第7話闇を教える塾

翌日、学校での朝の会でのこと。クラスの女子·岡本花おかもとはなが教壇の前に立った。となりにいる田代先生たしろせんせいがみんなに言った。

「急な話だが、岡本さんが三日後に家庭の事情で引っ越すことが決まった。」

クラスがざわついた、岡本さんはクラスで可愛いとひそかに人気のある女子で、女友だちも大勢いる。岡本さんの友だちである何人かの女子は、なみだを流していた。

「えー、他にもC組の矢野風美やのかざみさん、A組の加藤敦樹かとうあつきさんが同じく三日後に引っ越すことが決まった。名残惜しいが、どうか最後まで仲良くすごしてくれ。」

その日の放課後、ぼくは野田くんと八島くんと話した。

「岡本さん、急に引っ越しなんてさみしいだろうな…。」

「おれ、引っ越しの理由を岡本さんに聞いてみたんだけど、岡本さんの親が『こんな気味の悪い町に住んでいられない』って、親戚の住んでいる地域に引っ越しすると言ったようなんだ。」

確かに住んでいる町で立て続けに怪現象が起きれば、住みたくなくなるというのも無理のない話だ。

「近所の尾形さんって人も引っ越すみたいだぜ、昨日家にあいさつしにきた。」

「あぁ、僕の家にも来たよ。」

「おれの家にも来た。」

「ほんとにこの町どうなってしまうんだ?」

もしかしたら、この町からだれもいなくなってしまうんじゃないか…?ぼくは胸に大きな不安を感じた。

「それよりもさ、最近話題の動画知ってるか?」

「話題の動画…?」

「あぁ、その名も『超能力塾ちょうのうりょくじゅく』だ!!」

自慢するかのように言う野田くんに対し、ぼくと八田くんは半開きな目でぼう然としていた。

「あれ?もしかして信じてない?」

「当たり前だろ、いかにもうさんくさい感じしかしないじゃないか。」

「ぼくも信じられないよ、ホントの話なの?」

「ホントだとも、おれだって最初は信じられないとかうさんくさいとか思っていた。だけど見ていくうちに、これは本物だって確信を持ったんだよ!!」

「いや、おれはまだ信じられない。そういうのは何かトリックがあるんだよ。野田くんはトリックにひかかっているだけさ。」

「じゃあ、その動画見てみろよ!絶体、本物の超能力だって確信するぜ!」

ムキになっている野田くんに、ぼくと八田くんは顔を見合わせた。

「わかった、それでその動画はどうやったら見れるの?」

「YouTubeの『超能力塾』というチャンネルで見れるぜ、これを見たらお前たちも見える世界が変わるぞ!」

その日、学校から帰宅したぼくはスマートフォンのYouTubeで「超能力塾」と検索けんさくをかけてみた。するとすでに十本以上の動画がアップされていた。

とりあえず一番初めの動画を見てみた。

『超能力者になりたい子ーーっ!ということで、始まりました超能力塾!私はアララギ·サイコです!』

画面に写っているのは、白衣を着たオールバックの男の人。ぼくの父さんより少し若いかんじかな…?

とにかく明るい口調で話を始め、とめどなく進めていく。

『みなさんは、超能力なんてウソくせぇとかバカバカしいとか、思ってない?だけど超能力は確かにある、これはホント!今から、このアララギ·サイコが超能力があることを証明するよ〜。』

まずアララギ·サイコが持ってきたのは、一個のリンゴとガラスのコップだ。

『このリンゴを超能力でジュースにしまーす!』

そしてリンゴに向かって手を伸ばしたまま、動かなくなった…。ただリンゴに向けて意味のわからないポーズをしているだけだ。そう思っていた時だった…。

「え、今浮んだ……!?」

なんとリンゴが少しずつ浮かび、アララギ·サイコの手の前まできた。

「すごい…、どうなっているの!!?」

ぼくはパソコンの画面から目が離せなくなった。

リンゴはそれからも浮かび続け、コップの真上までやってきた。

そしてアララギ·サイコが手を少しずつにぎると、それに合わせてリンゴもグシャグシャと少しずつ潰れてきた。そしてリンゴはやがて液体へと姿を変え、最後にはコップの中へと入っていった。

「す…すごいっ!!」

ぼくは思わず息をのんだ、これは超能力だ!仮にこれがトリックだったとしても、どんな仕掛けなのか想像がつかない。

「はい、リンゴが美味しいジュースになりました!さて、お味のほどは……クーッ、美味い!!」

気持ちよくジュースを飲んだアララギ·サイコは、みんなに言った。

「みんな、どうだったかな?超能力があれば、リンゴだけでなくグレープやナシなどいろんなフルーツを、道具を使わずにジュースにできるんだ!さらに超能力を磨けば、道具を使わずに料理もできる!!どう?興味がわいたかい!?もし興味がわいたら、チャンネル登録と高評価·そして『超能力塾』のホームページをチェックしてみてね!今回は以上、それではまたのオドロキをお楽しみに!!」

動画はこれで終了、七分くらいの長さだったけど内容はかなり面白かった。

この他にも「フィギュア同士を戦わせてみた」とか「電子レンジを使わずにチャーハンを温めてみた」など色々な動画があった、目を凝らして見てみたけど、やはり何かトリックがあるようには見えない…。

「野田くんの言う通り、この人は本物の超能力者だ…!」

そしてぼくは『超能力塾』に興味を持ち、検索して調べてみた。ホームページにアクセスすると、つい最近開設されたページのようだ。

「おっ、ここから近くのところでやっているんだ…?」

入会希望歓迎にゅうがくきぼうかんげい·見学けんがくのみでもOKという文言の下には申込み用紙の写しがあった、ぼくはコビー機で一枚コビーして、申込み用紙に必要なことを記入して、近所のポストの中へと入れた。




それから三日後、家に帰ると母さんがふうとうを持ってぼくに言った。

「ねぇ、これあなた宛に届いたけど、何か申し込んだの?」

「うん、ぼく塾に申し込んだんだ!!」

母さんはあっけにとられた、ぼくは母さんからふうとうを受け取って、自分の部屋へ入りふうとうを開けた。そこにはこう書かれていた。

『安堂俊介さん、この度は我が『超能力塾』の見学に応募してくれてありがとう!きみも奥深き超能力の世界へ足を踏み入れて、世界を変えてみようぜ!見学の案内は下の通りです、それでは見学会で会おう!


住所·愛知県○○市羽矢田町○番地548-3

日時·九月二十一日14:00  』




ぼくはうれしくなった、超能力をお目にかかれるなんてどんなにワクワクすることだろう……。

「おーい、俊介。何をウキウキしているのだ?」

どこから入ってきたのか、コハルの声が聞こえた。

「あぁ、コハルちゃん!実はものすごいものを見つけたんだ!」

「ものすごいもの?」

「その名も、超能力塾!!!」

ぼくが言うと、コハルは目を半開きにしてぼう然とした。野田くんから超能力塾の話を聞いたぼくのように。

「どう?おどろいたでしょ?」

「おどろいたと言うより、あきれているのよ…。そんなのみんなタネのあるウソに決まっているじゃない。」

「もちろん、ぼくも最初はウソだと思っていた。だけど、アララギ·サイコは間違いなく本物の超能力者だ!!」

「はぁ…、あのね?こういうのはお楽しみというものなの。ダンス教室やマジック教室は、みんなに楽しみを与えその見返りにお金をもらっているの。あなたが超能力塾をほめるのはいいけど、あんまり本物だと信じすぎるのはよくないわよ…。」

「それならコハルも動画を見てよ!そうすれば、本物だってわかるから!」

コハルはため息をつきながら、パソコンのYouTubeで『超能力塾』のチャンネルを見た。ひとしきり見て、コハルはぼくに言った。

「興味深いけど…、本物だと確証を得るにはもう少し見てみないとわからないわ。」

「だからコハルもいっしょに見てみようよ!」

「うーん……、そうね…。あたしも見てみるわ。」

「あっ、それじゃあコハルの分の申し込み用紙を印刷するね。」

「あたしのはいいわ、あたしは人目に見えないし。申し込んだところで、相手に見えなきゃ意味がないわ。」

そう言ってコハルは、ぼくのところから去っていった。





そして九月二十一日の十三時、ぼくは野田くんと一緒に超能力塾へ足を運んでいた。野田くんも同じ日に見学を予約していたようで、昨日いっしょに行くことにしたのだ。

「それにしても、八島は結局信じてくれなかったよな。」

「そうだね、動画は見てきたけど現実的にあり得ないから信じられないって…」

「八島はアニメが好きだから、こういうの信じると思っていたけどな……」

「まぁ、信じるか信じないかは本人しだいなんだよ。」

そしてぼくと野田くんは、超能力塾がある場所へ到着した。そこはアパートの三階の一室にあり、ドアの前には『超能力塾!』と貼り紙いっぱいにデカデカな文字が並んでいた。

「なんか、いかにもって感じだよな…」

「そうだね、とりあえず入ってみよう。」

ぼくがインターホンを押すと、YouTubeで見た格好のアララギ·サイコが出迎えてくれた。

「やぁ、いらっしゃい。見学の方だね、お名前は?」

安藤俊介あんどうしゅんすけです。」

野田蓮司のだれんじです。」

「えっと……はいはい、今日の14時の見学ですね。こちらへどうぞ。」

ぼくと野田くんはリビングへ通された。そこにはすでに男女六人がいて、全員子どもか若い人だった。ぼくと野田くんは見学用の席に座った、今回の見学者はぼくと野田くんを入れて三人だ。

「へぇ、小さな塾ね。」

コハルが部屋をキョロキョロしながら言った。コハルはぼくについてきて、超能力塾のインチキを暴こうとしているのだ。

「今のところ、おかしいところはないわね……」

コハルはアララギ·サイコを、よく目を凝らして見つめている。そして見学会が始まった。

「みなさん、今回はですね見学会に参加した方が来ています!みなさん、今までの成果を見せるときですよ〜…。それではまず準備のために、瞑想から始めましょう。」

するとみんなは、床に腰を下ろすとあぐらをかいて静かにした。

「さぁ、あなたたちも…。慣れなくてもだいじょうぶ。」

アララギ·サイコは優しくうながした、ぼくたちも瞑想をした…。

すると心が静かになって、まるで空に浮かんでいるような気分になった。

瞑想を終えると、いよいよ超能力の授業が始まった。

「今回は物を浮かせる練習からしましょう、今回はこちらの本を持ち上げてもらいます。」

アララギ·サイコはボロボロになった一冊の雑誌を持ち出した、それを生徒たちが手を使わずにイメージだけで持ち上げようとしている。

「おぉ、いい感じです!浮いてきましたよ!!」

一人の生徒が集中して雑誌を見つめると、雑誌が二ミリほどういていた。しかもそれから少しづつ浮いていき、五センチくらいの高さまで浮かばせることができた。

「はい、よくできました。さぁ、次は見学の方たちも挑戦してみよう!ということで、まずはきみから!」

「えっ!?ぼく!!?」

アララギ·サイコに指定されたぼくは、みんなの前でマンガ雑誌を浮かせることになった。

「んんっ!ん〜〜っ」

ぼくはマンガに力を送るイメージで、うなりながら見つめた。すると雑誌がなんと水平の状態で宙に浮かびだした。

「おぉ、いい感じだぞっ!!すごいすごい!!」

「ええっ!?安藤、お前超能力の才能があったんか!?すげぇ!!」

アララギ·サイコも野田くんたちも、ぼくと浮かぶ雑誌を見て歓声を上げた。しかし、マンガはすぐに机の上に落ちてしまった…。

「あー、落ちた…」

「でもすげぇーよ!初めてで、マンガを浮かせられるなんて、そういないよ!きみには超能力の才能がある!!」

アララギ·サイコはぼくのかたを持って、堂々とみんなの前で言った。みんなが大いに拍手するなか、コハルだけがあきれた目でぼくを見ていた。




そして見学が終わり帰ろうとしたとき、アララギ·サイコがぼくを呼び止めた。

「きみ、これから予定ある?」

「ないけど……」

「それなら、私と少し話をしないか?きみの超能力の才能を見込んで頼みがあるんだ!おねがい!」

「いいですよ。」

ぼくは二つ返事で聞き入れた、野田くんと別れたぼくは先ほど授業が行われた部屋へもどってきた。

「それで、話というのは……?」

「あぁ、ごめんね。話というのはきみにというわけじゃないんだ。」

急にアララギ·サイコの顔色が変わった。そして右手を伸ばすと、突然コハルが苦しみだした…。

「えっ、コハルちゃん!どうしたの!?」

「クッ……、あんたインチキじゃ……」

「そぅ、生徒がやっているのはインチキ。だけどオリジナルであるぼくはホントさ!!」

コハルはそのままかべにたたきつけられた。ぼくはアララギ·サイコに問いかけた。

「どういうこと…?生徒がやっているのはインチキで、あなたがホントって…」

「ぼくは超能力がつかえるだけじゃなく、人に超能力を与える能力がある。今君がいるこの部屋には、ぼくの術でぼく以外の人にも超能力が使えるようになっているのさ!」

「やはり…、あんたはやみ創造そうぞうの能力者ね!」

「その通り。ぼくは塾を開いて、この能力でバカな人たちから金をもらって、大もうけしているんだ。まぁ、夢をあげているから立派な仕事だけどね?」

そうか…、ぼくはダマされたんだ……。

全てがウソとわかり、今まで見た動画も『超能力の才能がある』とほめられたことも、その時のおどろきとよろこびがスゥ~と消えてしまった……。目の前の光景が、もやになって消えていくのを見たようだ。

「あんた……、よくも安藤を!!」

コハルが大鎌を取り出して、アララギ·サイコにおそいかかる。しかしコハルは、またもや動きを止められてしまった…。

「それじゃあ、安藤くん。行こうか」

「えっ、何を……」

何か言おうとしたぼくの口は開かなくなり、ぼくの体はストンと地面に倒れた。

そしてぼくは目を閉じてしまった…。








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