第7話 闇鍋は予告せずにやるものだよ
「というわけで、さっそくゲストを呼びしましたー!現役最強冒険者の岬焔さんでーす!!!」
ヒュー、パチパチパチ!!
乾いた音が和室の中に響く。猿のおもちゃのように手を打ち鳴らす俺とは対照的に、室内の空気は冷め切っていた。
「えー、やっぱり餅は餅屋といいますか……どうやったら強くなるのかはいっそのこと本人に聞いたほうがいいですよねぇ〜。それでは岬焔さん、貴方の思う『強さ』の秘訣とは……?」
「殺すわよ」
「不快です」
せっかくの特別授業は大不評のようだった。しかし、俺は挫けない。なにか深いことを聞いたようにウンウンとしたり顔で頷いておく。
「いくらゲス男の頼みといっても、なんでも私が橘なんてザコのために時間を取らなきゃいけないのよ。そもそも今日は天下布武への永久就職の話じゃなかったのかしら?」
ジロリとこちらを睨みつける焔。うーん、この迫力は最強の名に恥じませんねー。
焔を呼び出すときに馬鹿正直に目的なんていってない。俺のような薄汚いニートにとっては女子高生を釣るなんてお茶の子さいさいなのだ。
まぁ建前として「天下布武の福利厚生について聞かせてくれ」とは言ったが、永久就職なんて言葉は初耳だ。というか、嫁に行ったりする以外ではじめて聞いたぞ。
「不快です」
月陽ちゃんはすっかりバッドコミュニケーションになっている。こらこら、授業はこれからなんだぜ。もっと元気良く行こうよ。元気よく。ほーら笑顔笑顔。
「不快さんは本当に不快ですね」
表情の変わらない月陽ちゃんが珍しく眉間に皺を寄せていた。
だってしょうがないじゃん!?そもそも家庭教師ってなんなのさ!?
いや美沙ちゃんのときは星1ダンジョンの引率とか分かりやすかったけど、俺がトップレベルの冒険者に教えることなんてあるわけないじゃん!?しかも相手は日本の黒幕『橘』だぞ???
「火炎猿さんに教わることなど何もありません。お帰りください、獣の匂いが屋敷につくまえにお帰りください」
「は──?」
「人間の話はお猿さんには少し難しいので──」
軽々と地雷を踏み抜く若者の姿におじさんは涙が出そうだよ。
「序列にも顔を見せてないガキがほざくじゃない?」
「多様性といった言葉も浸透した現代で、名声が全てというのは如何にもお猿さんらしいですね」
「その猿ってのはやめなさい!?ゲス男、この失礼な小娘は何なの!?
どうやら口喧嘩は月陽ちゃんのほうが一枚上手らしい。序列は現在 俺<焔<月陽 となりつつあった。その後もギャーギャーと売り言葉に買い言葉で場の空気が煮詰まっていく。
これだ。
俺が求めていたのはこれなんだ。
勝手になんかかんや事態が進むこと。
それが焔サンを召喚した一番の目的だった……!さて、ここで俺がとるべき最善手は、
「うーん、戦って決めたらいいんじゃないかなぁ。僕は全然わからないけど。戦うのがいいと思うよ、全然わからないけど」
冒険者は所詮は脳筋。結局は拳で決着をつけたがるものだ。
「そうね……確かにゲス男の言う通りね。世間を舐めてる子どもに現実を教えてあげるのも先達の務めですもの」
──通った。
焔は火の粉を巻き上げ臨戦態勢に入っている。
「不快です。貴方みたい人のことを老害っていうんですよ」
──やめてくれ、月陽。その術は俺に効く。
「それじゃあ、ゲス男。貴方は審判を──どうしたの?口元から血が垂れてるけど」
「気にしないでクダサイホムラサン」
「不快さん、どうでもいいですけど畳を汚さないでくださいね」
そんなこんなで橘家の秘蔵っ子と現役最強の戦いがダンジョン杯の前に、切って落とされたわけである。
解説は序盤で気絶して畳で寝ている妹にしてもらおう。何だかんだ配信者だもんな。
妹の配信にも貢献し、取引先の要求にも完璧に応える俺は社会人の鑑だ。
ちょっと俺もダンジョン行ってくる 【11万pv百花繚乱感謝……!!】 たぬき @tanukigatame
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