第6話スライドタウン
ぼくは今でもあの時のことを鮮明に覚えている、それはぼくがハザマを破壊したあの時だ…。
もうやられそうになったときに声をかけてきた、謎の人物…。それこそコハルやアマリオの言うあの方ということで間違いないようだ。
そしてアマリオはこうも言った。
「あの方はきみがコハルと知り合った時から、きみを見ていたと言っていた。きみは我々の力になると、あの方は確信していた。そして今回、それは証明されたのだ。これからも我々のために手を貸してほしい…!」
アマリオは僕の手を力強くにぎりながら言った。
ぼくはこれから、コハルやアマリオのため…そしてこの町のために、怪現象を止めるんだ!
「俊介〜、おつかい頼んでもいいかしら?」
ぼくが決意を決めたのもつかの間、一階からお母さんの声が聞こえた。
一階に降りると「牛乳とネギを買ってきて」と頼まれ、手さげ袋と千円の入った財布を渡された。
ぼくは家を出てスーパーマーケットへ向かった、小さい頃から通っているので迷わずにたどりつける…はずだった…。
「あれ…?こんなに遠かったっけ?」
通いなれた道を進んでいるつもりが、なかなかたどりつけない…。しかも歩いているうちに、ぼくはあることに気づいた。
「あれ…?ここは
ぼくは急いで来た道を引き返した、ところがぼくの家がある場所がなぜか更地になっていた。
「ええっ!?なんで!?」
ぼくは頭を抱えた、一体どうなっているんだ?
さらに町を見渡してみると、いつもと同じように見えて周りの建物が明らかにちがっている…。
「もしかして、
だとすればどこかにコハルたちがいるはずだ、ぼくはコハルたちをさがして走り回った。
するとまた眼の前に田畑神社が現れた。
「まただ…、本当にどうなっているんだよ?」
まるで土地がものすごい速さで動いているようだ。
「おーい、兄ちゃん!」
「あっ、章男!コハル!!」
ぼくはコハル·章男の二人と合流した。
「安堂くん、この町が変だということはもう気づいているよね?」
「うん、なんか建物の場所がいつの間にか変わっていたりするんだ。この田畑神社だって、さっきは別の場所にあったんだよ。」
「その通り、この町の建物全てがなぜかランダムに場所が変わっているんだ。そのせいで、町はパニックになっているみたいだ。」
すると辺りの建物がまた変わりだした、そして今度は近くにぼくの通っている学校が現れた。ちなみに本当の学校は、スーパーマーケットより少し遠いところにある。
「この現象を引き起こしている
「今回は自然発生型だから、能力者ではないね。だけどこれだけ大きい現象となると、場所はどこだろう…?」
町全体に広がる現象…、これを止めるのはかなり難しそうだ…。
「とりあえずあたしと章男で、もう少し調べてみるわ。安藤くんは早く家に帰った方がいいわね…。」
「でも、ぼくは…」
「まだどんな
コハルにうながされぼくはお使いを終わらせることにした、だけどコハルは最後に「あんたを頼りにしているわ」と言い残して、章男といっしょに去った。
お使いを終わらせ家に帰るときも、町の景色はコロコロと変わっていく…。
だけどぼくは歩き続け、ついにぼくの家にたどりついた。
「ただいま…」
重い足取りでげんかんに上がったけど、母さんはいない…。どこか出かけていったのかな?
だけど一時間経っても母さんは帰ってこない…、こんなに長い用事なのかな?それとも……!?
そう思っていると、家の電話が鳴った。
「もしもし?」
「もしもし、俊介?母さんだよ。」
電話の声は母さんだった。
「母さん、どうしたの?」
「実はお金の引き出しで銀行へ出かけていたんだけど…、道に迷ってしまったみたいなの。」
「えっ!?道に迷った!?」
「そうなの、自分でも信じられないんだけど、どこにいるのかわからないのよ…。俊介は道に迷わなかった?」
「ぼくも散々迷ったけど、なんとか家へ帰ってきたよ。」
「それはよかった。とにかくあたしが帰ってくるまで、外へ出ちゃだめよ。」
そして通話は切れた。
それからさらに数時間が過ぎ、辺りはすっかり夜になった。
そして午後七時、やっと母さんが帰ってきた。歩き続けたのか、かなり疲れた表情だった。
「やっと、帰ってこれた……」
「よかった…、大変だったね。」
「もぅ、何が起きているのか意味不明だわ…。悪いけど、今日はもう寝るね…。夜ご飯は、冷凍食品を温めて食べて」
母さんはそう言うと、脇目もふらずに一階のベッドへと向かっていった。
それから夜ご飯を食べ、見たいテレビ番組も見て、もう寝ようと思っていた時に父さんが帰ってきた。
「やっと、帰れた……」
「おかえり、父さんも道に迷ったんだ。」
「あぁ、なぜか周りの景色がいつもとちがっていたんだよ…。それであちこち歩いていたら、こんな時間になってしまった…。」
「母さんも迷ってしまったって言っていたよ、それでやっと帰ってきて、今は寝てる。」
「そっか、しかしこの町はどうなっているんだ?」
父さんは訳がわからず首をかしげた。
翌日、起きて一階へ降りるとリビングの窓の前に両親が立っていた。しかも二人とも呆然とした表情になっている。
「母さん、父さん。どうしたの?」
「おおっ、俊介か!それがどうも大変なことになってしまったみたいなんだ。」
「何が起きたの?」
「窓の外を見て!」
ぼくは窓の外を見た、すると明らかに今までと建物がちがっていた。
「ええっ!?これはいつもとちがうよ!何がおきているの?」
「もう、本当に意味がわからないわ!」
この出来事はテレビのニュースにも取り上げられているけど、どうしてこうなるのかについては、まだわからないようだ。そしてこの町全域に、外出を控える警報が出された。
「ただいま、不可解な現象が起きています。町民は外出を控えてください。今日はこの町の全小中学校は特例として臨時休校にします。」
警報を聞いたぼくたちは、自宅待機することになった。
「とりあえず、家から出なければこの騒動は時期に収まるわ。」
「しかし、とんでもないことになったな…。」
「そうね、食材が切れかけていたから買い出しに行く予定だったのに…。いつまでこの状況が続くのかしら?」
母さんと父さんは不安気な表情になった。
ぼくは二階へ上がって、自分の部屋に入った。その時、突然大きなゆれに襲われた。
「うわぁっ!」
家全体がゆれるほど大きなゆれだ、そしてゆれはすぐにおさまった…。
「俊介、無事か!!?」
父さんが二階へ上がってきた、ぼくは「大丈夫」とうなずいた。
「よかった…、それにしてもさっきのゆれはなんだったんだ?」
ぼくは窓の景色を見た、なんとすぐ近くにぼくの通っている中学校があった。
「あれっ!?学校がこんな近くに…!?」
「ほんとだ、一体どうなっているんだ……?」
父さんは手をおでこに当てて、一階へと降りていった。町が何度も姿を変えていくこの状況…、早くどうにかしないと……!
「おーい、安堂くん!」
そんな時、窓からコハルが入ってきた。
「コハル、一体どうしたの!?」
「早く来て!早くこの
コハルの表情で、ただならぬ事態が起きていると理解した。
「うん、行こう!あっ、でも玄関は親がいるから出られないし…。」
「窓から出よう!」
こうしてぼくはコハルに連れられて、家の窓から外へと出ていった。
窓から外に出たぼくは、なんとドラゴンの背中に乗って空を飛んでいた。
「うわぁ、本当にドラゴンの上に乗ってる!!」
「このドラゴンはあたしたちの相棒よ、空を飛んで移動する時や、敵と戦うときに心強い味方になるのよ。」
「へぇ、すごいなぁ…。ところでこのドラゴンは、どこへ向かっているの?」
「町の公民館よ、あそこに
この町の公民館は、あまり行ったことのない場所だ。たまに地域のお祭りでみんなと行くぐらいしか立ち寄らない。
「ただ、公民館もあちこち動いているみたい…。早く場所を見つけないと…!」
「あっ、公民館だっ!!」
ぼくが指をさす方を見ると、そこに公民館があった。ただいつもの場所ではなく、かなり町の端に近いところにあった。
「ここが、町の公民館ね。」
コハルがドラゴンから降りて中へ入ろうとしたが、なぜかトビラが開かない。ここは自動ドアなので簡単に入れるはずなのに…。
「ダメだ、闇がトビラを固く閉ざしている…。」
「そんな、一体どうすれば…?」
「安藤くん、ドラゴンから降りて離れよう。ドラゴン、いける?」
ぼくはドラゴンから降りてコハルといっしょにその場を離れた。するとドラゴンが口を開けて、火炎を吐き出した。
「えええっ!?公民館ごと焼いちゃうの!?」
「もう、この際なんでもいいわ。これでうまくいけばいいけど……」
そして公民館は燃え上がった。すると燃え上がる公民館の中から、黒い球体が出てきた。
「出たっ!
コハルは大きくジャンプすると、大鎌で一気に球体を切りつけた。そして球体は真っ二つになって、すぅーと消えてしまった…。
「やったーーっ!これで解決だね!」
ところが…、町は元にもどらない。それはコハルもすでに気づいた。
「そんな…、一体何が起きているの?」
どうして町が元にもどらないのか…?考えていると、ぼくの頭の中に呼びかける声が聞こえた。
『今回の
この声はぼくが聞いたあの方の声だ、ぼくはこのことをコハルに伝えた。
「あの方の声が聞こえたんだ、どうやら
「どういうことかしら……?この町のどこかに
「わからない…、けどこの事態を解決するにはもう一つ
ぼくとコハルは、もう一度ドラゴンに乗って空へ飛び上がった。もう一度くまなく見下ろして見るけど、
見下ろしている間にも、町の家々の場所が変わっていく。それはまるでスライドパズルのように、家というピースを動かされている。
「どこにあるんだろう…?」
動く家…家…家…!?
その時、ぼくの頭にヒラメキが走った!
「そうだ、地面だ!家の下の地面に
「地下ね…、確かにそうかもしれないわ。いいところに目をつけたわね。」
「だけど、地面の下をどうやって探したらいいんだろう…?」
「それならいい方法があるわ」
ぼくとコハルは公園にドラゴンを着陸させ、ドラゴンから降りた。そしてあの右手のうずまきで、仲間に連絡した。
「あぁ、聞こえてる?今から地面の下を掘って、
そしてコハルが連絡してから二十分後、アマリオが何やら巨大なドリルと一緒に現れた。
「おまたせ、まさかこれを使うときがくるとは…。」
「これは…?」
「これはメガ·ドリルだ、スイッチを押すとすぐに穴を掘ってくれるんだ。」
「すごい!では早速使おう!」
「待て、どこに
「どうやって突き止めるの?」
「私の魔術で闇の場所を突き止めてみよう。」
アマリオは目をつむると右手の指先をおでこに当てて、呪文を唱えだした。そして目を見開いて言った。
「
「この町の下全域って、どういうこと…?」
「この町の地下に、この町と同じ広さの
「だいじょうぶ、ぼくに任せて!」
「君一人では大変だ、私が力を貸そう。」
こうしてぼくとアマリオは、作戦を開始した…。
メガ·ドリルで穴を掘り続けること数十分、ついに
「ついに見つけた、しかしこれほど大きいのは初めて見るな……。」
「よーし、すぐにぶっ壊してやるぞ!」
ぼくが気合いを入れると、すぐにあの鎧がぼくに装着された。体にエネルギーが満ちていく…。
「よし、私も行くぞ!」
アマリオも呪文を唱え、攻撃の準備をする。そして一気に力を放った。
「デストラクション·フルエリア!」
「魔壊滅波!!」
そして町の地下にある闇を一気に消し去った……。
地下の闇が消えたことにより、ぼくの住む町はようやく本当の姿を取り戻した。両親もみんなも町が元に戻ってようやく落ち着きをとりもどした。
「全く、さっきまでの出来事はなんだったのかしら?とにかく元に戻ってよかったわ…」
「そうだね。」
「それにしてもこの町の怪現象って、本当になんなのかしら…?変なことばかり起きてイヤになるわ。」
するとインターホンが鳴った、お母さんが出て少しするともどってきた。
「お母さん、だれから?」
「近所の
ぼくはフーンと返事をした……。
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