第6話 別に社会経験もない金持ちの女の子に罵倒されたって全然悔しくないし、そもそもそれは社会じゃ通用しないし

離れの和室で座布団にちょこんと座るのは橘家の一人娘、月陽つきひちゃん。職人の生涯最高のフランス人形みたいな容姿をしている。相変わらず和洋のバランスが狂った家だ。部屋も洋室でいいだろがい(偏見)


ちなみにこんな見た目だけど、日本の黒幕の息がビンビンにかかった超絶地雷物件だぞ♪


「はじめましてぇ……げすなくれいじぃでぇす……」


愛想の良さをかなぐり捨てた挨拶も許してほしい。だってこれ15回目ぐらいなんだものみつを。


「はじめまして、橘月陽と申しま──」


「いけぇえええええ!!ミカエルくううううん!!!」


やれ、やっちまえ!その小娘を「性描写があります」カテゴリに突っ込んでやれ!!


「ミカエルくん、10万ボルト!そして魔力吸収!」


これが私の全力全開★☆


召喚したミカエルくんから紫電が迸る。おどりゃあくそ森ぃ!玉よこせやあああ!


「やれ!やっちまえぇぇ!」


才能に溺れる小娘をわからせるにはこれしか方法はない。


しかし──


「ああっ、ミカエルくん!?」


全身を使って悪魔的小娘にのしかかっていたミカエルくんは突然木っ端微塵に弾け飛んだ。


そんな……部位によって凄く固いミカエルくんが……。


「非常に不快です」


がっくりと膝をつくと感情のこもらない碧眼がこちらを見つめていた。


ミカエルくんの粘液で少女は俺の要望通りにネトネトだ。


うん、いくらシリアルキラー少女といえどもこれはいけません。この作品は決してバカエロではないのだ。


♢♢


「ちゃんと座ってください。不快です」


俺を座布団に座らせ、黙々とタオルでミカエル液を拭く月陽ちゃん。ソワソワしながら待つが、どうやら目下の危険は去ったらしい。


これは、乗り切ったか……?


悪夢のような首チョンパループが終わったかもしれない。というか、正解が初手ミカエルくんってどういうこと?


色々と聞きたいことがあるが、美少女が初めて口にした挨拶以外の「不快です」は思いの外ニートに刺さったので大人しく黙っていた。早く帰って、妹に課金したいお……。


「不快さん」


「はい、不快です」


「真似しないでください。不快です」


どうしろってんだよおおおおお。ちょっとお父さん、あんたの娘さん難しすぎるぜ!?


「はい……すみませぇん……」


「ちゃんと返事してください。不快です」


これは完全に死体蹴り。静かに一筋の涙を流した俺を無視し、少女は白い指先が宙にすべらせる。


「父はきっと大会の家庭教師としてあなたを呼んだのでしょう」


予告なくdoorsの画面が共有される。


そこには『ダンジョンカップ』とでかでかと書かれたチラシが映し出されていた。


「これってあれか、焔が優勝したやつか」


名実ともに岬焔を冒険者No. 1にした大会だ。確か俺も配信で見た。


「火炎猿の名前を出さないでください。不快です」


おじちゃん、もう帰って良いかなぁ。


チラチラドアの方を盗み見ると、気がつけばエメラルドの瞳が目の前まで迫ってきていた。やめてください、死んでしまいます(経験済み)


「あなたは少しは使えそうです。不快ですが、我慢しましょう」


まさか、かつて経験した山⚪︎パンのバイト以上に憂鬱なアルバイトがこの世に存在するとは……。真っ白な空間に延々と流れてくるコッペパン──うっ、頭が。


「何か質問はありますか」


月陽ちゃんはdoorsを消して、部屋を訪れたときのようにちょこんと座布団に座っていた。


俺はゴクリと唾を飲み込み、恐る恐る口を開く……


「チェンジって出来ますか?」




──結局、俺が静かに頷いたのは、3回ほど脱出を試みてからだった。


橘家修羅すぎるよぉ……。




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