第9話怪現象の終わり
暗黒製作所から突然現れた安藤、しかも安藤は光り輝き、まるでロボットの体のような強いボディを手に入れていた。
「安藤くん……」
「お前、一体どうやって脱出したというのだ!完全に封じ込めたはずなのに……!」
サクマが問いかけると、安藤は答えた。
「捕らえられた時にあの声が聞こえたんだ、そなたの力は想像力しだいで何倍にもなるって…。だから脱出したいと強く想像したら、ものすごい力を手に入れたんだ。」
「もしかして、あの方が力を貸してくれたの?」
「おのれ……、こうなったらただでは返さんぞ!ヨシエ·タイキ!!手を貸してくれ!!」
「了解しました。」
「アララギの敵討ちだ、覚悟しろ!!」
サクマたちは安藤をにらみつけた、しかしコハルとアマリオたちもすぐににらみかえす。
「こっちだって負けないよ!!」
「仕方ありませんね…、本気で行きましょう。」
「あぁ、戦いの始まりだぜ!」
こうして安藤とコハルたちVSサクマたちによる、熾烈な戦いが始まった…。
戦いの少し前、サクマに捕らえられたぼくは暗黒製作所の一階にある倉庫にとじこめられていた。
「くそっ、一体どうしたらいいんだ……」
ぼくがアララギにだまされたせいで、こんなことになるなんて……。しかも例の不思議な力も今は使えず、しばられたまま動けない。
このままずっと閉じこめられたままなのか……、そう思っていた時、とつぜん目の前の箱がガタッと動いた。
「えっ、何…!!」
そして次の瞬間、箱はけむりにつつまれて、そこから現れたのは着物を着た仮面の男だ。腰には短い刀を差している。
「安藤殿ですね?吾輩はセキテイと申しまする。」
「セキテイさん…、もしかしてぼくを助けに来てくれたの?」
「はい、いま解放いたします…。」
そしてセキテイは短刀でぼくをしばっていた縄を切ってくれた。
「ありがとう、セキテイさん。」
「安藤殿とコハルたちを助けるため、アマリオ·エスターディンも来ています。それとこれをわたすようにと、あの方に申しつけられました。」
セキテイが出したのは、丸い赤色の球体だ。
「これは……」
「これは精神を一時的に強化するものです、使えばあなたが持つあの方から授かった力を増幅させることができます。しかし、その分多少ですが反動で動けなくなる副作用もありますが…、使用なさいますか?」
セキテイは真剣な表情でぼくに問いかける…。あの方というのは、おそらくぼくに力をさずけてくれたナゾの人のことだ。姿は見たことないけど、コハルたちを取りまとめる親分のような存在だ。ぼくの答えは……、決まっていた。
「セキテイ、ぼくはこの力を使うよ。そしてコハルたちを助けに行く!」
「うむ、その意気やよし。 では行くぞ!」
セキテイはぼくのおでこに赤い玉を当てた、するとぼくの中からとてつもないほどに力があふれでてきて、ぼくをしばっていたロープを力ずくで切ってしまった。
「やったー、脱出できたーーっ!!」
「うむ、よくやった。共に参るぞ!!」
そしてぼくとセキテイは、その場からすぐに離れた。
セキテイと共に暗黒製作所を脱出したぼくは、コハルたちと合流して、サクマたちと戦っていた。
しかし数の多さが圧倒的でぼくたちは少しずつ押されていた。
「貴様ら、手こずらせてくれるな……。」
「くそっ、次から次へと出てくる…」
「どうする、アマリオ?」
「長びかせると私たちが不利だ、こうなったら仕方ない。逃げよう!」
アマリオはそう言うと、魔法陣を創り出した。
「私がみんなを脱出させる準備をする、それまで時間を稼いでくれ!!」
「わかったわ!!」
「逃げるつもりだな、そうはさせん!!」
サクマがアマリオにむかっておそいかかった、ぼくはサクマの攻撃をその身で防ぐ。
「サクマ……勝負だ!!」
「安藤…、負けんぞ!!」
ぼくとサクマによる、激しい戦いの火ぶたが切られた。互いにこぶしを交え、力をぶつけていく。サクマが闇を放つと、すかさず安藤が光線を放つ。
アマリオが魔法陣を完成させるまでなんとか戦おうとしていた安藤だったが、ここにきて急激な疲労がぼくの体に来た。
「なかなかやるみたいだな…、だが体力がなってないようだ。お前の力はおそらくアイツから授かった力だろう、しかしまだ体が力を使う状態ではない。だとするなら、この勝負は私の勝ちだ…」
勝ち誇った顔で言うサクマ…、ぼくはその顔に怒りが込み上がってきた。
「絶対に倒す……!」
「ほぅ、やってみろ」
ぼくはありったけの力をこめてサクマへ突進した、するとサクマの目の前に巨大な闇の穴が現れた。
「なっ、なんだこれ!?」
「ふふふっ、吸い込まれるがいい。」
そしてぼくの体は、あっという間に闇の穴の中へと吸い込まれていった。
「安藤くん!!」
「なに、心配はいらない。」
そして吸い込まれたぼくは、真っ暗な世界をものすごいスピードで流れていき、そして元の場所へと叩き出されてしまった。
「グハッ……!!」
「フフフ…、さぁもう一度真っ暗な世界へ誘ってやろう…。」
サクマが手を出して構えた、再び闇の穴が開いてものすごい力で吸い込まれていく…。
「安藤、あぶない!!」
なんとコハルがとっさにぼくに体当りして吸引から脱出させた、そしてコハルがぼくの身代わりになって黒い穴の中へと吸い込まれていった。
「コハルーっ!!」
「安藤くん、よかった……」
ぼくは穴に向かって手を伸ばしたが、穴は閉じてしまった。
「自ら身代わりになるとは……、人ではないのにおろかなことを…」
「…っ!どういうことだサクマ!!」
「一つ言い忘れていたことがある、あの闇の穴は
冷たい視線で言うサクマ、ぼくはショックでひざからくずれおちた……。今までいっしょにいて、町の怪現象を止めるために手を尽くしていたコハルちゃん…、もう二度と会えなくなってしまったんだ…。
「コハルちゃん…コハルちゃんが……」
「ほぅ、コハルを失ったことがそんなに悲しいのか…。それなら望み通り、お前をコハルと同じ場所へ連れてってやろう…。」
サクマはまた暗黒の穴を生み出した。
「おいっ!安藤!!吸い込まれるぞ!!」
ぼくが気づいた時には、すでに暗黒の穴の直前まで体が近づいていた。もう、ダメだ……。
「うりゃーーっ!!」
突然、穴の中から声が聞こえた。それは紛れもない、コハルの声だった。そしてコハルは中から暗黒の穴を真っ二つに切り裂くと、中から飛び出してきた。
「コハルっ!!」
「なっ、そんなバカな……!!あの穴から脱出するなんて、できるはずがない……!!」
コハルの登場におどろくサクマ、そしてアマリオが言った。
「お前たち、魔法陣が完成した!早く魔法陣の中へ入るんだ!!」
ぼくとコハルは急いで、魔法陣の中へ入った。そして魔法陣が光り、ぼくたちが包まれたとたん、ぼくたちの姿が消えた……。
一方、安藤を取り逃がしてしまったサクマはイライラで地団駄をふんでいた。
「なぜだ…、なぜなんだ!!なぜ、こうも不可解なことが起こるんだ!!?安藤の脱出ならまだ理解できるが、一体コハルはなぜあの闇の中で無事だったんだ?」
「サクマ様、落ち着いてください!」
タイキがサクマをなだめている、するとサクマの頭の中で何かがひらめいた…。
「……なるほど、そういうことか。」
落ち着きを取り戻したサクマは、タイキに言った。
「取り乱して悪かった、どうやら全てはアイツの目論見通りのようだ…。」
「えっ、そうなのですか?」
「あぁ、全くとんだ損害だよ……。」
サクマは半分壊れた暗黒製作所を見て、大きなため息をついた。
「そうですね、アララギも死んでしまいましたし、これからどうすれば……」
「…タイキ、お前でよければ『部長』になってみないか?」
「えっ、おれが!!?」
暗黒製作所には役職が決まっていて、トップの『社長』のサクマを始め、二番目の『部長』『実行委員長』『社長補佐秘書』、三番目の『係長』『課長』『経理』、そして下っ端のその他大勢が『社員』である。
「きみの能力は前から評価していた、機会があればぜひ昇進させてあげたいと思っていたんだよ。」
「ありがとうございます、サクマ様!アララギ様の分まで活躍してみせます。」
「頼もしいな、がんばれよ。」
そしてサクマは、暗黒製作所の立て直しにとりかかった。
そしてこちらは現実世界、アマリオの魔法陣から安藤とコハルたちが現れた。
「ふぅ、やったね…。」
「はぁ、はぁ、久しぶりに魔力を限界まで使ったよ……。」
アマリオはすっかり息切れしている。
「そういえばコハル、あなたどうして無事だったの?」
アヤコがコハルにたずねた。
「あたしにもよくわからないんだけど……、あの時体が少しずつ消えていって、もうダメだと思っていたんだ。だけどその時、別の空間からあの方が現れて自分の生命力を、あたしに分け与えてくれたの…。しかもあの穴を壊して、あたしを外へだしてくれたんだ。」
「ねぇ、そのあの方ってそもそも何者なの?」
ぼくはコハルに聞いてみた、だけどコハルは首を横に振った。
「ごめんなさい、本当にあたしもよくわからないんだ。あたしたちリボーン·チルドレンが知っているのは、あたしたちはあの方によってこの世に復活したこと、そしてこの体は数日経てば消えてしまうこと、そしてあたしたちはあの方に尽くすことしかできないということ。」
「あの方に尽くすことしかできないって、どういうこと?」
「前にも言ったけど、リボーン·チルドレンは死ぬ前の全ての関係を失っているから、親·友だちを頼ることはできない。しかも体は成長しないしいづれ消えてしまう…。だからあたしたちにとってあの方は、親代りであり生きる意味なの…。」
「そっか…、あの方はとても大切な存在なんだね……。」
ぼくが言うと、コハルはうなづいた。
「ありがとう、アマリオ。君のおかげで助かったよ。」
「礼にはおよばないよ、ただきみはまちがいなくサクマたちに目をつけられている。そしてきみを消そうと動き出している、これからもきみを狙い、手を変え品を変え作戦を展開していくことだろう。気をつけて行動するように。」
「そうだぞ!アララギのインチキに引っかかっていちゃあ、不用心だな。」
アマリオとエスターディンに注意され、安藤は反省した。
「さて、これからどうしよっか?」
「私はこの一件をあの方に報告する、きみたちはしばらくゆっくりと休んでいるがいい。」
「はい、わかりました。」
こうしてアマリオとエスターディンとセキテイは、去っていった。
ここはどこかにある屋敷の部屋、アマリオとエスターディンとセキテイはその部屋であの方と話していた。
「安藤たちの救出、ご苦労だった。」
「はっ、ところで一つお伺いしますが…、コハルの件はあなた様が関わっていらっしゃるのですか?」
アマリオが尋ねると、あの方はうなづき答えた。
「そうだ、私がコハルに生命力を与え脱出させたのだ。まぁ、そうとはいっても消えるまでの期限が先延ばしになっただけだがな…。」
「なぜ、そのようなことを?」
「私はあの安藤という少年に期待している、かれには力に対して適性があることが判明した。だから力を正しく使いこなせるようになるまで、コハルにはそばにいさせることにしたんだ。」
「ふーん、あいつにそんな才能があったなんてな…。」
「ところで話は変わるが、暗黒製作所はどうしてる?」
「はっ、私と安藤くんで施設の大部分を破壊しましたので、おそらく復旧作業にとりかかっていることでしょう…。」
「そうか、それじゃあしばらくの間は町に繰り出すということはなさそうだな。しかし油断大敵だ、引き続き町の様子を監視するように。下がっていいよ」
アマリオ·エスターディン·セキテイの三人は去っていった。そしてあの方は窓の景色を見ながらつぶやいた。
「さて、これからどうなるのかな……」
「安藤、おはよう」
「おはよう、野田くん」
いつもの登校、いつもの友だち、いつもの朝…。
そう、羽矢田町はいつもの日常を取り戻したのだ。
あの戦いを最後に、町の怪現象は完全になくなった。未だ政府の調査は続いているけど、ここ最近は怪現象がなく住民たちはホッとしている。
「なんか、落ち着いてきたね…。怪現象もなくなって、みんなホッとしているし。」
「そうだね、このままみんな落ち着いて暮らせたらいいね。」
「そういえば、アララギ·サイコがいなくなってしまったみたいなんだよ。ネットでは『インチキがバレて逃げた』って言われているけど、本当のところはどうなんだ?」
「ぼくもよくわからないな…」
アララギ·サイコが開いていた『超能力塾』も、いつの間にか空き家になっていた。アララギ·サイコがアマリオたちに倒されたことは、野田くんには言わないことにした。
だって、もう超能力にはすっかり懲りたからね…。
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