第33話 今手にしたもう1つの力で!
設定の範囲外のことができるということの証明を花に求めるメグ。
ゲイルに感化された花は、先程の発言をノリで行った為、「え?」という言葉が口から飛び出す。
「何その反応?」
「えっと、いやぁ……あはは」
やはり、発言には責任を持たなくてはならないようだ。
「どうやって証明するの? 具体的に言って!」
「ぐぬぬ……」
上司からの説教風景がフラッシュバックしそうになる。
そのせいか、花は口を閉じてしまう。
怒られるのが怖く、思考を停止してしまうのだ。
(って、僕ったら何をしているんだ! 今回は怖がらなくても大丈夫なのに!)
今回に限ってはその必要はない。
先程の発言通りのことを証明をする方法は、もう
(まぁ、後付けだけどね)
先程の発言をした際は、確かに根拠がなかった。
しかし、それはあくまでも発言をしたその時のことだ。今は違う。
あの発言がトリガーとなったのか、それは分からない。
花はこの世界の法則を破る1つのものを得た。
「答えられないみたいだね!」
メグは新たなナイフを取り出し、花に向かって走る。
今度こそ倒そうと、投げるのではなく直接刺す気なのだろう。
「スキル発動!」
「君のスキルの効果は、知ってるよ! 自分より弱い相手か、相手が受け入れないと効果がないんでしょ?」
その通りだ。
スキル【寄生】はこの場では発動する意味がない。
「
「!?」
メグの表情が驚きに変わる。
既に花の近くに迫っていたメグは、大きく吹き飛ぶ。
「なんなの!?」
メグは吹き飛ばされはしたものの、倒れずに足から着地をした。
「なんなのって、新しいスキルだよ!」
花の周囲には、花自身から放出された虹色のオーラが溢れている。
そのオーラが発生した衝撃でメグは吹き飛んだのだ。
「そんな……そんなことあり得ないよ! 先生も言ってたよね! スキルは1人につき1つだけだって!」
「本来ならね! だけど、現にこうしてもう1つのスキルを発動させている! おまけに設定にもない、
「う、嘘だ!」
メグは目を赤く光らせた。【解析】で花の新たなスキルを読み取ろうとしたのだろう。
すぐにメグは目の色を元に戻す。
「解析できない!?」
おそらく、完全にオリジナルスキルだからだろう。
メグのスキルを持ってしてでも、そのスキルの詳細は分からなかったようだ。
というのも、実は花自身もこのスキルについてよく分かっていない。
分かっているのは、FDというアルファベット2文字だけだ。ファイナルドライブというのも、花がとっさに名付けたスキル名である。
スキルの効果でさえ、発動してからなんとなく分かったくらいの認識である。
(それにしても……良かった。これで使えないスキルだったら、どうしようかと思った)
体中にパワーが漲る。全体的な能力の強化、それがFDの効果なのだろう。
今の状況を打開するには、これ程ピッタリなスキルはない。
しかし、長くは持ちそうにない。それに、ここまで無理に力を使っているのだ。おそらく、気軽に普段使いできそうにないスキルである。
「一気に決める!」
花は走った。植木鉢の下から出た根っこで走っているので、本来であればそこまで早くはないのだが、今の花は物凄く早い。
「今手にしたもう1つの力で!」
花は植木鉢ごと、メグの目の前で大ジャンプをする。
そして放つ。このスキルを発動した際に手にしたアーツを。
こちらも完全オリジナルな能力だが、どんな技かはしっかりと理解している。
花はそのアーツ名を空中で叫ぶ。
「
その瞬間、花の口には虹色の剣が握られていた。
実態はない剣ではあるが、虹色の輝きを放っている。
メグの体にそれが振り降ろされ、切断と同時に切断した面も虹色に輝いた。
「そんな!?」
動揺していたのだろうか? メグは攻撃をかわすことができずに、そのまま粒子となり消滅した。
◇
花の場合は、椅子に座るというよりも、椅子の上に植木鉢を乗せているといった感じである。
「いい勝負だったね」
メグが両足をブラブラさせながら、花に言った。
「うん」
お互い、向き合うことなく、扉の閉まっている廊下側を見ながら会話をする。
「あるんだね」
「何が?」
「確定してないことって、あるんだね」
「それはそうだよ。そもそも僕がこの世界に来たこと自体、人間時代には想像もしていなかったことだ」
“私”の方の花は生まれ変わり自体は信じていたのだが、まさかラノベのような異世界転生が本当に起きるとは思っていなかった。
「それに今だって分からないことの方が多い。あくまで知っているのはSHFの内容だけだし、完全にその内容を覚えている訳じゃない。予想外のことだって多すぎる」
例えばミストにしたってそうだ。SHFの彼とは、性格がまるで違う。
彼程ではないにしろ、メグに関してもそれは言えるだろう。
「そっか……花さんも全部知ってる訳じゃないんだね」
「うん。そもそもこの世界が本当にSHFの世界そのものか、それを元にした世界なのか。たまたま似た世界なのかも分からない。本当に分からないことだらけだよ。インターネットもないしね」
「インターネット……?」
メグは首を
「知りたいことを調べることができたりするものかな? 他にも色々できるよ! それこそゲームとかも!」
「そんなものがあるの!? いいなぁ! 今度私も花さんがいた世界に連れて行って欲しいくらいだよ!」
メグは花の方を向くと、目を輝かせる。
「興味を持ってくれてありがとう! でも、どうやって元の世界に戻ればいいのかは、僕も分からないんだ。ごめん」
「そっか……行きたかったなぁ! というか、住みたかったな! きっと楽しいこといっぱい! 未知のこといっぱいなんだろうし!」
メグはワクワクが抑えきれないようで、目線を上にする。色々と空想しているのだろう。
そんなメグに対して、花は「あんまりおススメできないよ」と言う。
「どうして?」
「僕のいた世界はメグみたいな子には不向きな世界だからね。健康に生きることは難しいと思う。特に精神面で。君は純粋すぎるし、優しすぎるからね。」
「私優しいの? あんなにワガママ言ったのに?」
「うん。優しいよ」
お世辞でもなんでもなく、素直に思ったことをそのまま伝えた。
するとメグは思い出したかのように立ち上がると、花に向かって頭を下げた。
「ごめんなさい」
「ど、どうしたの!?」
「色々ワガママ言っちゃったし、花さんが傷つくこと言っちゃったから……」
「いやいや! 気にしなくていいよ! むしろミストのことを考えると、強くなってくれたのは単純に嬉しかったし!」
ミストの覚醒イベントが起きない可能性を考えると、仲間の強化はありがたいことだ。
「許してくれるの?」
「いや、別に怒ってないし、傷ついてもないし」
「そうなの?」
「うん! だから、気にするな!」
その後メグは、もう1つ伝えたいことがあると言う。
「可能性を教えてくれて、ありがとう!」
可能性とは、設定の範囲を破れるという可能性のことだろう。
「でも、2つ目のスキルって本当に凄いよ!」
「まぁ……うん。たまたまだけどね」
そもそも、最初に可能性を証明することを言った時は、根拠なんてなかった。
「そうなの!? 前から持ってた能力を隠してたとかじゃなくて!?」
「残念ながら……あはは」
「ええ!?」
メグは困惑していた。それはそうだろう。
「ま、まぁいいじゃないか! これからもよろしく頼むよ!」
こうして、無事にメグと和解をすることができたのであった。
それにしても、なぜメグがスキルを発動できるようになったのだろうか?
SHFのメグは、恋心の自覚がトリガーとなっていたのだが……。
「メグ! ミストのこと好き?」
「うん! 大切な友達だよ! 勿論ゲイル君や花さんもね!」
あまり深く
いずれ分かる時が来るだろう。
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