある大事件が起こる日のことだ。
現在は学校の校庭に強い生徒や、先生、更には街の兵士までもが立っている。
今日はブラッドデーモンという、魔王の幹部が襲来する日なのだ。
だが、この日に備えて準備はしてきた。
実際にこうして強者たちが、校庭に立っている。
「花さん、貴方の言うことは本当みたいですね」
担任の先生が眼鏡をクイッと、右手人差し指で持ち上げながら、空を見上げる。
ブラッドデーモンと、その部下のデーモンたちが空から学校に襲来してくる。
「お願いしますよ! 皆さん!」
花は改めて皆に言った。
前までは自分が話せることは秘密であったが、そうもいかなくなったからだ。
ゲームのことも全て話した。
最初は信用して貰えなかったが、数々の予言を的中させ、信用を得たのだ。
空からデーモンたちが降って来る。
本来のストーリーであれば急な襲来で多くの犠牲者が出るのだが、今回はあらかじめ準備をしておいた。
回復アイテムに関しても大量に用意してあるので、人が死ぬ可能性というのは低いだろう。
大量のデーモンを相手に、先生や生徒、兵士達が戦いを始める。
「おや?」
ブラッドデーモンの目の前に、花とゲイルとミストは立つ。
「私の相手をしてくれるのですか?」
「ああ! 悪いけど、こっちも本気で行かせて貰う!」
花はブラッドデーモンに対し、強気な口調で答えるが、どこか違和感を覚えていた。
原作でのブラッドデーモンは、一人称が「俺様」で、ゲイルのように荒々しい口調のハズだったのだが……
「驚いているようですね。何やら貴方達も対策をしていたようなので、こちらも対策をさせていただきました」
「バレていたのか!?」
対策はバレていたようで、更にその対策をしてきたようだ。
一体どんな対策をしてきたと言うのだろうか?
「姿かたちこそは部下であるブラッドデーモンですが……はじめまして、私こそが魔王です」
「なっ!?」
血の色の体に、黒い翼。
どこからどう見ても、ブラッドデーモンにしか見えない。
「簡単に言うと、融合させていただきました。もっとも、彼の意識は消えましたがね」
「融合か……」
驚いた。
まさか、こちらと同じ技を持っているとは。
「こっちも行くぞ! ゲイル! ミスト!」
「今回だけだぞ!」
「OK!」
2人が返事をすると、花は植木鉢から抜け出し、2人の頭上でスキルを発動させる。
「スキル発動! 【融合】!」
スキルは本来1人につき1つなのだが、なぜか花は【融合】合わせて3つのスキルを持つ。
最初はなぜ複数スキルを持てるのか疑問であったが、最近理由がなんとなく分かった。
今の花は、前世の2人分の記憶と、ここにいるスターフラワーとしての体がある。
つまりは合計3人扱いになったのではないのか? と、そんな風にを考えた。
だが、理由はどうでもいいだろう。
とにかく、今回重要なのはこの戦いに勝つことだ。
おまけに相手は魔王。
ここで勝てば、ここから先は物語の最終目標である、魔王を倒すことを考えなくて済む。
だが、負ければ終わり。
絶対に負けられない戦いだ。
「聖騎士ユグドラシル!!」
3人が融合し、そこには3人とは似ても似つかない、白い装備に身を包んだ銀髪の剣士がいた。
「それはなんですか?」
融合している状態だが、体を操っているのは花である。
聖騎士は、魔王へ向かって走る。
「姿を変えたのですか。くだらないですね」
聖騎士ユグドラシルという名は、花達が決めた名ではなく、融合した際に花の頭の中に浮かんだ名であった。
原作主人公の名は、ミスト・ラシル。
ゲイルの名は、ゲイル・ユグド。
よく考えれば、2人合わせるとユグドラシルになる。
なぜ主人公と、それに倒される役の名前を合わせるとユグドラシルになるのかは分からない。
もしかすると、原作においても、本来ゲイルは死なずに改心して仲間になるキャラクターだったのかもしれない。
しかし、ゲームは商売だ。
今のトレンドをある程度取り入れなくてはならない。
花的には悪役が仲間になるストーリーが好きである。
だが、今のトレンドは悪役が改心して仲間になる物語ではなく、悪役が無残な死を遂げる物語だろう。
であれば、開発当初と展開が変わっても……
「仕方ないよなああああああああああっ!!!!」
「ぐあああああああああああああああああああっ!!!!」
ユグドラシルは、その剣で魔王を斬ると、魔王は粒子となり消滅するのであった。
◇
「ここはどこだ?」
花は、花の姿で見知らぬ真っ白な空間にいた。
目の前にいるのは、長いヒゲを
「神?」
「その通りじゃ」
なんとなく言ってみた花であったが、当たっていたようだ。
「本当はこんな姿をしておらず、こんな喋り方はしないんじゃが、お主の中の神様といった、おそらくワシと似た存在の概念を確認したからな。それに合わせているだけじゃ」
つまりは、神様と分かりやすくする為に、このような姿や喋り方をしているということらしい。
「スターフラワーよ。とんだ迷惑をかけたな」
「迷惑?」
「ああ。お主に人間の記憶をぶち込んでしまったことじゃよ」
「え? 記憶をぶち込む?」
「
神様は説明してくれた。
どうやら、正確には人間の生まれ変わりではなく、人間の記憶をぶち込んだモンスターだったらしい。
なぜそんなことをしたかというと、花の記憶にある2人を神様のミスで死にかけの状態にしてしまい、一時的に記憶を誰かに植え付ける必要があったらしい。
分かりやすく例えると、ゲームのセーブファイルのようなものだという。
「安心せい。元の世界ではほとんど時間は経っておらん」
「いや、それはいいんですけど。その人間の中に記憶を戻す時、この世界でのことも覚えているんですか?」
「普通は消すが、消したくないのか?」
「はい。実は僕、人間の頃は自分に自信が持てなくて、自分に能力がないから大人しくしていたんです。
アニメとかの場合、能力のないキャラが自信を持つと成敗されちゃうじゃないですか。
でも、ゲイルと会って、少し違う生き方をしてみてもいいかなと思ったんです。
確かにゲイル程暴れるのは良くないですけど、悪役になってもいいから、もっと自分を大切に生きてみようかなって」
「そうか。なら消さない」
「え!? いいんですか!?」
「どうせ夢と変わらんからな。もしもお主がそれを誰かに話しても、誰も信用などせんし、証拠は残らん。お主が生きていく武器にするといい」
「本当ですか!? ありがとうございます!! で……今ここにいる僕のことなんですけど」
ここにいる、スターフラワーとしての花はどうなるのだろうか?
「記憶が消えちゃったりするんですか?」
「そこは心配いらない。カット&ペーストではなく、コピー&ペーストじゃからな。お主の記憶もそのままじゃよ」
「ありがとうございます!」
「色々迷惑かけてすまんかったな。3人共、元気でな」
◇
魔王を倒した後、デーモン達も消滅した。
花とゲイルとミストは学校どころか、街で大勢の前で表彰され、有名となる。
そして更に数日が経過し、いつも通りの学園生活が始まった。
これは、そんないつもの昼休みの光景である。
「どうだ! 俺はまた新たなアーツを手に入れた! お前ら雑魚とは違う!」
(おいおい)
本気で言っている訳ではないのだろうが、このゲイルの発言は、周りが傷つく発言だ。
確かにゲイルの努力は凄いが、それでも誰かを傷つけるようなことは口にしない方がいいだろう。
それに対して、周囲の生徒は……
「認める、その通りだ! 俺なんかゲイルの足元にも及ばないな。最強になりたかったけど、これは無理だ。才能が違い過ぎる」
「ああ。俺も最初は一番になろうと思っていたけど、ゲイルを見ていたら、それは無理だと確信した。
「その通りだな。それに引き換え、今までの俺らはダサかったよな。大人しくゲイルの才能を認めて大人しくしておけば良かったんだ」
「ああ。人の才能に嫉妬してみっともなかったよな。見苦し過ぎる」
勝ち誇っていた表情のゲイルであったが、周囲の生徒がそう言うと、すぐに真顔になって軽く頭を下げた。
「なんか
すると、周囲の生徒は「どうしたんだ?」、「なんで謝るんだ?」と首を傾げた。
授業が始まるまでもう少しということもあり、皆空気が変わったのをきっかけに、自分の席に座った。
「なぁ、花」
「なんだ?」
「結局は強さなのか?」
「どういうことだ?」
「いや、俺って
「自覚が出て来たのか……」
「もう治せねぇけどなぁ!」
「威張るなよ……。で、それがどうしたんだ?」
「あいつら、なんで俺があんなに態度悪くしてもなんも言ってこなかったんだ?
前は俺を散々馬鹿にしてきた奴らだったが、気味が悪い程に何も言い返して来ねぇ。
俺だったら、キレるんだがな。
何も言い返して来ないせいで、なんつーか……罪悪感? あんま感じたことねぇんだけど、今回は珍しく感じちまってな。
どうしてあいつらは言い返して来なかったんだ?」
「……僕にも気持ちは分かるよ」
「本当か?」
「ああ。僕も人間の頃は、そうだったからね。
能力がある人を認めないのはかっこ悪いことだし、負けを認めて潔く引くのはそれはそれでかっこいいことだと思っていた。
でも、僕の場合だけど、実際は悪役になりたくないからそうしたんだって、今なら思う。
本当はどんな理由でもいいから、君みたいに一生懸命努力した方がかっこいいんだろうけどね。
ただし、さっきみたいに人を傷つけるのは良くないぞ! 実際に思っても、心の中で
「だから
謝るようになっただけでも、かなりの成長である。
◇
嫉妬や妬み。
それは悪い感情だと思っていた。
表に出す、出さないに関わらず、それ自体が悪いものだという認識があった。
でも、実際はそういった感情が悪いものとして表現されることが多いだけで、実際生きていく中では、とても大切な感情なのだろう。
【何かを成し遂げる意志の強さ】
それこそが、表に出さない場合の嫉妬や妬みの正体なのだろう。
「ゲイルを見ていたら、そう思った。俺はまだまだやれるって、そう思うことが大事なんだって!」
「私も、もっとやりたいことやってみよう!」
後ろ向きに歩いていた2人の人間も、異世界での記憶を武器に、これから前を向いて歩こうと決めたのであった。
★
【あとがき】
申し訳ございません。
半分打ち切りです。
半分というのは、書きたいことをコンパクトにまとめた打ち切りということです。
なので、書きたいことは書けたのですが、本当に書きたいことだけを書いたといった感じです。
メグが原作と能力が違うのは、ローナに百合的な何かを抱いていたからとか、ゲイルが土属性で器用に戦うとか、花が地面に向かって寄生を発動して惑星を操るとか。
色々あったのですが、申し訳ございません。
とにかく完結できて良かったです。
最近短編を量産していたので、それが活きました。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
悪役生徒の召喚獣に転生した。~見た目が花の召喚獣で弱そうだけど、原作ゲームの知識やスキルを駆使して破滅を回避する~ 琴珠 @kotodama22
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