カラスと猫。

ふさふさしっぽ

本文

 一羽のカラスがいた。

 仮に「カー助」としよう。

 春を迎え、現在カラスの繁殖期。カー助は必死にお嫁さん探しをしていたが、なかなかうまくいかない。「あなた、なんだかオスとして弱そう」「頼りない」とメスカラスたちからそっぽを向かれてしまう。


「くそー、ほかのカラスどもはどんどんカップルになっているっていうのに、俺のどこがだめだっていうんだ」


 カー助はいらいらしながら住宅街の上を飛んでいた。

 一軒の家が目に入る。どこにでもありそうな、特にこれといった特徴のない、二階建ての一軒家だ。

 その一軒家の庭に面したリビングで、猫が一匹、昼寝をしているのが窓越しに見えた。

 もちろんリビングの窓は閉まっている。

 窓際の床に敷かれた座布団の上に、ふくふくと太った茶トラの猫が気持ちよさそうに丸くなっている。


「嫁も見つからず、暇だし、とりあえず、あの猫からかって遊ぶか」


 カー助は一軒家を目指して降下した。


「鳥だけに、トリあえずってか、カーカカカ、カーキクーケコー!」


 自分で言ったことに自分でうけて笑ってテンションが上げるカー助。

 普段のカー助は野良猫にケンカを売ったりしないが、どうあってもこちらに手出しできない飼い猫は別だ。

 カー助は庭に降り立つと、窓越しに猫に話しかけた。


「よう、おデブさん、そんなに寝てるとますます太るぜ」


 調子に乗ったカー助は、くちばしで窓をつつきながら言った。

 猫は完全に寝入っていたわけではなかったらしく、目の前のカラスに気が付くと、すぐに立ち上がった。


「なんだお前、うちに何の用だ。どっか行けよ、食べちゃうぞ」


 猫は煩わしそうに長い尻尾をぶんぶん振った。イラついているときの仕草である。


「食えるもんなら食ってみな、おデブさん」


「なんだと、バカカラス」


「バカはお前だよ、バーカバーカ」


「いい加減にしろ、許さないぞ」


「どうするってんだ、デブ猫ちゃん。どうせ外には出られないんだろ? カーカッカッカ」


「今に見てろ」


 そう言うなり、猫はリビングを出て行った。


「なんだ、捨て台詞を吐いて、逃げるのか?」


 臆病者め、とカー助は嘲笑った。

 結構な時間、嘲笑っていたので、近づく気配に気が付かなかった。


「くたばれ、カラ公!」


 猫がカー助に頭上から飛び掛かった。カー助は間一髪、なんとかかわす。


「な、なぜだ、なぜ飼い猫のお前が外に出ているんだ!」


「二階の窓の網戸からだよ。今飼い主が二階で昼寝しているから、そっと開けてでてきた。覚悟しろ、バカカラス!」


 猫はカー助に飛び掛かった。そう、猫は網戸程度なら難なく開けてしまう。そして、二階という高さからもしなやかな動きで華麗に下りてくる。


「うわあああああ」


 カー助はやられる、と思った。さっきまでは余裕を見せていたカー助だが、カー助が余裕だったのは、猫が自分を絶対に攻撃できないからと分かっていたからだ。本来ケンカが苦手なカー助は、猫の攻撃に飛び立つのも忘れ、その場に硬直してしまった。

 猫の鋭い爪がカー助めがけて振り下ろされた、そのとき。


 バサバサバサッ。


「にゃあああああああ!?」


 一羽のメスカラスがどこからともなく現れ、猫を攻撃し始めた。

 くちばしで容赦なく突っつく。猫も猫パンチで応戦している。


「今よ、逃げるわよ」


 メスカラスがカー助に命じた。猫が怯んでいるすきに、二羽のカラスは空へと飛びたった。


 「あ、ありがとう。君は勇敢なメスカラスだね」


 助けてもらったカー助はまだ飛び方がへろへろしている。


「あなたみたいな弱虫なカラス、放っておけないわ。私が一緒にいてあげる」


「本当? 一生ついて行くよ、姉御」


 カー助は思わぬところでパートナーと出会えたようで、トリあえず、一件落着。

 猫のほうも二階の網戸からリビングに戻って、昼寝を再開。


 めでたしめでたし。



 おわり。




 

 

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