第8話暗黒製作所

アララギ·サイコに捕まってしまったぼくは、闇の中をアララギ·サイコといっしょに進んでいた。

「ねぇ、ぼくはどうなるの……?」

「それはおれにもわからん。とにかくお前らにはさんざん世話になったからな、おれたちのために役立ってもらうつもりだ。」

そしてたどりついたのは、五階建ての建物。まるで小さな会社のようだ。

「ここがおれたちやみ創造そうぞうの会社、その名も暗黒製作所あんこくせいさくじょだ。ここでおれたちは創造しているんだ。」

それからアララギ·サイコは、ぼくに暗黒製作所の中を案内しながら進んでいく。まるで工場見学に来たようだ。そしてアララギ·サイコはぼくに言った。

「これからおれたちの編集長へ会いに行く、この暗黒製作所の一番偉い人間だ。失礼のないようにたのむぜ。」

そしてぼくとアララギ·サイコは、エレベーターに乗って五階へ上がった。エレベーターを降りて右にまがってすぐのところに、大きな木の扉があった。アララギ·サイコは、木の扉をノックしながら言った。

「編集長、アララギです。安藤を連れてきました。」

「入りたまえ」

アララギ·サイコが扉を開け入ると、そこには紙の山が乗っているデスクと、三人の人たち。そして一番奥のデスクには、いかにも社長が座りそうな立派ないすに、スーツを着た髪の長い若い男が座っていた。男はネクタイを整えると、ぼくとアララギ·サイコのところへやってきた。

「君が安藤くんだね、私はサクマだ。今回君を連れてきたのは、君を我々のところで監禁かんきんするためだ。」

静かな視線で告げるサクマ、その顔からは威圧感を感じ、その場から離れたい気持ちになった…。だけどぼくは恐怖をころして、サクマに質問した。

「ねぇ、どうして町に怪現象を起こし続けるの?怪現象のせいで、みんな町に住みにくくなっているんだよ。こんなこと、もう止めてよ!」

「怪現象を起こし続けるか……、それは私のせいではなく能力者のせいだ。私はただ、そういった能力者たちを指揮する立場にいるだけで、能力で君の言う怪現象を起こすか起こさないかは、能力者しだいなのだ。」

「だったら、ヒスイやアララギ·サイコに『能力を使うな』って命令してよ!!」

「あっ、お前なんていうこと言うんだ!」

アララギ·サイコがぼくを突き飛ばした。倒れるぼくに、サクマは言った。

「それは私にはできない…、私は闇の能力者の総元締めとして、彼らを導かねばならないのだ。しかしが邪魔してくるせいで、最近は上手くいかないのである…。特に君だ!!君の力は我々にとって、大損害になりうるからな。ということで君は我々の元で監禁することにした。アララギくん、彼を収容所へ連れていきたまえ。」

「了解しました、さぁこっちだ!」

サクマの命令でアララギ·サイコは、無理矢理にぼくを連れて行ってしまった…。




一方、ここはアララギ·サイコがいた塾の部屋。彼の力から解放されたコハルは、一人くやしそうにしていた。

「わたしがついていたのに…、安藤くんを最悪な目に合わせてしまった……」

しかし落ちこんでいてはいられない、なんとしてでも安藤を救出しなければならない。

「だけど、安藤くんの救出はあたしだけではできない……。はいそがしいみたいだから、頼ることはむずかしい……。なら、少しでも多く仲間を集めて…!!」

コハルはやるべきことを理解すると、動き出して部屋から抜け出した。そして町にいる仲間たちを集めた。

「コハル、あたしたちに話って何よ?」

アヤコがコハルに話を切り出した。

「おれたちもいそがしいんだ、なるべく早く用件を言ってくれ。」

リボーン·チルドレンの番場陽司ばんばようじが、あくびをしながら言った。死んだ年は十六歳で、アヤコと同い年である。

「実はね、安藤くんが連れ去られてしまったの。」

「ええっ!?兄さんが!!?」

章男が目を大きく見開いておどろいた。

「安藤って、たしかお前のアニキだったな。なんで連れ去られたんだ?」

「超能力塾のアララギ·サイコに連れ去られたの、アイツは怪しいとわかっていたのに…」

「アララギ·サイコって何者なの?」

「アララギ·サイコは他人に超能力を与えることのできる能力者なの、しかもかなり強い能力者らしいわ。」

「最近は『超能力塾』を開いてお金をもうけているらしいわ。」

「兄さん、だまされたのか…。全くなさけない…」

章男はあきれている。

「それで、みんなを集めたのは他でもないの。あたしたちで、安藤くんを助け出したいの!お願い、力を貸して!!」

コハルは深く頭を下げてお願いした。

「いいよ、兄さんを助けに行こう!」

「そうだな、安藤の力はこの怪現象事件解決に必要だからな。」

「あたしもいくわ!」

章男·陽司·アヤコの三人は協力してくれることになった。

「ありがとう!」

「だけど、おれたちだけじゃ心もとないぜ…。アマリオも呼んだほうがいいよ。」

「それが、あたしから声をかけたんだけど用事が入っていて、すぐには来られないみたいなんだ。だから、あたしたちだけで安藤くんを助けに行きましょう。」

三人は少し不安そうな顔をしながらも、たがいにうなずいて覚悟を決めた。




その日の夜、コハル·章男·アヤコ·陽司の四人は町中を歩き回っていた。目的はやみ創造そうぞうの能力者に、アジトの居場所を聞くこと。だけど当然簡単には教えてくれないので、力ずくで聞き出すことになった。

「なぁ、もう少しかっこいい方法ないのか。こんな強盗みたいなのじゃなくてさ……」

「そんなのないよ、アジトの場所はやみ創造そうぞうの能力者しか行けない空間にあるのだから…」

「シッ、だれか来た。」

章男の合図でみなが息をひそめると、だれかが歩いてくるのが見えた。そして近づいてくると、それが見覚えのある顔だということに気づいた。

「あっ、あいつはヒスイだ!」

「ほんとだ、あいつから聞き出そうぜ。」

四人はヒスイの前に飛び出した。ヒスイは最初おどろいたが、コハルの顔を見てすぐに思い出した。

「あっ、お前はコハル!!」

「ヒスイ、今日はあなたに聞きたいことがあるの。大人しく捕まってくれる?」

「何を寝ぼけたことを…、簡単につかまると思ったら大まちがいよ!!」

「よーし、行くぞ!!」

そして激しい戦い……とはならず、ヒスイがあっけなくコハルたちに捕まってしまった…。

「離せ、お前らっ!!」

ヒスイはアヤコと陽司に取り押さえられわめいている、コハルはヒスイに言った。

「あたしたちは安藤をさがしているの、安藤を連れ去ったアララギ·サイコはどこか教えなさい。」

「はん、教えるわけないでしょ?あたしたちのアジトは、絶対に秘密なんだから。」

「教えるつもりは無いみたい…、どうするコハル?」

「そうね……、それなら!」

コハルは大鎌を振り上げて、ヒスイの頭すれすれを切った。ヒスイの頭から切れた髪の毛が落ちていく…。

「ヒッ!!何するの!!」

「もし、何も言わないのなら次は首を切るよ…」

大鎌を持つコハルの迫力に恐れたヒスイは、コハルたちを案内すると約束した。




ドラゴンに乗ってコハル·章男·陽司·アヤコがやってきたのは、暗黒製作所あんこくせいさくじょというやみ創造そうぞうたちの会社だった。

「なんか、アジトというよりビルね…。」

「ここはあたしたちやみ創造そうぞう総本山そうほんざんよ。」

すると突然、暗黒製作所の屋上から大きなネコが飛びかかってきた。大きなネコはものすごいジャンプで、ヒスイをくわえるとすぐに着陸した。

「きゃあ!!」

「ヒスイ、大丈夫!?」

「アオイ……、助かったわ。ほんとにありがとう」

「くっ、すでに見つかってしまったわね…」

コハルたちはドラゴンを着陸させると、地面に降り立った。するとそこへ、アララギ·サイコがやってきた。

「おや、何者かが接近してくるというので見に来たら、お前だったのか…」

「アララギ……、安藤くんを返して!!」

「それはできない、それよりもまずやらなくてはいけないことがある…。」

そしてアララギ·サイコは、ヒスイとアオイのところへ向かうと、自らの念力でヒスイの首を絞めた。

「ぐぁーーっ、アララギ様……、なぜ……?」

「お前はこいつらに暗黒製作所の場所を教えた、これは立派な裏切りだぞ…。よってヒスイに罰をあたえる…。」

「アオイ…、タスケテ……」

しかしアオイは何もせず、ただ苦しむヒスイから目を背けた。そしてヒスイは最後に「ガハッ…」とだけ言って、完全に動かなくなってしまった。

「えっ、今何をしたの…?」

「何をしたって、ただバツを与えただけだよ。だってお前らをここまで連れてきたんだから。さて、次はお前たちの番だ…」

「くっ、やるしかないわね…。みんな、全力で行くよ!!」

コハルたちとアララギ·サイコは互いに攻撃の構えをとった。そして激しい戦いが始まった。

「四対一…、なるほどね…。」

「このっ!!」

コハルが大鎌を振り上げてアララギ·サイコをきりつけるが、彼の超能力でコハルはカマをふりあげたまま動けない…。

「なんだ、お前ら。四人もいるのに、案外弱いんだな。」

挑発するアララギ·サイコ、しかしコハルはどこか余裕のある表情だ。するとアララギ·サイコの上空にドラゴンが飛んできて、上から火炎を吐いた。

「うわっ、あぶなっ!!」

アララギ·サイコはとっさに念力で火炎を自分からそらせた、しかしそのために念力をつかったことで、コハルたちは体の自由がもどった。

「いっけえ!!」

「うわっ、しまった!!」

コハルたち四人の力を合わせた連携攻撃に、アララギ·サイコはひざをついた。

「お前ら、やってくれるな…。いいぜ、こうなったら本気を見せてやる!!」

アララギ·サイコは両手を合わせて瞑想した、するとアララギ·サイコの超能力が辺りに広がり、コハルたちはすごく苦しくなった。

「どうだ?おれの暗黒領域は?やみ創造そうぞうの能力者じゃない者がこの領域に入ると、ものすごく気持ち悪くなるのだ…。そして動けなくなったところで、一撃で決めてやるのがおれのやり方なのだ!!」

「くっ、おのれ……」

激しい気持ち悪さで身動きがとれないコハルたち、そこへアララギ·サイコは強烈な一撃を与えるため、一気に念力を高める。

「もう、ダメなの……?」

あまりの念力の強さにドラゴンも地面に降りたまま動けない、この攻撃を防ぐ方法はコハルたちにはない…。

このままやられるとコハルがそう思ったとき、突然アララギ·サイコの念力が辺りから消えた…。

「なっ、一体これは……!!?」

「全く……、だから私が来るまでムチャをしてはダメだと言ったのに…。」

ため息まじりに現れたのは、魔術師のアマリオと大きな剣を背中につけた剣士だ。

「コハルちゃん、暗黒製作所に飛び込むなんて相当無茶したな。お前らしくもない」

「エスターディンも来てくれたんだ!」

「くっ、新手か……。だが、このおれの敵では無い!」

アララギ·サイコがアマリオとエスターディンに襲いかかってきた。

「さて、行くか…」

「あぁ、そうだな…」

向かってきたアララギ·サイコを、まずアマリオが氷の魔法で動きを止めた。そしてエスターディンがものすごい速さの斬撃で、氷ごとアララギ·サイコを一刀両断にした。

「グハッ……バ……バカな…」

そしてアララギ·サイコは、灰になって消えてしまった。

「すごい、アララギ·サイコを倒した……!」

「やったーー!!さすがアマリオさん!!」

「おいおい、おれのこともほめてくれよ!」

アララギ·サイコを倒しよろこぶコハルたち、そしてアオイは恐怖でふるえている…。

「そんな、アララギ様が負けるなんて…」

「さて、のこりはお前だな…」

エスターディンがアオイに剣を向けた、アオイはヒッと顔をゆがめ少しずつ後ずさる。その時だった…!

『アマリオ、エスターディン……我が領域に何の用だ?』

「この声は…!」

「現れたな……」

扉を開けて出てきたのは、スーツ姿の女性と短い髪の少年。そしてその間にはサクマの姿があった。

「アオイッ!アララギはどうなったんだ!?」

少年がアオイに詰め寄った。

「やられてしまいました……」

「……おのれ、アララギのかたきだぁーー!」

「待て」

少年はアマリオとエスターディンに向かっていったが、サクマがそれを止めた。

「サクマ様、どうして止めるの!?」

「アララギがやられたんだ、タイキが敵う相手ではない。」

タイキと呼ばれた少年は、悔しい顔で後ろへ下がった。改めてサクマがコハルたちに言った。

「お前たちの目的はわかっている、だが安藤くんを帰すわけにはいかない。彼は我々の脅威なのだ!」

「のぞむところよ!絶対に取り戻してみせる!!」

コハルがサクマに向かって宣告した時、暗黒製作所から大きな爆発が起こった。

「えっ!?」

「一体、これはどうしたというのだ…?」

そして暗黒製作所から飛び出してきたのは、なんと安藤くんだった…。
















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