第3話 こうして俺様はへたれになり、私はサブヒーローと幸せになりました!



 それからというもの、私はルシオに塩対応を貫いた。



「おい。どんくさ女。今日は特別に、お前と一緒に出掛けてやってもいいのだぞ」

「あ、いえ。結構です」

「ファ……!?」




「お、おい。どんくさ女。今日の予定だが……」

「その『どんくさ女』という呼び方、やめてもらえませんか? 不愉快です」

「ふぇ……!?」




「お、おい……その。ディアナ……」

「…………はい」

「えっと、ディアナ……さん」

「何ですか」

「今日、よかったら俺と出かけてはもらえませんか……」

「すみません。今日は予定があるので」

「今日もだめなのか!? うっ……いつになったら俺と出かけてくれるんだ!?」

「何で泣いてるんですか」

「泣いてない!!」




 気が付けば、彼はすっかりへたれと化していたのだった。

 ……俺様キャラはどこへ?




 +



 その一方で、私は順調にグラティスとの仲を深めていった。



 そして、その日はついに訪れた。

 それは漫画の山場の1つである、グラティスの恋心が露呈してしまうシーンだ。

 しかし、彼は初めからその恋を諦めていた。「ディアナは王子が好き」と思っているからだ。


 だから、グラティスは申し訳なさそうにうつむいている。


「申し訳ありません。ディアナ様。この気持ちは、あなたにとって迷惑となると知っていながら……それでも俺は、あなたに惹かれる心を止められなかった」

「グラティス様……」


 ダンスパーティーが終わった後のこと。

 辺りには夜の帳が落ち、寂しげな雰囲気が漂っている。

 そこは王城のバルコニーだった。グラティスと私は2人きりで向かい合っていた。

 悲しそうに目を伏せるグラティス。本当にその想いが許されないものだと信じこんでいるようだ。

 ――そんなことはないのに。


「……嬉しいです」


 私の言葉に、グラティスは切なそうに笑った。


「そう言っていただけるなんて、あなたは本当にお優しいのですね。ですが、あなたの気持ちを俺は知っている。あなたは殿下のことを……」

「本当に嬉しいです。グラティス様」


 一歩、彼へと近付く。

 その手に自分の手を重ねた。


「だって、私はあなたのことが好きだから」

「え……!?」


 彼は目を白黒させ、本気で驚いていた。

 完全に予想外という顔をしている。


 私が王子に散々、塩対応していたのを彼も見ていたはずなんだけどな……。それでも、「私が王子を好き」という勘違いを覆すことはできなかった。

 ……これって、漫画の強制力なの?


「ですが、ディアナ様!? 殿下のことは……!」

「何とも思ってません。あ、最近は何だか丸くなって、可愛いなとは思っていますが」

「え!?」

「殿下のことを、異性として意識したことはありません。私は最初からずっと……あなたのことをお慕いしていました」


 グラティスの碧眼が「まさか」というように揺れて、潤んで、切なそうに細められて――。


「ディアナ様……」


 彼はおそるおそるといった様子で、私の手を握った。


「ずっとあなたのことが好きでした。あなたは殿下のことをお慕いしていると思っていましたが……それでも、あなたを諦められなかった」


 次の瞬間、私は強く抱きしめられていた。

 その体がかすかに震えていることに気付いて、私の胸は、きゅっ、となった。


 グラティス……本当に私に選んでもらえるとは、思ってなかったんだなあ。


「ディアナ様……本当に俺で、いいのですか……」

「あなたがいいです。グラティス様……私はあなたのことが好きだから」


 その背を私は抱き返す。

 星空の下で、彼の震えが止まるまで、私たちは静かに抱き合っていた。






 こうして、私は本来であれば不遇ポジションのサブヒーローと結ばれた。

 え、本来のメインヒーローの方はどうなったのかって?



 何かよくわからないけど、気が付けば、ルシオは俺様がすっかりとれて、ただのへたれになってた。



「ディアナ! どうして俺ではダメなんだ!? 俺はお前のことを愛しているんだぞ!? それなのに、俺のことを捨てるのか……?」



 その後もやたらとすがりつかれて、困るはめになったのだけど……それはまた、別のお話。



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転生ヒロインは、サブヒーロー(不遇)と結ばれたい 村沢黒音 @kurone629

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