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よし、入り口までついた。今日も変わらずに向かいにはメガネ屋さんやコンビニもある。本当にここって便利なものが多いよね。


早く話してくれって? もう、せっかちだなぁ。まあ良いよ。約束だったからそろそろ話してあげる。


これは私がしょうてんがいを好きになった理由の話。あなたも不思議に思ったようだけど、しょうてんがいをここまで好きだと言える人ってよほどの思い入れがある人だと思うんだ。


もちろん、私だって同じだよ。しょうてんがいには思い入れはあるし、あなたとだって何回も来てるから思い出は多い。それじゃあ私とあなたのその想いの強さの差は何か。それは私にはあなたが知らない出来事が起きていたから。


少し前、あなたも知ってるように私はだいぶ酷い風邪に悩まされていて、その日も私は病院に行っていた。付き添おうかとは言われてたけど、あなたに移しちゃ悪いと思って断ったんだよね。気持ち自体は嬉しかったからそれだけはわかっててね。


それでこのまま治らないのかなとも思って少し落ち込んでいた時、私の目にはしょうてんがいが映った。


風邪で咳をゴホゴホさせてる時に寄り道なんて良くないけど、何か気晴らしになる物があればと思って私はしょうてんがいに足を踏み入れた。


その日も今日と変わらずだったよ、しょうてんがいの様子は。美味しそうな香りがあちらこちらから漂ってきて、お店の人達もすれ違う人達もまるで歓迎してくれてるようににこにこしてて。


その雰囲気に私はホッとした。風邪を引いてる時ってなんか弱気になっちゃうじゃない? 本当に生きてて良いのかなとか私なんてとか色々マイナスな事ばかり考えちゃう。でも、そんなのを吹き飛ばしてくれるくらいにここの雰囲気はあたたかくて私はそれだけでしょうてんがいが大好きになった。


そしてその内に少しずつ食欲も湧いてきて、色々な物を食べてみたいと思い始めたらもう止まらなくて、今日みたいに色々な物を買い食いしたの。気持ちだけなら学校帰りの学生みたいだった。


そうして食べながら歩いていた時、ふと思ったんだよね。ここの名前、何だっけ? ってね。ほら、あなたもあれっ? て顔してる。まあ仕方ないよ。しょうてんがいって呼ぶ事の方が多いし、名前で呼ぶ方が少ないから。


私も気になって入り口まで行ったんだよ。そして見てみたんだけど、どんな名前だったか気になる? ふふ、その気になってしょうがないって顔もほんと素敵だよね。それじゃあ教えてあげるね、ここがどこなのか。ここはズバリ、しょうてんがいだよ。


何言ってるんだって顔をしてるね。でも、それが正解だから仕方ないよ。しょうてんがいはしょうてんがい、それで良いって事にしなきゃ。


え? それで納得出来るわけないって? もう、欲張りさんだな……まあ良いよ。でも、その前に一つだけ聞くね。


あなたは黄泉戸喫よもつへぐいって知ってる? その顔は知らないって感じだね。黄泉戸喫っていうのは、あの世の穢れた食べ物を食べたら現世には戻れないっていう事で、日本神話で伊邪那美命いざなみのみこと様がしてしまった事でも有名だね。


あれ、顔色が悪いね? でも、察しの良いあなたは嫌いじゃないよ。そう、あの日に私も黄泉戸喫をしてしまった。そして今日はあなたも。


あはは、そう怒らないでよ。それに、正確に言えば黄泉戸喫というのは適した言葉がそれだっただけで、ここは黄泉の世界ではなくてしょうてんがいなんだから。


じゃあ、そのしょうてんがいっていうのは何だって? そうだね……簡単に言えば、地域に根差した怪異なのかな。


私も教えてもらったばかりなんだけど、このしょうてんがいはその人がイメージする商店街その物に見えるように化けていて、しょうてんがいから作られた食べ物を食べた人の魂を奪い取り、自分の一部として永遠に閉じ込めちゃうんだ。でも、身体はそのまま。しょうてんがいがその人の魂を元に作り出した傀儡の魂を戻して、次の獲物を連れてくるように命令しちゃうの。


ほら、向こうを見てよ。私達の身体が歩いていくでしょ? あれはこのまましょうてんがいを出ていって、次のしょうてんがいの獲物を連れてこようとするんだ。因みに、追っても無駄だよ。あの中には戻れないし、私達はしょうてんがいの近くに居続けるしかない。


しょうてんがいはどうして私達を狙うのか? それも諸説あってね。少し離れたところに鬼の手形ってあるでしょ? その鬼は羅刹らせつっていうんだけど、懲らしめられてもうこの地には近づかないって約束するために手形を取られたんだ。


その後、他の場所に行く前に怨みの念をここに籠めて、それがやがてこの地域の力を吸って地域住民や旅人を引き寄せる怪異になったっていうのが有力みたいだね。まあ諸説あるし、逃げられなくなったのは変わらないんだけど。


まあまあ、そんなに悲しい顔しないでよ。ここで過ごすのも悪くはないよ。働かざる者食うべからずって事でどこかのお店で働く事にはなるけど、衣食住は保証されるし、住み心地も悪くはないよ。


こんなところにいられるか、ここを好きだなんておかしいって? ふふ、私だって最初はそうだった。でも、そろそろあなたもここが大好きになってくるよ。さっきから嗅いでる香りの影響でね。


そう、これはしょうてんがい自体が出してる香りで、これを嗅ぎ続けているとここ自体が大好きになって、ここにずっといたくなるんだ。そしてそれに必要な時間はもう過ぎた。


ほら、スゴく心地よさそうな顔をしてる。穏やかで和やか、ここにいる人達の雰囲気も悪くなくて美味しい食べ物もある。そんなしょうてんがいにあなたも住もうよ。永遠にね。

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しょうてんがい 九戸政景 @2012712

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