第10話平和な町
サクマたちとの戦いから二ヶ月、夏休み真っ只中な町は猛暑ながらも平和な日々を続けていた。
「おはよう母さん。」
「おはよう、俊介。早く朝ごはん食べなさい。」
今日の朝ごはんは、白いご飯とみそ汁と納豆だ。食べている間、テレビのニュースからはお天気情報が流れてくる。
「今日も暑いわね…。俊介、今日確か夏期講習だったわね。」
「うん。」
「母さん、今日仕事で帰りがおそくなるから、夜ご飯代渡しておくね。」
ぼくは塾の夏期講習に参加している、野田くんは参加しないけど八島くんは参加しているから、夏期講習がイヤだという気持ちはない。
朝ご飯を食べてから数分後、父さんと母さんが仕事に行き、家の中はぼく一人になった。
夏期講習に行くまでは時間があるので、ゲームでもしながら過ごそうとした時だった。
「安藤くん、いる?」
突然声が聞こえた、声のする方を見るとコハルと章男がいた。
「うわぁ、コハルか!急に現れないでよ!」
「ごめんね、それにしても会うの久しぶりね。」
「兄さん、あれから元気にしている?」
「うん、とても元気だよ。ところで二人とも、ぼくに何の用事?」
「きみにいい知らせを持ってきたんだ、それも二つ。」
二つのいい知らせとは一体なんだろう…?
「まず一つ目は?」
「もうこの町では怪現象は起きないということだ、あの日からサクマたちは暗黒製作所の立て直しでいそがしく、ここへ悪さをしに行く余裕はないみたいなんだ。だからもう怪現象に悩まなくてもいいぞ。」
「ホント!やったー、よかった……」
すでに町からほとんどの怪現象は収まっていたけど、また近いうちに発生するかもしれないという不安があった。だから確証を得られてよかった…。
「それで、もう一つのいい知らせは?」
「あの方がきみをリボーン·チルドレンのサポーターに任命したいということだ。」
「え、ぼくがきみたちのサポーターに?」
「そぅ、これからはぼくたちと一緒にあの方に仕えるんだ。」
「だけど…、あの……えっと…」
「どうしたの?安藤くん?」
言いよどむぼくにコハルが声をかけた。
「ぼくが、あの方に仕えるってどういうこと?」
「あの方は、あなたに力を与え、それがとても有意義であったと確信したんだ。だから、安藤くんをあたしたちの一員として迎え入れてあげるといっているの。」
「兄さん、悪くない話だろ?」
「……ごめん、その話は受けられない。」
「そんな、一体どうしてよ!!」
コハルがぼくに詰め寄った。
「そうだよ!あの方に助けてもらったんだから、その恩を返さないと!!」
章男もぼくに詰め寄った。
「確かに、二人の言う通りだよ。だけど、ぼくはきみたちみたいに、戦い続ける気持ちがないんだ。今みたいに平和が一番好きなんだ。」
「そうそう、安藤くんの言うとおりだ。無理強いはダメだぞ」
「アマリオさん!」
そこへアマリオもやってきた。
「安藤くんが私たちと一緒に戦えたのは、町を守りたいという気持ちがあったからだ。無理に戦いへ巻きこむのはかわいそうだ。」
「そうだね…、無理を言ってごめんなさい。」
コハルと章男はぼくに頭を下げた。
「いや、いいんだ。ぼくのほうこそごめんね。」
するとアマリオがぼくに顔を近づけ、優しく言った。
「でも、きみにはいつかまたその力を使うべき時がやってくる。その時は、もう一度私たちに力を貸してくれないか?」
「うん、いいよ。またコハルたちの力になりたいから。」
ぼくはコハルと手を握って約束を誓った。そしてコハル·章男·アマリオは、ぼくの部屋から去っていった。
安藤の家を後にしたコハル·章男·アマリオの三人は、あの方と対面していた。
「そうか、安藤くんは未だ仲間にならないか…」
あの方は口惜しそうにつぶやきながら、なにかを考えていた。
「やっぱり、もう一度安藤くんを説得した方がいいのでは?」
「いや、今大事なのは彼のことではなく、暗黒製作所のことだ。今はまだ動いていないが、いづれまた動き出しで別の町を襲うかもしれない。その時のために、備えを考えているところだ。」
「そうですね、必ず奴らは動き出します。」
「そのためには、やはり安藤の才覚たるものに頼ってみるのもいいかもしれん。コハルと章男、きみたち二人には安藤くんにつくように。」
「あたしですか…?」
「ぼくですか?」
コハルと章男はキョトンとした顔になった。
「そうだ、二人には安藤くんと共にまた暗黒製作所が動き出した時に備えて、安藤くんを育ててほしいんだ。今はまだ仲間になれとかは言うな、あくまで彼の日常と両立する感じで気長に育てるんだ。」
「ぼくとコハルで兄さんを育てるのか……、なんか変な役を任された気分だ。」
章男は苦笑いした。
「だけど、安藤くんのあの力を使うことができれば、あたしたちにとって大きな戦力になるわ。」
「よし、ぼくやるよ。」
「あたしも、ぜひやらせてください!!」
コハルと章男はやる気満々だ。
「よしっ、それでは二人に任せるとしよう。どうかよろしく。二人とも、下がっていいぞ」
「では、失礼します」
コハルと章男は部屋を出た。あの方はアマリオに言った。
「これからのことはどうなるかわからないけど、引き続きよろしくお願いします。」
「かしこまらなくてもいいです、あなた様のためなら命を懸けることを誓いましたので…。」
そしてアマリオは「失礼します」とおじぎをして部屋を出た。
そして数日後、夏休み終了までのこり三日の日に、ようやく政府から『怪奇現象注意警報、完全終了』のお知らせが報じられた。
このお知らせで、町のみんなはようやく安心して町を歩けると心から安心した。
のどがかわいたので、近所の自動販売機へ飲み物を買いに行った時、コハル·章男と出会った。
「久しぶりね、安藤くん。」
「コハルちゃんに章男、今日はどうしたの?」
「今日は安藤くんに、お別れのあいさつをしに来たの。」
「お別れって、どういうこと?」
「あの『
なんと、あのサクマたちがまた動き出したんだ。
「それで、コハルたちはどうするの?」
「ん?またその場所に行って、あいつらをやっつけるだけさ。」
「そうなんだ、章男も行くんだね…。」
「あぁ、しばらくお別れになるね…」
章男は少しさみしそうな顔になった。
「また、会えるかな…?」
「うん、またいつか会えるよ。」
ぼくと章男は握手をした、章男はもうぼくと同じ人ではないけど、今でも変わらずぼくの弟だ。
「安藤くん…、あなたに会えて本当によかったわ。それじゃあまたね……!」
そしてコハルと章男は、ぼくの部屋から去っていった。
それから数ヶ月が過ぎて、十二月になった。
もうあの時の怪現象のことなどみんなの頭からはすっかりなくなり、クラスでは冬休みやクリスマスなどのイベントで盛り上がっている。
「なぁ、安藤。今年の冬休みにさ、一度みんなで買い物しねぇか?」
「なんだよ野田、急にそんなこと言ってさ。おれたちもう中2だぜ?家で勉強してなくていいのか?」
「なんだよつれないな…、勉強ばかりしてないで一回くらい息抜きしようぜ?」
「野田くんこそ、勉強したら?将来は公務員になるんだろ?ちゃんと勉強しないと、公務員試験落ちるぜ。」
「なんだよ!お前、おれの親になったつもりか?」
野田くんと八島くんが、いつものように話している。それを机にすわってみているぼく……、いつもの光景だ。
そして田代先生が教室に入り、朝の会が始まった。
「みんなおはよう、もう十二月になり受験シーズン真っ只中という方もいるだろう。今年も残りわずかだからこそ、冬休みまで仲良く、怪我なく、病気なく過ごしていきましょう。」
みんなが「はーい!」と返事をした後、田代先生がこんな話をした。
「実は一昨日に、少し不思議なものを見たんだ。夜の二十二時ごろだったか、知り合いと飲みに行って自宅へ帰る途中で女の子を見つけたんだ。小学生の女の子だったかな…。夜も遅いし気になって声をかけたんだ。そうしたら『となり町まで連れてって』とお願いしたんだ。」
「それで、先生は連れてってあげたの?」
「あぁ、もう遅い時間だし先生と同じアパートの近くに家があるというから、乗せてってあげたんだ。それでアパートについて車を停めたら、なんとその女の子が消えていたんだよ。」
「えーっ、先生ホントですか?」
「あぁ、ホントだとも。後ろのドアが開いたまま、すーっと消えていたんだよ…」
その日の放課後は、朝の会で先生が話した体験談についてたくさん話し合ったが、結局は『幽霊を乗せてしまった』という結論になった。
その日の帰り道、もう夜の手前まで暗くなった時だった。目の前に女の子のシルエットが見えた。
ぼくはおどろいて『あっ』と言うと、女の子はぼくに言った。
「久しぶりだね、安藤くん」
その声は紛れもなくコハルだった。
リボーン·チルドレンズ『ミステリアスな住宅街』 読天文之 @AMAGATA
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